46.ヒロインなんですが私は子どもでもあるのです
「はぁはぁ……ここだ。……着いた」
息を切らしながら町はずれにある小さな家に辿り着いた。
家のすぐそばには小さな畑もある。田んぼはもっと先なのだろうか。
畑には整然と沢山の野菜が植えてある。綺麗な畑だ。きちんと整備されていて、きっちりと一列だったり二列だったり、規則的に野菜が並んでいる。
「この畑見るだけでものすごい実家みがある」
「ほんとだ、うわ懐かしー。今の時期ならやっぱりこれだよな」
大きなかぼちゃを指差しながら、ヴィオレが嬉しそうに言う。
これはさつまいもの葉っぱだ。葉が裏返しにされている、そろそろ収穫するのだろうか。何列も葉が裏返されたさつまいもの列がある。
小さな家の煙突からは、少しずつ薪の煙が立ち上っていた。人の気配がある、ということは確実にあの中に母かもしれない人物がいるのだ。
胸の鼓動が強く早くなる。
「なんか……確かめるの、怖いね」
「……そういや、どうしような」
「え? 何が?」
「いや、母ちゃん達か問題もあるけどさ。そもそも、前世の記憶があるか。人違いか。色々あるじゃねぇか、懸念事項って。急に前世の親かとかも言いにくいし」
「あ、たしかに……」
「なんか不審者って思われてもなって……」
「うーん……まずは、覗いてみる? どんな人か見てみようよ」
私は小さな家の窓を指差した。
会いたい、という気持ちだけで突き進んできてしまったが、実際どうやって話しかければ良いかを考えてこなかった事に気が付いた。たしかに、母じゃなければ気まずいよな……。この世界の宗教観は勉強してこなかったタイプの公爵令嬢だったからよくわかんないし、もしかしたら前世とか話したら異端扱いされてしまうかも……。
私たちはそっと家に近づき、ばれないようにそっと小さな窓から家の中を覗き見る。
そこには衝撃の光景があった。
「あれ……?」
「いや、まんま母ちゃんいるんだけど!?」
窓から中をのぞくと、容姿自体が完全に前世の母そのものの人物がテーブルの上の皿を片づけているのが見えた。
西洋風の顔立ちが当たり前のこの世界で、見紛うことなき「日本人」の顔をした中年女性がいるなんて、どういうこと!?
あぁ、もうフルグレわからん。頭くらくらしてきた。
家の人物を気にしながら、ヴィオレの耳元でバレないくらいの精一杯の音量で叫ぶ。
「これ絶対に母ちゃんだよ!!」
「いや、まだわかんねぇぞ。奇跡に奇跡を重ねて、実は別人とかもあるかもしれねぇし」
「なくない!? 逆にどんな奇跡よ! これで違ったら、それはそれでおかしいでしょ!」
真剣に家の中を見るヴィオレ。
ヴィオレは少し心配症で慎重なところがある。
でも、これで違ったら……と慎重になってしまう気持ちは少しわかるかもしれない。結局、私たちは絶望したくないのだ。
しかし、そんな不安を消し去るような秘密兵器を私は持っているのである。
「わかった……じゃあ、こうしよう」
私はニヤリと笑い、あるものを取り出した。
それを見て、ヴィオレはハッとした顔をする。
「まさか、それは……」
「これではっきりするでしょ」
この秘密兵器で、私たちの懸念を消し去ってしまおうじゃないか。
私はふわりと首に巻き付け、さらにスチャっと装着をした。
これで、母なら私たちだと分かるはずだ。
***
秘密兵器を装着した私達は緊張しながらも、扉をトントンとノックをした。
反応が無かった為、中に居るはずなのに? としばらく反応がなかったので、再び窓から覗き見る。お皿を洗っているようだ。水の音で聞こえないのかもしれない。
仕方ない、ではここでやろう。
私とヴィオレは、視線を交わし、無言で頷いた。
「ふ~ふん~♪」
「ふ~ふん~♪」
二人で少し大きめの音量で鼻歌を歌い始める。
水の音が少しして止んだ気がした。足音がドンドンドンと早いリズムで近づいてきて、扉が開いた。
母によく似た人物が、濡れたままの皿を持ったまま、私たちを見て固まる。
「ふふん~♪」
「ふ~ふん~ふ~ん♪」
ヴィオレが片膝で立ち、私は立ったまま二人で少しななめ上を見ながら微笑む。そして、晴れた空に向かってまるで舞い落ちる雪をそっと手の平に招くように、柔らかく両手を広げた。
前世でよく二人でふざけて母に見せていたモノマネだ。母の大好きな韓国ドラマの俳優ロン様の真似をして母に怒られそうになると見せて回避していた鉄板ネタ。これをやれば母なら一発でわかるのでは、と二人でマフラーとメガネを装着したのである。
話が盛り上がったら、やったら面白いかも、と持ってきただけだったのだが、意外な使い道があって良かった。
さぁ、これで笑えばきっと母に違いない。
私たちはフルコーラス歌い終わり、パッと見る。
母によく似た女性は私たちを見たまま、固まったまま動かないでいた。
……これは、母じゃない。
「いや、前世云々の話をした方がまだ良かったんじゃねぇ!?」
固まったまま動かない女性を見て、ヴィオレが私に向かって慌てたように叫んだ。
「そうだね、ごめんね!! 急に歌いながら斜め上見るポーズ決めて入ってくるのおかしいよね、よく考えたら!!」
「あぁ、もうだからねぇちゃんに任せるのって嫌なんだよ!」
「同罪だから!! 止めなかった時点であんたも同罪だから!! あの、すみません……えぇっとこれは宴会芸で、あの……おにぎり美味しかったお礼で……その……」
二人で醜い争いを繰り広げながらも、女性に必死に言い訳をする。
女性は固まったままだったのに、更に持っていたお皿をごとりと落としてしまった。
あぁ、やばいやってしまった……「怪しい者ではないです!」と二人で叫ぶも、女性はじっと私たちを見つめたまま石のように動かないままだ。
そのうちぽつりと呟いた。
「花穂……? たける……?」
女性はつーっと涙を流しながら、私たちの名前を呼んだ。
前世の名前を聞いた私たちは、顔を見合わせる。
「やっぱり母ちゃんだ!!」
私たちがそう言うと、母が泣きながら私たちに駆け寄り、強く強く抱きしめた。そして、「お父ちゃん!! 花穂とたけるがいたよ!!」と叫ぶ。
部屋の奥から男性が駆け寄ってくるのが視界の端に見えた。父だ。きっとあれは父だ。
久しぶりの母のぬくもりを感じながら、私もいつの間にか母の胸を濡らしてしまっていた。
読んで頂きましてありがとうございました。
お野菜作りは大好きなのですが、小さな畑でもとっても大変なんですよね。
農家の皆さんを本当に尊敬しています。
あとすみません、21時頃にまた更新します。
また読んで頂けますと嬉しいです。
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