44.ヒロインなんですが攻略対象にドキドキしました
ローランが来た後すぐにクロトンもや生徒会室にやって来て、少しずつ話し合いが始まった。
「生徒会ってこんなこともやるんだねー」
「ね、まさか私も遠足の場所まで決められると思わなかった」
「ローランが色々手を出し過ぎるからだ」
「いや、せっかく権限があって皆がやりたいものがあるならそうしたいじゃないか。ごめんね、いつも付き合わせて。そんな睨まないでくれよ、セージ」
皆で紅茶を飲みながら、少しゆったりと雑談をする。学業後、しかも週末にこういった作業はやはり少し疲れるようで皆スタートダッシュが今日は遅めだ。
しばらく談笑した後に、さすがに始めるか、とセージがソファに沈み込んでいた体をゆっくり起こして、立ち上がった。
「ヴィオレがまだ来ていないようだが、まぁ候補地くらいは挙げておこう」
セージが紙を持ってきて、まずは遠足の候補地の書き出しを最初に行う事とした。
セージが書きだそうとするも手が止まる。外交関連の知識はあっても、実際生徒の遠足に適したところとなると思い浮かばないようだ。
実際の街の様子をよく知っている、となるとやはり適任者は彼。
「ねぇ、クロトンならこういうの得意そうじゃない?」
「あぁ、そうだね。近場でいけるとすると、ここら辺になるのかなぁ……」
クロトンがセージからペンを受け取って、さらさらと候補地を書いていく。
さすが劇で回っていただけあって、すごいスピードで候補地を列挙していくクロトン。候補地の横には、おすすめの観光スポットや名産品まで記載していくものだからすごい。仕事ができる。
「……すごいな」
「僕、10歳まで劇団でよく色々な街を回ってたからさ」
「なるほど、そこの知識があるわけか。やっぱり、クロトンに生徒会に入ってもらって良かったよ」
「あはは、光栄です殿下」
「あぁ、生徒会だしここではローランでいいよ。敬語もいらない。これから長い付き合いになることだし」
「じゃあ、気軽に。ローラン」
……スマートだ。やり取りがとても。思わず感心してしまう。
考えてみると、攻略対象キャラなだけあって皆頭もいいし、スマートだし、顔は良いし。なんだか私すごいところにいるなぁ、と改めて思い直しているところに、バァン! と激しく扉を開く音が生徒会室に響いた。
「おい、アイリス! 見つかったぞ、漬物とおにぎりの出所が!!」
嬉しそうに言うヴィオレに私も急いで駆け寄る。
「ほんと!? どこどこ!」
「……あ、ごめん。なんか話し合い中だったか」
「あぁ、いいよ。気にしないで。今遠足の候補地について話し合いをしているんだ、休み中に皆で下見に行きたくて。今候補地を出して、絞ってる段階だから何かあるなら話してていいよ」
ローランにそう言われ、ヴィオレと私は小声で少しの作戦会議をした。
「フェスタンっていうところだ。 隣の小国だよ、すぐいける距離だ」
ヴィオレが簡単に説明をしてくれた。
まず、フェスタンはのどかな田舎町の小国で、元々農家だった両親ならまず居そうな場所だ。
調べるのに時間がかかったのも、軽食名は『女将のきまぐれリズセット』という名前だったかららしい。おにぎりも米もご飯も引っかからず、もう聞き取りに聞き取りを重ねて、ようやくこれではないかというものが見つかったらしい。
嬉しさのあまり、ヴィオレの手を強く握り、ぶんぶんと上下に激しく揺らして喜びを分かち合った。
「ありがとう、ヴィオレ……これでようやくはっきりするね」
「あぁ、行ってみよう。二人で。明日にでもすぐに」
「うん!」
そして、生徒会の話し合いに戻る為にソファに各々が座ると、リストの中の地名に沢山の斜線が引いてあり、そこには『フェスタン』も引かれていた。
驚いて思わず身を乗り出して、リストの中のフェスタンを指差した。
「え、なんでフェスタンはだめなんですか?」
「あぁ、この国は今治安が悪化しているんだよ」
「え!?」
ヴィオレと二人、顔を見合わせる。
ローランが静かな口調でそのまま説明を続けた。
「今年は長雨もあって作物の出来が悪いみたいで、食料の国内流通も難しくなっているらしくてね。うちからも寄付をしたりしているんだけど、量が足りないらしくて治安が悪化気味らしいんだ。となると、生徒が行くには不向きかなって。今後の情勢がどうなるかも分からない今の段階で決めるのもね」
ローランの言葉を聞いて、再度ヴィオレと顔を見合わせた。
もし両親に何かあったらどうしよう、と思うと気が気でなくなる。治安が悪化とは、両親は無事なんだろうか。どのような状態なのか。
頭の中でぐるぐるとそんな心配事が駆け巡る。私とヴィオレがしばらく黙り込んでしまったところに、クロトンが手を軽く挙げて発言をした。
「ねぇ、結構候補地出したじゃない。この遠足地計画って、セージのリフレッシュも兼ねてるんでしょ? だったら、もっと計画立てて連休中に行くことにしない? 急に明日明後日って言っても、どう回るかとか回る順番も行き当たりばったりで非効率になりそうだし」
私がパッとクロトンを見ると、私ににだけ見えるようにこっそりウインクをしてくれた。
もしかして私たちの為に提案してくれたのかな……。
ローランはクロトンの話を聞いて、頷いた。
「あぁ、たしかに。それもそうだな。連休中私もセージもあいているし、ヴィオレたちは?」
「大丈夫です!」
「俺もいける」
「じゃあ、来週の連休にしよう。ある程度絞って来週最終的な候補地を確認して、連休中に行く場所を決めることにしよう。もう遅いし、皆疲れているだろうから今日は解散にしようか」
そうローランが言って、生徒会はお開きになった。
クロトンが食器を片づけたり、セージとローランが話し書いたものを整理したりしていたところ、私はまだフェスタンの治安悪化ということで頭がいっぱいでしばらく動けずにいた。ヴィオレも同様に。
カップを流す水の音でハッと我に返り、クロトンの元へ駆け寄った。
「クロトン、あの……」
話しかけようとすると、クロトンは私に気が付いて手を止めた。
そして、顔をずいっと近付けて、にこりと笑う。
「何か気になる事があるんでしょ?」
前世の事なんて言えるわけがない為、なんと説明したらいいか分からず、言葉に詰まってしまった。そんな私を見て、クロトンは小さな声でふっと、強張った空気を溶かすように笑いながら言う。
「豊穣祭の時から様子がおかしかったし、わかるよ」
「そっか……そうだよね、あのときはごめんね」
「ううん。アイリスには色々助けてもらったからね。今度は僕が助けたいんだ。小さなことだけど」
「そんなことないよ! すごく助かった、ありがとう」
クロトンがそんな風に思っているとは知らなかった。
でも、そうやって思いやってくれることは、ずっと落ち着かない日々のせいで疲れて固くなっていた心にじんわりと染みる。
クロトンがふわっと笑って、さらに続けた。
「ヴィオレがいるなら大丈夫だろうけど、気をつけて行ってきてね」
そうやって言うと、またカップを洗う手を動かし始めた。
私はタオルを手に取り、洗い終わったカップを拭き上げる。
こんなに気にかけてくれるなんて、もしかして私とクロトンの距離は思ったよりも近づいているのだろうか。隣に立ちながら、なんだか少しドキドキしてくる。
すると、クロトンが私の耳元に顔を近づけてこっそりと小声で聞いてきた。
「ねぇ、二人って付き合ってるの?」
「ない! 絶対ない!!」
「なーんだ、すごい仲良いから絶対そうだと思ってた」
そう言って大きな声で明るく笑うクロトンを見て、あ……恋愛ルートでは絶対に無いのか、と改めて釘を刺されたような気分になった。
私が誰かに攻略される日、攻略できる日はくるのだろうか。うーん、少し気が落ち込む。
とにかく、明日……気持ちを切り替えてフェスタンに行って色々な事、調べてみよう。
読んで頂きましてありがとうございました。
本日は朝と夕方に更新します!
綺麗な袴を来た子が歩いて居たり、集団で学生さんが仲良さそうに歩いている姿を最近よく見ますが、ご卒業されたのですかね(もうとっくにすぎているのでしょうか……)
ご卒業おめでとうございます。
もうすぐ新年度ですね、忙しい日々を過ごされている方も多いかと思いますが、お体に気をつけてくださいね。




