43.ヒロインなんですが天才との相性は悪めです
「ちがぁーう!! だからそこはもっとこう、ズバァーンって感じなんだよ!」
「それじゃ分かりませんよロベリアン様!!」
もう最悪だ。
魔法の授業が始まって早1週間。なんの進捗もなく、時間だけが過ぎている。
天才による天才のための天才の感覚で伝えらえる学びは凡人である私には恐ろしいほどに意味が分からず、全く進歩しないまま1週間が経った。
しかし、嬉しいことに少しでも魔法を使うと非常に体が疲れて、急に痩せるペースが上がった。私は魔法を使うとぐっと体重が減るタイプだったのかもしれない。疲労で食欲も少し落ちているせいもあるのかもしれないけど、まぁでも結果オーライということで。
「なんでお前こんなこともできないんだよ」
「ロベリアン様の天才感覚の教え方じゃ分かるもんも分かりませんよ」
「俺の教え方が悪いって言うのか!!」
「あぁ、もうこの夫婦喧嘩みたいなやり取り1週間ずっとじゃないですか! はいはい、私が悪かったです!!」
ある程度うまくいかない時間がくると、いつもこうだ。こんなやり取り。
どっちが悪いのかという夫婦喧嘩みたいなやり取りをして収集がつかなくなって、私が謝って終了。この無駄な時間を何度繰り返せば良いのだろうか。
ロベリアンはティアーユ様と違って、見た目と言動がほとんど同じの中学生だ。
だから、うまくいかなかったら怒るし、喧嘩のようになってしまうし、酷い時は不機嫌になられて出て行かれてしまったりとただただ時間だけが過ぎていく。
そして、そんな調子なので恐ろしい程上達しない。
普通クラスのコルザさえ、「あ……まだそこなんだね」と言った後に、光属性で珍しいんだからしょうがないと熱のこもった励ましをしてくる程何も進んでもいない。
ロベリアンは疲れ切った顔で私を見ながら、呆れた調子で呟いた。
「なんでお前そんなに下手なんだよ」
「……ごめんなさい」
もっと分かりやすく教えてくれれば、私だって! なんて言おうものなら、また部屋を出ていってしまうだろう。私はぐっと抑えながら素直に謝った。
マンツーマンで教わっているから、周りと比べることもできないし、実際私の出来が悪い可能性もあるんだし……。
ゲームだとコマンド入力でやってたから、魔法を使う感覚ややり方なんて考えたことがなかったが、こんなにも難しいものだったのか。この基礎魔法だって、『→←R1』だったのは覚えてるけど。
あーもうゲーム位簡単だったらいいのに!
私はやけくそになって、腕をコマンドの通り右や左へ、R1ボタンなら斜め右に、それぞれの方向に思い切り腕を振り上げると何故か魔法がきちんと発動し光の玉が放たれた。
「うわあああ、よくわかんないけどできたああああ!!」
「変なポーズだけど、よくできた! その感覚を忘れるなよ! もう1回やってみろ」
そう言われて、とにかくコマンドの通りに魔法を放っていくとほとんどが成功をしていく。
いいぞいいぞ! と興奮したようにロベリアンが声をかけた。
そういえば、ゲーム内で『魔法はイメージが大切だ』ってファビアン先生が仰ってたけど、こういうことだったの? コントローラーをイメージすべきだったの?
もう分からないフルグレ……ゲームの時は超ゆるゲーだったのに、転生してきたら全然ゆるくないんだもん。
魔法がうまくいった事に嬉しくなったのか、ロベリアンは久々に嬉しそうな声で言った。
「よし! 今日はここまでにしてやる。来週からまた頑張れよ」
「はい! ありがとうございました」
私はぺこりと頭を下げて、生徒会室に急いだ。
ロベリアンに何か言われる前に早く逃げなくては。
***
それにしても疲れた……。
魔法を使うとなんでこんなに疲れるんだろう。
今日は最後の授業だったから良かったけど、体力が足りないのかな……。一応学校がお休みの日はプールで泳いだりエクササイズもしているし、朝か夜どちらかは走ったりもしているんだけど。
くたくたでぐったりとしながら生徒会室の扉を開けると、珍しくセージだけが生徒会室に居た。
何やらセージもげっそりとした顔をしながら、ソファに深く沈みこんでいる。
「ど、どうしたの」
「あぁ、お前か……いや、実は……」
セージはそう言った後、しばらく黙った。
だいぶ待ったけど、何も言わないまま眉間の皺だけ深くなっていくので、とりあえず紅茶を淹れることにした。
セージの分も淹れて目の前に置き、私はセージの向かいに座って続きの言葉を待つ。そうすると、セージは、重い口をようやく開いた。
「……書けない」
「書けないって……え、小説のこと!?」
「うむ……あぁ、紅茶をありがとう」
そう言うと、ゆっくりと紅茶を飲むセージ。熱いはずなのに、ぼんやりとカップに口をつけたまま静止している。以前は熱い! とブチ切れていたのに、瞬き一つしないで死んだ魚のような目で呆然としている。これは重症だ……。
「いえいえ、どういたしましてっていうか……小説家ってよく書けなくなるものじゃないの?」
「こんなことは初めてだ」
「逆にすごいね!?」
やはり天才恋愛小説家は次元が違うのだろうか。
たしかにコンスタントにずっとシュクレの作品を読み続けていた気がする。
なるほど、初めてのスランプというわけか。そういえば、ミルティーユから話を聞いたり、何かメモを取っている姿を最近よく見ていたような。あの頃からずっと悩んでいたのか……。言ってくれたら良かったのに、と思うけどセージの性格を少しずつ分かってきた私としては、まぁ言えないよなと変に納得してしまった。
不器用でちょっとプライドが高いセージのことだ。むしろ今私に言えてしまう程、悩んでいたということなのかもしれない。
「そっかぁ、初めてのスランプなんだね。そういう時ってリフレッシュが大事なんじゃないかな? 何か好きなことはない?」
「特に……」
「じゃあ、いつも何して遊んでいるの?」
「遊ぶ……? 遊ぶ……」
そう言うと、セージは何やら難しそうな顔をして考え込んでしまった。
もしや遊んだことないなんて言わないよね、とそわそわしながら回答を待っていると、セージが気付いたように言った。
「そういえば、遊ぶといったことは特にしたことがなかったな。読書はしていたが」
「そ、そっか。うーん……どっか遊びに行くとか旅行とか、場所を変えてみるとかもいいかも。ほら! そろそろ連休もあるし」
「うーん……」
私も作家経験はないし、思いつくリフレッシュ方法しか思い浮かばない。
うーん、と二人で頭を抱えていると、ガチャリと生徒会室のドアが開いた。
「あぁ。セージ、アイリス嬢。良かった」
入ってきたのはローランだった。ローランが入って来るなり、私たちの顔を見てほっとしたような顔をする。
「どうしたんですか? 殿下」
「最近、遠足地のアンケートを取っただろ? 近場でつまらないし、親しみがあり過ぎるから違う場所が良いって声が多くてさ。どうしようか悩んだんだけど、場所を変えるなら案を出して下見まで行けたら良いなと思って。明日は学校も休みだし」
渡りに船とはこのことだ。
ローランの提案に私は目をキラリと輝かせた。これは、イベントの匂いもする。
読んで頂きましてありがとうございました。
本当に奇遇なのですが、セージのスランプの時期と私も次展開をどう進めるかちょっとスランプ気味で、いつもより筆の進みが遅かったんです。
そんな時に心優しい方に評価やブクマをしていただき、嬉しくなってさささーっと書けてしまいました。
ありがとうございます!
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