42.ヒロインなんですが凄い人と知り合いでした
「久しぶり……?」
「あぁ、ごめん。アイリスは覚えていないかもしれないね」
「えっと……」
少し寂しそうに私を見ながら首を少し横に傾げた。覚えていないことが申し訳なくて、言い淀んでしまう。覚えていない、ということは幼い頃にでもあったのだろうか。
というか、ロベリアンを孫って言ったってことはこの男の子も、ロベリアンのようにかなりの年齢を重ねているという事だろう。こんな男の子に会った事あったっけ。
頭の中でぐるぐると考えるも、どうしても分からない。
一方、ティアーユという少年を見ながら、ヴィオレは口をパクパクさせながら、慄いている。
「ていうか、あの……ティアーユ様ってもしかして……」
「あぁ、大司教様だ」
ローランが静かにそう言った。ヴィオレがピシっと姿勢を正すと、「あ、気楽にしていいよ~」とのんびりした声が返ってくる。
ティアーユ様は私にまた向き直り、微笑みながら話を続けた。
「アイリスが生まれた時と、洗礼の時に二回ほど会っているんだ。まぁ、洗礼の時は色々とバタバタしていたから、どちらも覚えてないと思うけど」
「は!? お前、大司教様に洗礼されたのかよ!?」
「そうみたい……」
「大司教様に頼むとかお前の親はどうなってんだ……」
ヴィオレが呆れながら私を見る。うーん……お父様のことだから無理やりなんとかしたのかな。教会に多大な献金をしたりして。
そんなヴィオレを見て、ティアーユ様がカラカラと笑う。
「あはは。確かに、フルール公爵の娘の溺愛具合はすごいけど、フルール姉様以来の光属性だからね。祝福を受けているし、私が出るのは必然だったかもね」
「あぁ、そっか。そうだ、アイリスって女神の祝福を受けた子だったわ。あんまりそんな感じしなかったから忘れてた」
「失礼ね。……まぁ、私もそうだけど」
そう、あまりに凡庸よりちょっと下な人間なので忘れられてしまっていると思うのだけど、私一応女神の祝福を受けた女の子なんだよね。私自身も忘れてしまいがちなんだけど。
そこで急にヴィオレがピタっと固まった。
「……ん? フルール”姉様”?」
「あぁ、フルール様がいらっしゃった頃から生きているからね。まだ幼い子どもではあったけど」
「えええええええええええ!!」
「すげえええええええええ!!」
「あ、これあんまり言っちゃいけないんだった。他の人に言っちゃだめだよ」
「そんなぺろっと大事な事を言わないでください!」
てへ、っとお茶目に笑うティアーユ様に全力でつっこみをいれるも、ころころ笑って受け流される。子どもにしか見えない見た目だけど、このおおらかさと落ち着きの様子は確かに見た目と反して年齢を重ねた老人のそれだ。違和感がすごい。
とにかく、話すなら少しゆったりお話をしよう、と皆で応接用のソファに座る。飲み物はさっとヴィオレが淹れて、皆で席に着いた。先ほどまで生意気だったロベリアンは借りてきた猫のように大人しくなり、私の隣にそっと座る。ティアーユ様の近くには行こうとしないところを見ると、やはりあの生意気なロベリアンでもティアーユ様には敵わないのだろうか。すごいなティアーユ様。
私は思い切って少し気になっていたことをティアーユ様にお伺いした。
「あの……ティアーユ様っておいくつなんですか?」
「うーん……1000は軽く超えているはずなんだけど、正直いくつかわ忘れちゃったんだよね」
「1000!?」
「あはは、若く見える? 嬉しいな」
そんな50代の母が10歳若く見間違えられて嬉しかったわみたいなテンションで言われましても……。
私とヴィオレがあんぐり口を開けたまま、ティアーユ様を見ていると、ティアーユ様は少し得意げになって言う。
「うちの家系は長寿で見た目が年齢より若く見えるからね」
アンチエイジングじゃ済まされないレベルなのに軽々しくそんなことを仰るティアーユ様。さきほどから出る話題が凄すぎて、もう見た目が異常に若いくらいなんともなく感じてきてしまう。
あまりにも壮大過ぎる情報を入れられてぼうっとする私とヴィオレを尻目に、ティアーユ様は一口紅茶を飲んだ。そして、申し訳なさそうに私とローランを見ながら話を始めた。
「本当は私が直接教えたかったけど、大司教としての仕事が忙しいのと、大司教っていう役の人間が一人の人につきっきりっていうのもアイリスの負担になりそうだったからね。だから、ロベルに任せたんだけど。この不出来な孫が手紙を送っても連絡をよこさなくて。確認したら、ここに居るって言うからさ。来てしまったんだ。すまなかったね」
「別に孫でもねぇだろ」
「親類関係なんだから、良いじゃないか。孫で」
やはりティアーユ様には敵わないらしく、キャンキャン吠えていた先ほどの様子とは打って変わって大人しく呟くロベリアン。親に反抗する中学生の男の子にしか見えない。
ティアーユ様は私に微笑んだ。
「生意気だけど、悪い奴じゃないから。仲良くしてあげてくれると嬉しいな」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
「はは、やっぱりアイリスでよかったよ」
ティアーユ様は満足そうに微笑んで、久々にゆっくり話そうかと色々な話をした。
ティアーユ様は私たちも孫を見るような優しい視線で見てくださる。小学生くらいの子にそんな目で見られるのはすごい違和感だけど、でも温かい空間にずっとそわそわしていた気持ちが久々に落ち着いていくのを感じた。
前世の両親のこと、魔法の授業の事、よくわからないけど私の魔法についての事、少しずつすべて明らかになっていけば良いと思えたそんな日だった、
読んで頂きましてありがとうございました。




