41.ヒロインなんですが新しい先生に早速嫌われました
私の発した言葉にムッとした表情で睨みつけながら男の子は尖らせた口調で言い放った。
「なんだと、この小娘が。俺はもう100歳は超えているんだぞ」
「殿下、この子冗談言ってます」
「本当だ!!」
しらーっとした目で男の子を指差し、殿下に報告をすると男の子はキャンキャンと怒っている。怒っている時の小型犬のようだ。絶対に100歳なんて嘘。どう考えても11歳とか12歳くらいの子にしか見えない。
「なぁ、ぼうや。飲み物は紅茶じゃなくてジュースの方がいいか?」
「ジュースでお願いします!!」
ヴィオレは完全に子ども扱いしてジュースを用意しようとしているし。
そんな私たちの様子に、ローランは困ったように笑った。
「アイリス嬢。ヴィオレ。本当なんだよ」
「えぇえ!? そうなんですか!?」
驚いた顔で男の子を見るも、フンっと不服そうに勝手に応接用のソファにドカッと座り、足を組んだ。
これが……? あ、間違えた。この方が……? 全然見えないし、そんなに長寿の人なんているんだ。さすがファンタジー。どうなっているんだろう、フルグレの世界って。知らないことが多すぎる。
あくまで恋愛乙女ゲームだから、描く必要が無かったところは省かれていた設定が多いのかな。
私は戸惑いながらも、男の子に目線を合わせてしゃがんだ。
「な、何者なの……ですか?」
私がおずおずとそう伺うと、男の子はフンッと思いっきり言いながら、顔を背けた。あぁ、これからこの子……じゃなかった、この方に魔法を教えてもらうのに早速嫌われてしまった。
うぅ……と困っていると、ローランがため息をつきながら教えてくれる。
「この方は魔塔の主であるロベリアン様だ」
あの、魔法の研究をしているという正直ちょっと変わり者集団の魔塔のボスってこと……?
ヴィオレがロベリアンの前にジュースをコトリと置いた。ロベリアンはありがとう! と言って、嬉しそうにジュースを口に含んだ。
美味しそうにジュースを飲むこの子どもが、魔塔主……? 疑いの視線をローランに向けると、また困ったような顔で笑う。
「彼は光属性の魔法は使えないが、火、水、地、風の魔法を使えるんだ」
「え!? 4属性も使えるんですか!?」
「うわ、すげぇ……」
「あぁ、だからファビアン先生よりも色々な視点で見られるし、光属性の魔法についてはよくわかっていないことも多いけど、研究もされているから適任だと思って」
ヴィオレは火、ローランは土、セージは水、クロトンは風、といった感じで、基本的に一属性の魔法しか使えない。それを4属性すべて使えるというのは只者じゃない。本当にすごい人だったんだ……。
ヴィオレから渡されたジュースを嬉しそうにほくほくと飲んでいるこの少年の見た目からは、考えられない。ジュースを飲み終わると、嬉しそうだった顔がまたむくれっ面に戻ってしまった。そして、私を一瞥すると、またふんっと顔を背ける。
「ふん、女神の祝福を受けた子どもだというから聞いたから来たが、ただの小娘だな。俺の出る幕でもないんじゃないか」
そう言うと、不機嫌そうにソファにだらしなく横になった。
どういった話を聞かされていたのかわからないが、ヒロインらしくないが為に色々引き起こしてきた私としては、本当に聞いていたほどでは無い出来の人間である自信しかない為、何も言えない。
早速相性最悪な私とロベリアンを交互に見ながら、ローランは訝しげにロベリアンに尋ねた。
「あの……もしや、ティユール様から聞いておられないのですか?」
「あぁ?……あぁ、何か手紙が来ていたような……どうせまた大した事書いてないだろうから読んでないがな」
「ふむ……」
ローランが顎に手を当てながら、考え込んでしまった。少し困っているような様子だ。
そんなローランの様子を一瞥した後、ロベリアンがむくりと上半身だけ体を起こし、私をじっと見つめた。
今度は何を言われるんだろう、とドキマギしながら待つ。
「ふーん……」
頭のてっぺんからつま先まで審査をするように何度も見てくる。
なんだろう、と待っていると、ロベリアンはにやりと笑った。
「お前、なんか変だな」
「変?」
「魔力の流れが歪なんだよな。お前、ちゃんと魔法使えてないだろ」
「えぇっと……どうなんでしょう。これから習うので、使えているのか使えていないのか……」
私がそう言うと、ヴィオレが目を見開いて少し驚いたように私を見た。
「お前の家って入学前に家で魔法の訓練とかしなかったのか?」
「え? だって魔力量安定するのって16歳以降だから、学校入ってからするものじゃないの?」
「普通はそうだけど、多分俺もお前も公爵家だし、魔力量的には多分16歳より前から使えてるはずだぞ。……あぁ、静養地の方に居たからなのか。でも、あの親バカ公爵なら喜んで講師呼び寄せるなりしそうだけどな。金に物言わせて」
「嫌な言い方しないでよ。……でも、そっか。皆やってたのか。知らなかった」
たしかに、クラス分けで魔力コントロール云々は授業が行われる前に分かっているのはおかしいか。上位貴族はたしかに魔力量が多い傾向があって、それは私も例外じゃない、はず。そういう習慣があることは知らなかったけど、早期教育的なことが魔法でも行われるのだろうか。
私が悩んでいると、ローランが少し考えた様子を見せた後に口を開いた。
「……光属性はフルール様以来だからね。公爵も探しても見つからなかったんじゃないか? 魔法の講師として一番の実力者であるファビアン先生は既に学園所属だし……」
「ふーん、たしかに講師が見つからないんじゃ仕方ないよな」
ローランは比較的いつもゆったりと穏やか話しているのに、心なしかいつもより少し早い口調な気がすした。気のせいだろうか。
ロベリアンは変わらず私をじろじろと見ている。パッと目が合うと、ロベリアンは好奇心を抑えられないといった表情でニヤリと笑った。
「変に制限もかかってるし。ふーん……ちょっと、外してみるか」
「ロベリアン様!!!」
ロベリアンがそう言うと、何やら操作しようと私に人差し指を差した。そこに、ローランが急に声を荒げる。ローランが声を荒げたところを見るのは初めてだ。
私とヴィオレは驚き、ローランを見た。ローランは怒りを滲ませたような表情でロベリアンを見つめている。
「お戯れが過ぎます」
「なんだよ、こんなもんちょっと外すくらい」
「まずは、ティユール様とお話いただけますか?」
「……へぇ、お前。何か知っているのか」
ローランは険しい表情で黙ったままロベリアンを見つめる。
ロベリアンは不敵に笑ってローランを見る。
今までにない殺伐とした空気や何かよくわからない事態に、私もヴィオレも固まってしまった。私の何かをローランが知っているということなのだろうか。何が起きているんだろう。
しんと静まり返った緊張感漂う生徒会室にキィっと静かに扉が開く音がした。パッとそちらを振り向こうとした瞬間、ロベリアンがぶわっと強い風に吹き飛ばされたように投げ出され、壁に叩きつけられた。
何が起こったのかと構えるヴィオレ。私はロベリアンに駆け寄り、扉の方を見る。
「やめなさい、ばか孫。すまない、殿下。コイツ、最近反抗期で」
今度は小学校低学年くらいの子どもが、子どもとは思えないとても穏やかな口調でそう話した。
何者なんだろう、と身構えていると、入ってきた人物はゆっくりとした足取りで私の目の前までやってきて、ぴたりと止まる。
「久しぶりだね、アイリス」
会った覚えのない子が、私を見て愛おしそうに微笑んだ。
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