40.ヒロインなんですが攻略対象には会えないようです
あの豊穣祭から、3日が経った。
ヴィオレも私もあの焼きおにぎりとお漬物のセットがどこで売られているか、可能な限り探したが、結局該当のお店は見つからないままお祭りの終わりの時間が来てしまった。
この国の料理ではないので、他国の料理のはずだが、まだどの国のものなのか判明していない。
お父様に聞いたら、そんなに美味しかったのか! と嬉しそうに探してくれているのだけど、なかなか他国の出店数も多く、合致したものが探し当てられないよう。商品名も分からず、現物もなかったし、仕方ないのかもしれない。
生徒会室で一人、ぼんやりと窓の近くに立って外を見る。
もしかしたら、この世界に前世の両親も転生しているのかもしれない。漠然と会いたい、と思った。
もう皆違う人生を歩んでいるし、なんとなくこういう風に考えるのも、今のお父様とお母さまにも悪い気がする。それに、そもそも母の味を作ることのできる人たちなだけで、母ではないのかもしれない。それならそれで、事実が知りたい。
この世界のこの空の下、どこかに居るかもしれないと思うと、そわそわと落ち着かないのだ。
窓にうっすらとヴィオレが近づいてきている姿が映り、ゆっくりと振り向いた。ヴィオレの顔も酷いものだ。目の下に隈がある。
「なぁ、そんな顔すんなって。大丈夫だよ、きっとすぐ見つかるから」
「うん……ヴィオレも、大丈夫だからちゃんと寝なよ」
「お前もな」
はぁ、と二人同時にため息をつく。
ヴィオレもヴィオレで探してくれているらしい。
とにかくお父様の確認とヴィオレの調査で何かわかるだろう。 うじうじと考えていても仕方がない。ヴィオレが自分の両頬をパンっと叩いて、よし! と声を張り上げる。私も見習って切り替えていかなきゃ。
「それはそうと、そろそろ始まるな。魔法の授業。切り替えるぞ!」
そう言うと、ヴィオレが強く私の背中をバシンッと叩いた。
私は痛いなぁ、と背中を摩りながらも、衝撃と一緒にもやもやした気持ちも少しだけ飛んで行ったような気持ちになり、久しぶりに少し笑った。
「そうなの、今度はファビアン先生。お父様という壁があるけど、今まで全滅の恋愛ルート。今度こそもしかしたらうまくいくかもしれない。パラメーターも上がっているだろうし!」
「そうだ、その意気だ! それに、最初にパラメーター見た感じは多分ヒロインの元々のポテンシャルのおかげで魔力パラメーターは文句なしだったぞ! 今度こそヒロインらしい生活が待ってるぞ、アイリス!!」
「よし! 今度こそ、フルグレのヒロインのようになるぞ!」
今までの座学は皆一律での授業だったけど、演習は基本的には属性別だ。
その中でも魔力量の多い者、既にコントロールが上手い者等、優秀な人は特別クラスとして、ファビアン先生が担当することになっている。
フルグレの攻略対象キャラは基本的に皆ファビアン先生クラスだった。
つまり、ヴィオレは相変わらず近くでサポートしてくれるという状態で臨めるということ。そして、私の魔法のパラメーターは悪くない。むしろ良い方。
ということは、今回こそ、えっと……五度目の正直? となる可能性も高いということ!
先生と生徒の禁断の恋ルート! いざ、参らん。
期待の高まる私たち二人はがっちりと握手をして気合を入れる。その時、そっと生徒会室の扉が開いた。ローランが入ってきて、あっと私のことを見る。
「アイリス嬢。ここに居たんだ」
「殿下、どうかされました?」
「あぁ、明日から魔法の授業が始まるだろ? 君は珍しい光属性の魔法だから、特別講師を招待していることを伝えようと思って」
「……ん?」
ヴィオレと私は同時に首を傾げた。
わざわざ特別講師を用意したとは……?
嫌な予感がする。私は恐る恐る、ローランに真意を訪ねた。
「つまり、私は特別クラスのファビアン先生ではなく、違う先生になるっていうことです……?」
「あぁ、そうだね。先生っていうかまぁ、外部講師っていうか……」
それを聞いた瞬間に膝から崩れ落ちる私。石のように固まるヴィオレ。
「ここまで来て会えないパターンってあるの!?」
半泣き状態で床を拳で叩く。混乱したヴィオレも恐らく勝手に私のパラメーターを確認し、「何が足りないんだ……?」なんて言いながら、難しそうな顔をしている。なにやら混沌とした状況に、ローランは目をパチクリしながら、えっと……と困惑している。
「あぁ、そっか。ファビアン先生は人気だからね。でも、まぁ……うーん……うん。あの人も悪い人ではないから」
「お優しい殿下が言い淀むレベルの人は不安です私!!!」
「あはは、私は優しいかな。ありがとう」
「あ、話反らした……これは本当にちょっと難ありパターンだぞ、アイリス」
「ダブルショックだよ、怖いよ。しかも皆もいないんでしょ、やだな……」
ヴィオレに腕を取られ、ぐっと立ち上がらされた。
温厚で穏やかなローランが言い淀むということは、曲者なんだろうか。腐っても公爵家令嬢の私に変な人間はあてがわないとは思うが。不安しかない。
「大丈夫大丈夫。アイリス嬢ならきっとうまくやると思うよ。何かあったらすぐ、私に言ってね」
「はい……」
「と、いうことで。急に皆とは違うところで授業を受けると不安だろうから、事前挨拶の機会をと思って先生連れてきちゃったんだよね。今いいかな?」
「……はい。え、ここに来てくださっているんですか?」
「そうそう。あ、はいってください」
覚悟を決めよう。
そもそも、ちょっと困ったように笑う殿下のご提案なんて断ることはできない。
それにしても、ローランが敬語を使うだなんてどんな人物なんだろう。すごい偉い人なんだろうか。やだな、授業中緊張するの。全然ファビアン先生で良かったのに。そんな事を考えながら、私は生徒会室の扉を緊張した面持ちで見つめる。
扉はゆっくりと開いた。どんな人物なんだろう。ごくり、と唾を飲み込んだ。
扉が開いて、生徒会室に一歩踏み込む人物。私は想像と違う人物に思わず声を上げてしまう。
「え、子ども!?」
そこには暗い深緑色のローブを来た、中学生くらいの男の子が不機嫌そうに立っていた。
読んで頂きましてありがとうございました。
不機嫌な男の子っていいですよね。




