表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインなんですが誰も攻略してくれません!~誰か攻略してください~  作者: minori


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/59

38.ヒロインなんですが友人の過去を知りました


 3人分の果実水を購入した。

 果実水の横の屋台でお誘いを受けて、ほんのりスパイスの香りのする蜂蜜がたっぷりかかったりんごのコンポートもクロトンの分と2つ購入。渡される際に、なんと横に揚げパンとクリームチーズも添えられた。なかなかのカロリー爆弾だ。でも、とても美味しそう。チートデイで良かった、罪悪感無く楽しめる。

 足早に先ほど指定されたベンチに戻ると、一つのベンチにはセヴェール子爵が横になっていて、もう一つのベンチの端にクロトンが座っていた。


「お待たせ、大変だったね」

「うん、せっかくのお祭りなのにこんなことになってごめんね」

「ううん、もう十分楽しんでるよ」


 クロトンが眉を下げながら私に謝罪をする。

 私はクロトンの横にすとんと座った。

 しかし、それにしてもセヴェール子爵の過去の恋愛や、朝から馬車で頭を打ち付けた事、今回のお酒が降り注いでしまった件について考えても、少し思うところがある。


「もしかしてさ、セヴェール子爵って結構運が悪かったりする?」

「うーん、多分……」


 クロトンがちょっと困ったように笑った。

 セヴェール子爵の周りには、なんでそんなに大なり小なり不幸が寄り添ってしまうんだろう。そういう体質なのだろうか。

 とにかく、小休憩だと私はクロトンに買ってきた果実水とリンゴのコンポートのお菓子を渡した。うわ、懐かしいなんて呟きながら、クロトンは揚げパンにさっと蜜をくぐらせて早速口に入れる。思い出の味だったのだろうか。口をもぐもぐと動かしながら、優しい目でリンゴのコンポートをしばらく見つめていた。


「思い出の味?」

「うん。あ、僕って洗礼の時からセヴェール子爵に入っただろ? それまでは、旅回りの一座に居て、そこで育てられたんだ。こういうお祭りとかの機会に劇をやったりすることも多かったからさ。そういう時、よくじいちゃんが買ってくれて。まぁ看板女優の母さんが居なくなってからはパッとしなくてさ、一番小さいのをこれだけよく買ってくれたんだ」

「そうだったんだ、だからこういうところ回るの上手だったんだね」

「そうそう、おばちゃん達がよくサービスしてくれて。可愛がってもらったなぁ」

「小さい頃のクロトン、絶対可愛いもんね」


 昔を思い出すように、静かだけどとても楽しそうな声で話すクロトン。

 おじいさんは、今どうされているんだろ。でも、セヴェール子爵の養子になったってことは、何かあったのかも。少し聞きにくいし、クロトンの過去はのんびり生きてきた私とは全く異なっている。

 どう話したら良いのかわからないまま、リンゴのコンポートを口に放り込んだ。甘い。甘いけど、ふわっと香るシナモンの香りが心地良い。クリームチーズと揚げパンと一緒に食べてみると、甘じょっぱさが癖になりそうだ。

 美味しいね、とただ口を動かしている時間が流れた。沈黙が重くならないように必死に咀嚼する私の様子を察して、クロトンは私を見て笑った。


「あはは、アイリスってほんと分かりやすいね。気を遣わなくていいよ、もう大丈夫だから」

「あぁ、えっとごめんね。私、こういうのほんと下手で。おじいさまって今どうされているのかな、とかいろいろ考えちゃって」

「亡くなったよ」


 やっぱり、そうだったのか。

 口の中の甘ったるさが苦しくて、私はすっと果実水を飲む。けれど、あまり楽にはならなかった。

 クロトンは、まるで天気の話でもするかのような、あっけらかんとした口調でそのまま話を続けた。


「病気でね、薬も買えなくて。僕が子爵家の息子だって言っちゃえば良かったのに。そしたら、薬なんて手に入っただろうに、セヴェール子爵家に見つかったら僕が殺されるって思ってたから絶対に言わなかったんだ。なんかうちの家に関わる人って運が悪いんだよね」

「そっか……」


 運が悪い、の一言で片づけるにはあまりに切ない過去だ。

 でも、今のクロトンが笑えているのは、セヴェール子爵の運のない人生の中に差した一筋の幸運のおかげで、奇跡のような恋だったんだろう。そして、先日やさっきのセヴェール子爵の様子からもわかることが一つある。

 今は少し顔を青ざめさせながら、ぐったりと横になっている少し情けない子爵の姿を見ながらぽつりと口から言葉が滑り落ちた。


「……クロトンはセヴェール子爵にとって本当に宝物なんだろうね」

「え?」

「いや、ね。さっき、子爵も泣きながら言ってたでしょ? クロトンっていう宝物を産んでくれてありがとうって。すごく幸せな事だったんだろうなって」


 私の言葉に、クロトンは少しだけ目を丸くして、それから照れくさそうに視線を落とした。 

 今日一緒に過ごしていて分かった事がある。クロトンとお父様の仲はきっと、以前よりもずっと近づいてきていること。これからどんどん、セヴェール子爵家が幸運に恵まれていくといいな。

 


読んで頂きましてありがとうございました。

クロトン父は学園祭の日の夜のスピンオフを書きたいんですが、どのタイミングで書こうかなと思っています。

クロトン父の悲恋も本当は書きたいし、でも書かない美学もあるらしいので、情報を捨てる・書かない事って難しいですね。全部書きたくなってしまって。

登場人物皆幸せになってほしいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ