33.ヒロインなんですが、攻略対象の方がヒロインしてました
ローラン達と舞台裏の控室へ行く。
扉の外からも聞こえるほどの声に演劇部の皆の熱量が感じられて思わず顔が綻ぶ。ローランが、控室の扉をコンコンと叩くと、すぐにコルザのはーいという元気な声が聞こえた。
「やぁ。皆で盛り上がっているところ、悪いね。素晴らしい演劇だったから、一言と思って。お邪魔だったかな」
「わ! 殿下だ! 皆ー! 殿下が来てくれたよー!」
演劇部員の声に騒いでいた部員が一斉に扉の方まで駆けてきた。
皆舞台に立った後なので衣装のまま、裏方の人は軽装のままだ。
「殿下、どうでした?」
「楽しんでいただけました?」
「生徒会の方のおかげで無事に劇ができました!」
大はしゃぎの演劇部とローランやヴィオレが親し気に話し、セージはいつもと変わらぬ物調面だけどミルティーユに劇の内容について何やら詳しく聞いているようだ。
「あの劇は原作とだいぶ異なるようだが、構想はどのように……」
あ、取材してる……。同じく作品を作る者同士でヒントをもらおうとしている。あまり話すとセージがアムール・シュクレだとミルティーユにもバレてしまう可能性があるのでは……。心配でしばらく様子を見ていると、どんどんどんどんかなり前のめりになって色々聞こうとしているセージにミルティーユも戸惑い始めている。私はセージを後ろからそっと抑え、セージとミルティーユの間に入り込んだ。
「あ、あの! すごく良い劇だったね! ミルティーユの考えたオルキデ、すごく好きだった」
「ありがとうございます、そう言ってもらえて嬉しいです」
先ほどの少し困った顔だったミルティーユが少し顔を赤くしながら微笑んだ。
私は続けてミルティーユに伝えたかった劇の感想を伝えた。
「オルキデは本当は恋人を想って孤独に生きていくじゃない。だから寂しい気持ちで幕が閉じていくのを見ていたんだけど、途中で幕が上がった時は興奮しちゃった! 演出も最高だったし、あの結末もすごい感動したよ」
「えへへ、ありがとうございます。……実は私、原作のオルキデの展開について信じられなかったんです」
「信じられなかった?」
ミルティーユは静かに頷いた。
「愛した人が嘘をついていることに気が付かないのも、愛した人を諦めてしまう事も信じられなくて。愛しているならきっと、わかると思うんです。相手が自分の為に嘘をついているなんてこと。それに、祖母は赤色ならよく見えて。赤のオルキデには幸福がやってきてほしかったから、こんなお話になりました」
「そっか……すっごく良かったよ」
「なるほど、キャラクターの性格から取る行動について考えた上での展開なのか……参考になる」
「え、参考?」
「ゔゔんっ!! 国語のさ! 問題とかね!! 作者の気持ちを考えよう的な問題、サジェス卿苦手だから!」
「な、別に私はそういった問題でも……」
意図がわかっていないサジェス卿の腕をぎゅっとつねる。い゛っと言って黙ったが、コイツは作家についてバレると騒がれるから嫌とか言っていた癖に脇が甘いんだから。私の心配と場の状況をここまで読めていないくせに、作者の気持ちは考えられるっていうのかお前は。黙っていなさい。
言い訳が下手過ぎて誤魔化せるかとハラハラしている中、ミルティーユは少し考えた様子を見せて、ぽんと納得したように手を叩いた。
「……なるほど。私の意見が参考になるのか分かりませんが、首席のサジェス卿にそのように言っていただけるとなんだか照れくさいですね」
「よ、よかったね~、サジェス卿! アドバイスがもらえて」
良かった、無事誤魔化せたようだ。私がセージの背中をパンパンっと叩くと、いつもより少し眉間の皺を深くして私をつけているが、お前を救ったからこその行動なんだということは後で生徒会メンバーだけになった時に伝えよう。
和気藹々と皆でそんな風に過ごしていると、演劇部の人たちの奥にクロトンが同じくまだ舞台衣装のまま一人立っているのが見えた。
舞台の上で演じている時は本当に美しい女性『オルキデ』だったのに、今はクロトンにしか見えない。どういう事なんだろう、役者というのは本当にすごい。
私はクロトンのお父様が帰られたことを伝えに、演劇部の皆をそっとかき分けてクロトンの方まで行った。
「クロトンお疲れ様! すごく素敵だったよ! あと……あの、クロトン。お父様が劇良かったっておっしゃってたよ。えっと……もう帰っちゃったんだけど」
「見てくれてありがとう。あぁ、うん。そうなるかな、って思ってたから。まぁ、帰ったら声かけてみるよ」
いつものように飄々とした様子で答えるクロトン。
あの強面で口数の少ないセヴェール子爵との約6年ほどの生活でもきちんと、クロトンはお父さんを見ていたんだなと思う。これが家族の距離を近づける良いきっかけになると良いな……。
「あと、セヴェール子爵ね。ずっとクロトンを見てたよ。ずーっとクロトンに釘付けだったと思う」
「あはは、それはちょっと照れるな」
そう二人で話していると、トントンと肩を小さく叩かれた。
振り向けば、ローラン達生徒会メンバーが立っている。
「話しているところごめんね、そろそろ閉会式の準備もあるから」
「あ、そっか。すみません。行きましょう……あ、クロトンもちゃんとメイクと衣装なんとかしないと統制の取れたファンクラブも流石に騒いじゃうかも」
「あ、たしかに。急いで着替えてから向かうよ」
「いやぁ、モテる男はほんと大変だなぁ」
ヴィオレがしみじみとした口調でクロトンを見ながら呟いた。
クロトンは苦笑しながら答える。
「はは、ほんと。ちょっと今回の色々な件で女の子はちょっともう懲り懲りだなぁ。あ……でも」
クロトンがヴィオレにぐいっと近づいて、顎をクイッと上げて顔を近づけた。
「男の子ならいけるかもね?」
「なっ」
オルキデのような妖艶な美しさを思い切りぶつけられ、顔を真っ赤にして後ろに飛びのいたヴィオレ。衝撃的なシーンに目を丸くする私と、何やらメモを取っているセージ。ローランは顔を赤くしているヴィオレを見て大笑いしている。
ヴィオレの反応を見てローランも大笑いだ。
「あはは、冗談だよ。ごめんごめん。あ、本気でも良いけど」
「なっ、おま! ほ、本気になんかしねぇからな!!」
「だめよ、クロトン。ヴィオレはこういうの免疫無いんだから」
「うるせぇな! お前だって似たようなもんだろ!」
そこで前世の時のような姉弟げんかを繰り広げていると、ローランにはいはいとなだめられそのまま閉会式に引きずられていってしまった。
しかし、攻略対象を初めて赤面させたのがまさかの攻略対象となるとは……。
一応、この世界のヒロインである私はヒロインを名乗って良いのか、烏滸がましくなるくらいクロトンは美しくて、対する自分が恥ずかしくなる。学園祭が終わったら、運動量を増やそうと誓ったのであった。
目指せ、ヒロインらしいヒロイン。
読んで頂きましてありがとうございました。
本当はクロトンを女口調キャラにしようと思っていたんですが、色々考えるとこれが自然だなと思ってこちらになりました。いつか女口調キャラ出したいな




