29.ヒロインなんですがイベントが思ったのと違います
「思ったのと違うよぅ……」
「仕方ねぇだろ、生徒会なんだから」
「しかも生徒会長は王子様だしね……」
私が隣にいるヴィオレに半べそをかきながら小さく愚痴を零していると、ヴィオレも少し疲れた顔でため息をつく。
本日は待ちに待った学園祭。
朝からデイジーにリボンを編み込んだ素敵な髪型にしてもらって、るんるん気分で登校した。デートではないけど、フルグレ初のイベントだ。
セージの作ってくれたスケジュールだとそれぞれ訪問する出店や展示品のクラスの項目が書かれているだけだったから、見回りと言いながらもただ学園祭を楽しむものだとばかり思っていた。
が、甘かった。まずは担当者に何か問題がないかの確認、問題があれば対処。なければそのクラスの出店物を楽しみつつ、保護者……つまり、貴族たちとの挨拶に時間があてられる。ずっと歩きっぱなし立ちっぱなしで足はクタクタ、始終笑顔を張り付けていたせいか心なしか頬まで筋肉痛な気がする。口角を上げると顔がピクピクと引き攣るようになってきた。
たまにローランが気を遣ってくれて、こうやって私とヴィオレは少し離れた壁際からローランたちの様子を見させてもらっている。多分ローランが私が一人で居ないように配慮してくれたんだと思う。
「ローランって本当に完璧な王子様だよねぇ……穏やかで優しくて。今だって絶対疲れてると思うのに、そんな素振りも一切見せないで色々な人と話してさぁ」
「あぁ見えて努力家で真面目だからなぁ」
「いやー、私には絶対無理だわ。生まれた時からあぁやって色々な人に囲まれて敬われてさ、ローランの事だから見合うようにって沢山努力して。それを生まれた時から死ぬまで送るのってしんどいよね」
「そうだなぁ」
「私なら早々にグレちゃう気がするよ」
穏やかに談笑するローランの姿を見ながら、私はその姿をぼんやりと眺める。いつもよりもずっと遠い存在のように感じた。ローランとセージはずっと色々な貴族と挨拶を交わし続けている。流石未来の王様と宰相様といったところだろうか。何十人の名前を呼び、挨拶を交わし、自分の親やそれ以上に年齢の上の人間と談笑しているのだから大したものだ。16歳の男の子ができることではないと思う。
そんな時にヴィオレが何か思い出したようにポツリと漏らした。
「……そういえば、グレてはねぇけど。昔はもっと気が張ってて堅かった気がするな」
「え、そうなんだ」
「なんかいつの間にか今みたいにちょっと肩の力が抜けてるようになったような」
「ふーん。王族の重圧とか半端無さそうだもんねぇ、私公爵令嬢で良かった」
「本来公爵令嬢も重圧あるはずなんだけどな、お前ん家がちょっと異常なだけで。……あ、そういえばシプリアン公爵やアニス公爵夫人って来るのか?」
「お父様は今豊穣祭の準備で他国に行ってて。本当は来られるはずだったんだけど、なんか色々あって来られなくなっちゃったんだって。お母様はまだこういうところまで来られるほどじゃないから」
「……そっか。ま、俺の家も豊穣祭の準備で来られないからな。公爵家だし、こんなもんか」
「すごい残念だったみたいでトイレットペーパーくらいの長さの手紙きてたよ」
「想像がつくな……」
先ほどよりもげっそりとした顔をするヴィオレを横目に、私はくすくすと笑った。相変わらずヴィオレはお父様が苦手なよう。お父様は優しいし面白いし、良い人なんだけどな。前世のパパとはちょっとタイプは違うけど。
そんな話をしていたら、ローランとセージの話もちょうど一区切りついたみたいでこちらにやってきた。にこにことしながら、片手を上げながら私の目の前まで歩いてくる。
「やぁ、お待たせ。大丈夫? アイリス嬢」
「全然大丈夫です! 殿下こそ、疲れていませんか?」
「あぁ、大丈夫。スムーズに進んでいそうで安心したよ。あとは……何件だ?」
「劇が始まるまでにあと5件だ。ちょうど食事の出店のところだから、食事も兼ねる予定になっている」
私がポケットからスケジュールを書いた用紙を取り出す前に、サジェス卿はさらっと答えた。完璧なスケジュールを立てた上にきちんと覚えているとは。生徒会役員と王子の側近と大ヒット恋愛小説家の三足の草鞋を履いているだけある。私は感心してわぁ、と声を上げた。
「さすがサジェス卿、予定バッチリだね」
「多少予定時間は押してるがな」
「このくらい想定内だろ。セージのおかげで昼食にありつけるよ、座って食べられるといいけど混んでるかな」
「あ、俺のクラスのやつがいたからこの時間あたりに席空けといてもらえないか交渉済だぜ」
さすが王子の側近。セージもヴィオレもさらっと進行がうまくいくように立ち回りがうまい。私と言えば、殿下にかえって気を遣ってもらったりして何も役に立てていない気がする。
あまりにも場違いな能力差に申し訳なさを感じた。
「ヴィオレもすごいね、私ってば何も役に立たなくて……」
「そんなことないよ、クロトンの件で大活躍だったじゃないか。あそこまでの騒ぎになっていたから学園祭も少し心配していたんだが、ファンクラブがうまく機能しているみたいだね。クロトン・セヴェール関連の混乱は無さそうだ」
「え、えへへ……ありがとうございます」
ローランが少しかがんで私に目線を合わせながら微笑んだ。優しくてかっこいい王子様の笑顔はヒロインの疲れた心を癒すのに効果抜群だ。私は少し顔を熱くしながら、笑った。
そして私たちは次の行き先へ向かう。いつもより賑わっている廊下を歩くのは少し大変だ。ローランは声を掛けられると片手をあげながら、にっこりと応じて軽い挨拶を交わしながら歩いていく。その挨拶をしている中である老婦人に控えめに声をかけられた。
「あの……もし」
私たちは立ち止まって、その老婦人の次の言葉を待った。
「孫のところに行きたいんだけど、どこか知らないかしら」
迷える老婦人の出現。生徒会の出番である。
読んで頂きましてありがとうございました。
少し中途半端に終わってしまったので、ゆっくり朝の9時頃にも更新したいと思います。




