28.ヒロインなんですが私はフラグ折りのプロのようです
クロトンと話している内にすっかり忘れていたのだが、そもそもクロトンに会いに行ったのは学園祭で一緒に回れるかと誘うためだった。
そんな目的も忘れて話し込み、結局誰にも誘われないまま明日の学園祭を迎えようとしている。
これから生徒会室に行ったら、ヴィオレがいるはずだ。
せっかくヴィオレが色々協力してくれたのに、結局何の成果も挙げられなかったことを伝えなければならない。情けないやら申し訳ないやら……。私は重い足取りで生徒会室に向かった。
生徒会室に入ると、ローラン、セージ、ヴィオレが既に来ており、最終調整の話をしているところのようだ。扉を開いた音で一斉にこっちに目をやる。私の顔を見て、三人はぎょっとした顔をした。
「ど、どうしたんだいアイリス嬢」
「何か問題でも起こったか……?」
「どうしたんだよ、お前。すげぇ顔してるぞ」
反応も三者三様である。純粋に心配してくれているローランに、新たな問題発生を気にするセージ。私の顔にただ引いているヴィオレ。セージに至っては私ではなく、問題が起こっていないかしか気にしていなさそうだ。冷たい奴め。
私はヴィオレにだけまずこっそりと相談しようかと思っていたのだが、これだけ注目を集めてしまったなら仕方がない。観念して素直に白状することにした。
「結局、学園祭……誰にも誘われることなく、始まりそう……」
私がそうつぶやくと、三人が何を言っているんだといった顔をしている。ローランとセージはともかく、ヴィオレまでそんな顔で私を見るのは少しおかしいのではと私も立ち止まる。
そして、まずセージが訝しげな顔で私を見ながら言った。
「……何を言っているんだ?」
そう言われてかえって私が戸惑っていたら、セージの言葉に続けてヴィオレが説明をした。
「生徒会役員なんだから、来賓の対応や見回り。何かあった時に呼び出されたりするから、普通に学園祭回ったりはできないぞ」
「へ?」
そんな、フルグレだと学園祭は基本的に誰かとは回れるはずだけど……と思い返して気が付いたことがある。初年度はクロトンと回っていたが、そういえばこの三人と学園祭を一緒に回った記憶がほぼない。三年目とかでようやく、といったところだ。
ああああ、だからこれもあってヒロインは生徒会に入会していないのか。推しと一緒に学園祭を回る機会が失われるから。
そういえば、クロトンも劇があるならその準備で学園祭を回る暇もないのではないだろうか。自らの選択でいつの間にかにイベント発生フラグを消滅させてしまっていたことに今気が付いた。
つまり、どのみち今回の学園祭で今会っている攻略対象の誰かと学園祭を回る、といったことはそもそもできなかったのか……。
私が少しずつ変わっていってしまった世界に混乱しつつぐるぐると頭の中でそんなことを考えていたら、ローランが申し訳なさそうな顔をして私の顔を覗き込んだ。
「共通の認識になっていると思ってアイリス嬢にちゃんと話していなかったよ。説明不足でごめん。もし都合が悪ければ、私たちだけで……」
「いいえ、殿下! ぜひ! ぜひ皆さんと回らせてください!!」
私はローランの手を力強く握り、切実な目で力強くそう言った。
ローランは手を握られたまま、今度は心配そうな顔をして私にそのまま尋ねる。
「もしかして、アイリス嬢。何かあったのかい」
「え?」
「コルザ嬢とは仲が良さそうに見えたけど……もし友人関係で何か困ったことがあったら、相談してね」
「いや、えっと違って、その……」
そうか、誰にも誘われないって言ったから誤解して……。私の誘われないの意図は乙女ゲームのイベントとしてなのに、変に心配をさせてしまった。
なんと言ったらいいかとヴィオレに助けを求めてチラリと見るも、ゆっくりと首を横に振られた。
「いつまでも俺に助けてもらえると思うなよ」
ヴィオレにそう冷たく突き放されてしまう。
あぁあ、頼みの綱がと内心絶望しながら小さな声でローランに伝える。
「あの、殿下……友人関係も問題ないです。生徒会の皆で学園祭一緒に回れて嬉しいです」
「そうかい、良かった」
ローランが先ほどの顔から一転、パァっと明るい顔で笑ってくれた。
「でも何かあったらすぐ相談してね」
あああ、誤解がちゃんとは解けていないようだ。こっそりと耳打ちされ、要らぬ心配をさせてしまった申し訳なさで身が縮こまってしまった。
とりあえず場の空気が落ち着いたところで、私はコルザから貰った招待状を思い出し、鞄から取り出してローランに見せる。
「そうだ、コルザから生徒会の皆さんへって劇の招待状をいただいたんです! ご家族様とかと一緒の特別席を用意してくれて。前の方の席ですって」
「そうか、いよいよ明日開演だね。ぜひ皆で観に行かせてもらおう、約束もしていたしね」
「スケジュールももう組み込んであるぞ」
「さすがサジェス卿! ありがとう! あー、早く明日にならないかなぁ!」
「さっきの顔とは雲泥の差だな」
ヴィオレに呆れられ、私は笑って誤魔化した。
明日は初の学園祭イベント。お誘いとかはなかったけど、結果的になんとかギリギリ攻略対象達と一緒に回ることができそう。
デートとかではないけれど、ノーイベントヒロインだった私にしては大きな一歩なのではないだろうか。私はようやく明日がとても楽しみな気持ちになった。早く明日にならないかなぁ。
読んで頂きましてありがとうございました。
学園祭、クロトンの劇も楽しみですね




