27.ヒロインなんですがイベントに誰も誘ってくれません
生徒会の仕事で忙しい日々を送っており、いつのまにか時間が経ってしまった。そして今日、いよいよ明日学園祭といったところまで日が迫っている。
「おかしい……」
フルグレのヒロイン『アイリス』に転生した私。学園祭イベントはもちろん前世で何周もしましたとも。その知識を持ち、パラメーターも上げ、攻略対象達とも恋愛とはいかないまでも友好な関係を築き始めている私には信じられない事が今まさに起こっているのである。
「誰も来ないな……」
騒がしいクラスの雰囲気の中、私は一人呆然と呟いた。
入学から夏季休暇までのあの日々と同様だ。またしても攻略対象キャラが学園祭に一緒に回ろう、と誘ってきてくれるイベントが発生していない。
攻略対象キャラは何人か出てきてくれた。ローラン、セージ、ヴィオレ、クロトン。今はこの4人だ。前世で弟だったヴィオレは無しにしたって、他の三人の誰かは学園祭に誘ってくれても良いはずなのに。パラメーター云々よりも前に、彼らとそれなりに仲良くなっていると思うんだけど。
もうすぐ放課後だ。翌日に控えた学園祭で皆そわそわしている。楽しそうだ。げっそりとした私の顔と非対称的に……。
「アイリスちゃん!」
「あ、コルザちゃん。明日、いよいよだね」
げっそりとした顔のまま席で一人黄昏ていると、コルザちゃんが私のところまできてくれた。相変わらず明るい笑顔だ。
「うん、大丈夫? すっごく疲れてるみたい、生徒会の仕事忙しいもんね」
「ううん、いやちょっと別の事が気がかりで……」
「え?」
「あああ、ううんなんでもない! こっちの話」
本当に大丈夫? と心配そうな顔で念入りに確認をされてしまった。慌てて顔を作り直し、どうしたの? とコルザちゃんの話を促した。コルザちゃんはパッと顔を明るくし、手元の封筒を私に差し出してくれた。
「実はね、アイリスちゃん達生徒会の皆さんに観劇の招待状を渡そうと思って。部員の家族席とかと一緒なんだけど、尽力していただいた生徒会の皆さんにはぜひ前の方で見てもらいたくて」
「えええ! いいの!? すっごく嬉しい、ぜひ行かせてもらうね。ありがとう! 劇の調子はどう?」
私がそう尋ねると、コルザちゃんは待ってましたと言わんばかりに先ほどよりももっと嬉しそうな顔で、ずいっと身を乗り出して私に熱く語り始めた。
「クロトン様本当にすごいんだよ! セリフはすぐ覚えちゃうし、台本だけでミルティーユの意図がほぼわかっているみたいにすぐ演じちゃうの。何か言われてもすぐ直しちゃうし。やっぱり大女優の子って演技の才能が受け継がれているのかな。本当に感動しちゃった」
「わぁ、そうなんだ。クロトンって本当にすごいんだね。すっごい楽しみだなぁ」
「うん、明日来てくれるの楽しみにしてるね!」
コルザはそう言って颯爽と自身の席に戻っていった。いよいよ明日、クロトンの劇が見られるのか。忙しいようであのファンクラブの騒動の後、二度くらいしか顔を合わせられていないのだけど、楽しくやっているようで良かった。
私も気合を入れて学園祭頑張ろう……じゃなかった、学園祭イベントをどうにか成立させよう。
ヴィオレが夏季休暇中にパラメーターを上げにせっかく付き合ってくれたんだ。ヒロインらしく、と頑張ってから初めてのイベントである学園祭。ここにはせめて、イベントを発生させたい。
私は決意改たに、ホームルーム後。まずはクロトンに会いに行くことにした。
「あ、アイリス」
「あ、クロトン!」
ちょうど、クロトンと開けた渡り廊下で会うことができた。まだ少し演劇部の集合時間まで時間があるから、と渡り廊下横の広場に、そのまま二人で移動してベンチに座る。
私はクロトンにコルザからもらった招待状を見せて、話し始めた。
「明日、皆で見に行くからね。コルザから特別席の招待状もらったんだ」
「あ、もうもらったんだ……」
クロトンはポケットから何か出そうとしていたのを、すっとしまった。どうしたんだろうとクロトンを見ると、照れくさそうに笑いながら言った。
「実は僕もアイリスに渡そうかと思ってたんだけど、じゃあいらないね」
「え、そうだったの!? ありがとう、絶対にいくね。あ……でも前の方の席なのに、空席出来ちゃうのか」
「いやぁ……まぁ、渡す人いるっちゃいるんだけど……」
今度は少し気まずそうに視線を逸らしてクロトンが考え込むようにして言う。私がクロトンの顔を見つめながら次の言葉を待っていると、少し困ったように笑ってある人物を口に出す。
「父親」
あ、と私も思い当たって口を噤んだ。クロトンがそのまま苦笑いしながら、いつもの軽い調子で言葉を続けた。
「苦手なんだよねー。あっちも急に現れた子どもとの接し方に困ってるみたいだし、僕自身もどう接したらいいかわからないし。そんな感じで一緒に暮らして6年近いけど、ほとんど話したことなくて」
以前聞いた洗礼の後にようやく会えたクロトンの父の事。10歳のクロトンがずっと殺されると思っていた父との暮らしは気持ちの折り合いもつけ辛かっただろうし、誤解が解けたとはいえ、16歳までの今までであまり良い関係を築けていないことはクロトンの言葉から以前からなんとなく察していた。
でも、クロトンからはもう今は憎しみの感情は感じられない。だから、何かきっかけがあれば良い方向に少しでも進むかもしれない、と思うんだけど……。そうだ、と私は顔を上げてクロトンと目を合わせた。
「そっか……でも、お父様のこと嫌いじゃないんだよね? どうしたらいいかわからないだけで」
「え? まぁ、うん。そうだね」
「じゃあ、これがいいきっかけになるかもよ。私、会えたら挨拶したいな」
そう言って微笑むと、クロトンは少し目を丸くした後、優しげに目を細めた。
「なんか、アイリスにそう言われると前向きになれるな。じゃあ、渡してみるよ。まぁ、急に明日なんて来れないって言われちゃいそうだけど」
「でも、きっと声をかけてもらっただけで嬉しいよ。良い方向に進むといいね」
「ありがとう。また話聞いて」
「うん、ぜひ話してね」
私は演劇部の練習場に向かう方向を歩いていくクロトンに手を振って見送る。クロトンのお父様、来られるといいな。そう願いながら、私も気持ちを切り替え生徒会室に行って仕事をしよう……と気持ちよくベンチから立った後に気が付いた。
「ああああああああああ、クロトンに学園祭一緒に回るとかの話できなかったあああ」
頭を抱えながら膝から崩れ落ちる。
クロトンの方へ手を伸ばすも、そこにはもう誰もいなかった。
読んで頂きましてありがとうございました。
学園祭、はたしてヒロインは攻略対象とイベントが回れるのでしょうか。




