26.5.攻略対象でしたが姉の暴走が酷いです
24話後、アイリスたち生徒会の様子をヴィオレ視点で書きました。
「ファンクラブを作るぞー!!」
静かだった生徒会室の扉がバンっとけたたましく開け放たれたかと思えば、その先にはアイリスがいた。なにやらとても嬉しそうな明るい顔をしている。
「なんだよ、急に」
何かまたきっと変な事を言い出したに違いない、とアイリスを見るが、俺の視線なんて全く気にもせず、アイリスは執務用の机で作業しているローランとセージを見つけるなり、急に姿勢を正した。
「あ、殿下とサジェス卿もいらっしゃったんですね」
「そりゃあ、ここは生徒会室だからね」
「うるさいぞ、アイリス嬢」
「すみません。でもね、良い案を思いついたの!」
こうなった時のアイリスはもう人の話をほとんど聞いていない。
アイリスはツカツカと足早にこちらに来るなり、大きな声で堂々と急に話し始めた。
「騒ぐなら 目的与えよ ホトトギス!」
「ほとと……なんだい? それ」
「ねぇちゃ……じゃなくて、アイリス。あのな、急にそんなこと言われてもわからないって」
「あぁ、ごめんごめん」
ほととぎすも鳴かぬならの有名な歌なんてものも勿論知らないローランは、首を傾げながらアイリスの発言を聞いている。何やら大興奮で伝えてきた姉をとりあえず落ち着かせた。
アイリスは少し恥ずかしかったようで、少し顔を赤くしながら軽い調子で謝った。そして、急に真剣な顔をして俺たちに身を乗り出して説明をし始める。
「あのさ、クロトンが追っかけ集団で参ってるって言ってたじゃない? あ、殿下達ヴィオレから話は……」
「聞いているよ」
「良かった! でね、じゃあ追いかけ集団に規律を守らせ、集団意識を高め、なおかつ皆が楽しくなることを考えました!」
アイリスの案なんてきっとロクなものじゃない。何やら制服のポケットから取り出したかと思えば、俺たちにそれを突き出して楽し気に言った。
「じゃーん、ファンクラブ大作戦です!」
じゃーん、じゃねぇよ。
またやはり変な事を言い出したと俺が頭を抱えていると、ローランとセージは姉の作ったカードを見て、首を傾げながら真面目に聞こうとしている。
「ファンクラブ……?」
「なんだそれは」
「あ、そっかファンクラブの文化がなかったんだった。あのですね、殿下。サジェス卿。皆、共通してクロトンが好きじゃないですか。それで、じゃあいっそその集団を活動として認めようってことです。今は皆それぞれがクロトンに向かっているけど、ファンクラブを立ち上げてお互いにクロトンの良さを話したり、クロトンが困るような事をしないという規律を集団で守ることにすれば良いんじゃないかなって。そしたら、クロトンがいなくてもファンクラブ同士の交流として、クロトンの話をするだけでも楽しいし、お互いの監視役にもなるからクロトンが困るようなことしなくなる」
ローランとセージと俺は顔を見合わせ、少し時が止まる。
少しの無言の時間にアイリスは不安になったようで、おろおろと俺たちを見つめる。
「……と、いう案だったんですけど。やっぱり、だめかな」
「いや、いいんじゃないか? ファンクラブ」
「そのファンクラブに入っているという証としてそれを持たせるんだな」
「まぁ、悪くねぇかもな。アイリスの案としては」
「ほんと!? 良かったー、じゃあ皆でつくりましょっか!」
「……ん?」
「ほら、この会員証! 皆で作った方が早いでしょ!」
無邪気な笑顔にセージもローランも何も言えなくなる。執務用の机にこんなに書類が溜まっているのに、平気でそんなことを言えるアイリスの胆力に感嘆する。間違いなくこの図々しさはヒロインの気質だ。転生先としてぴったりだよ、ねぇちゃん。
「そうだな、生徒会として今のクロトン・セヴェールの現状は見過ごす訳にはいかないからな」
「おい、ローラン。俺がやるから、お前は」
「いーや、生徒会としてなんとかしないといけないことだしね。それになんだか楽しそうだし、皆でやろう」
「お前は少しサボりたくなっただけだろ、ローラン」
皆で応接テーブルに移り、1枚目の見本となる会員証を見ながらちまちまと会員証の作成を始めた。
この作業は「絶対500枚はいる!」と聞かないアイリスの発言から、この作業は日が沈むまでかかることになる。
終わった頃には俺たちはクタクタで、でも変な達成感も感じていた。
「終わったー! 皆おつかれさま」
作り終えた会員証をとんとんと順番に整えて綺麗に束にし、アイリスはきれいな箱に詰めだした。
それにしても今回の案はアイリスにしては妙案だな、と思う。俺は一仕事終えて少し晴れやかな顔をしているアイリスに尋ねてみた。
「よく思いついたな、こんなこと」
「えへへ。最初はゲームみたいにクロトンの傍にいることを考えたんだけど、多分私が彼女たちが自然と諦めちゃうような素敵な女の子になるのはまだまだ時間がかかりそうだから、これが一番良いかと思って。それに推し活って楽しいじゃない? ちゃんと道筋を整えたら、彼女たちももっと楽しくなると思うし、クロトンの状況も落ち着くかなと思って」
「……そうかもな」
後ろ向きなんだか前向きなんだかわからないようなことをくしゃりと笑いながら言う姿が、アイリスらしくて笑ってしまった。
アイリスの考えに感心していると、アイリスは最初に作り始めた会員証を箱に詰める前に001番の会員証を抜き取り、高らかに俺たちに宣言をする。
「じゃ、私はこの最初の会員証001をもらうね!!」
「それって職権乱用じゃね? 001って特別なんだろ」
「功労者なんだから001は私がもらってもよくない!?」
「001はそんなに大切なものなのか……?」
セージが眉間に皺を寄せて悩んでいる中、俺とアイリスがそうずっと言い争っていると、ローランが呆れた顔で笑いながらアイリスからその会員証をさらっと奪い取った。
「はいはいはい、じゃあこれは王族である私がもらうから君たちは002~004を好きに分け合えばいいよ」
「あぁぁぁぁ、殿下が出てきたらそりゃ私はもう何も言えませんよ! じゃあ、私2番!!」
「番号が若い事がなぜそんなに大事なんだ……?」
セージがまじまじと4番を見ながら、つぶやく。
これでうまくいくといいけど、と思いながら俺は003の会員証を手に取った。
明日はついに作戦決行日。果たしてうまくいくのだろうか、と少しの不安を抱えながら。
読んで頂きましてありがとうございました。
学園祭より学園祭準備の方が楽しかったりしますよね




