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ヒロインなんですが誰も攻略してくれません!~誰か攻略してください~  作者: minori


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26.ヒロインなんですが攻略対象と近付けそうな気がします

 

 急いで舞台袖にいるクロトン達のところへ来た。

 舞台袖には沢山の演劇部員の人たちもたくさん待機している。ようやくミルティーユも望んだクロトンという主役が来たのにこんなことになってしまって申し訳ない。


「コルザちゃん、ミルティーユちゃん。演劇部の皆さん、長く練習の邪魔をしちゃってごめんね」


 私が舞台袖に来て頭を下げると、ミルティーユが私の手を握り真っ直ぐに私を見つめた。


「いいえ、きっと生徒会の皆さんが来てくれなかったら収集がつかなくてもっとひどいことになってたと思います。ありがとうございました」

「そう言ってくれてありがとう、遅れちゃってごめんね。ケガをした人はいないかな」

「うん! 騒ぎになってすぐに来てくれたんだよ。アイリスちゃんたち。本当にありがとう! せっかくクロトン様の説得に成功したのに、だめになっちゃったらどうしようってハラハラしてたの」


 コルザが明るい顔でそう言い、後ろで演劇部員達が同意しながら困ったように笑っていた。とりあえず、皆怪我が無さそうで良かった。

 クロトンに視線を向ける。先ほどからずっと少し驚いたような顔で私を見ていた。クロトンに相談する前にこの事態になってしまっていたから、事前に説明や承諾を得られなかったことが心残りだ。ただ、全力でクロトンの学園生活が守られるように振舞ったつもりだ。

 

「クロトン、ごめんね。結局クロトンを盛大に巻き込む形にはなっちゃったんだけど、皆にどういう風に接してもらうかクロトンから伝えてもらった方が騒ぎが収まるかと思ったの。事前に相談できたら良かったんだけど」

「ううん。……それ、見せて」

「へ、これ?」


 クロトンは私が抱えている会員証の詰まった箱を指差した。私は中から一枚取り出し、クロトンに手渡した。クロトンは会員証をしげしげと見つめ、裏返して見る。ん? と気になったことがあったようで、私にその部分を指差して尋ねた。


「……推し? 推しって何?」

「へ……あ、あぁ。えっと……なんていったら良いんだろう。えっと……すごく応援したい大好きな人ってことかな」

「すごく応援したい大好きな人……? なにそれ、あはははは」


 私の言葉を聞いてきょとんとした後、クロトンは大笑いをした。笑いすぎて目から涙が流れているのを、人差し指で拭っている。何がそんなに面白いんだろう、と見つめていると、クロトンは私に会員証の裏面を指差しながら聞いてきた。


「これって告白?」

「へ!? 違うよ! 推しの定義ってなんか難しいんだよね、改めて言われるとなんて説明したらいいか。偶像崇拝的な、うーん……よくわからないけど応援したいくらい大好きな人ってことなの!」

「ふーん、そっか」


 静かに笑ってクロトンが舞台袖から私の方へと歩き、私を追い抜いて舞台近くまで歩いていく。そこで振り返り、私に微笑み手を差し伸べた。彼の後ろから舞台の光が差していて本当にこの舞台の主役のような華やかさだ。


「じゃあ、応援してもらおうかな。いくんでしょ、舞台。行こう、アイリス」

「うん!」


 私は彼の手を取ろうと手を伸ばしたが、これを見られるとファンの熱がまた上がってしまうと思い返し、ハイタッチに変えた。クロトンはまた笑って舞台へと躍り出た。

 クロトンが観客に見える前にヴィオレやローラン、セージが拍手をし始める。実際にクロトンが見えるようになった時、それにならって女の子の集団も同じく拍手で出迎えてくれた。


「すみません、お待たせしましたー! では皆さんでクロトンの推し方について、クロトンと直接お話していきましょうー!」

「おしかた……?」

「あ、えっとー……好きな人を応援する方法みたいなこと、かな。では、皆さんすり合わせしていきましょう!」


 私がそう言うと、早速手が上がった。私がはい、どうぞと指名をしていく。そこで女の子が緊張した面持ちで、舞台へ向かって問いかけた。


「早速すみません、あの。クロトン様におはよう等の挨拶はしてもかまいませんでしょうか?」

「あぁ、もちろん。いいよ」


 クロトンが微笑みながら答える。それに小さい歓声も上がりながら、どんどん手が上がっていく。そして、次の女の子が話し始めた。


「練習が終わってから入口で待たせていただくのはよろしいでしょうか」

「あーそれは……やめておこうか。遅くなると君たちも帰りが遅くなって危ないからね」


 クロトンがウインクをしながら答えると、大きな歓声で会場が湧いた。その中で次の質問が飛んでくる。 


「では、練習前はよろしいですか?」

「ごめんね、演劇部の皆もスムーズに入りにくいし大道具の出入りもあって人が多いと危ないんだ。劇の内容も当日の楽しみにしてほしいから、それもやめてほしい」


 舞台袖で軽装をした子たちが何人か頷いていた。大道具係の子たちだろうか。クロトンも演劇部にきてまだ二日目とかなのに、もう演劇部のことを把握していてすごいなと感心する。

 それからも質問はどんどん飛んできた。私も手を挙げてクロトンに推し方について尋ねてみたり、ローランも参加してきたりと私自身もクロトンもよく笑う。アットホームで良い空間だ。

 最後は、皆会員証を受け取って楽しそうな笑顔を見せて帰ったのだが、その受け渡しをクロトン自身でやると言ったのには驚いた。あまり前に出るタイプではないと思っていたんだけど、何か変化があったのだろうか。

 そういった流れで大盛り上がりの中、初のクロトンファンクラブの集いは大成功で幕を閉じたのであった。結局この日一日は演劇部の練習時間を奪ってしまったのだけど。でも、まだ時間はあるし、これからあのトラブルが無い方がずっと良いからと言ってもらえて少し安心している。

 初めて自分で考えて行動を起こしたから、色々な人に迷惑をかけてしまったけど、クロトンの学園生活が今よりはずっと落ち着いたものになりそうだ。

 そして、最後にクロトンが生徒会の皆と対峙した。


「その手……」


 クロトンがまず注目したのは絆創膏だらけの私たちの手。昨日の会員証作りがなかなかに大変で皆手が傷だらけだ。私たちは苦笑いをしながら顔を見合わせた。

 

「よく見たら隈まで……。みんな、不器用だね」

「あはは……」

「こういう細かい作業は初めてやったからね」

「意外と難しいんだぞ、お前もやってみろ。同じ目に遭わせてやる」

「いや、僕は手先器用だから多分大丈夫かな」

「なんだと……」

「あーもうセージもクロトンも喧嘩始めんなって」


 疲れで少し機嫌の悪いセージと飄々としたクロトンの調子が合わず、一触即発の空気となるが、ヴィオレが止めに入る。穏やかな空気に私とローランは笑っていた。

 クロトンは穏やかな表情で改めて私たちに向き直る。


「とにかく、みんなありがとう。忙しいと思うけど、良かったら劇も観に来てほしいな」

「あぁ、絶対に都合をつけて拝見させてもらうよ」

「絶対絶対いくよ! 学園祭で一番の楽しみだもん」

「そうだね、ファンクラブ2番目の子だもんね。ちゃんと来てもらおうかな」

「あ、ちなみに1番は殿下だよ」

「え、うそ……ローラン王子、僕のファンクラブ第一人者なんですか」

「あぁ、これからもよろしく頼むよ」


 穏やかに笑うローランの様子にたじろぐクロトン。

 その様子に私はまた笑ってしまう。今日はクロトンが幸せな学園生活が送れるようになるかもしれない1日目なのだ。とても嬉しい。

 そんな明るい雰囲気のまま皆で帰り支度をし始めた。私たちは昨日の分も仕事が溜まっているので、これから生徒会室だ。ローランとセージが先に行ってると言って足早に生徒会室に向かっていく。よほど仕事が溜まっているらしい。セージがいつもより機嫌が悪いのはもちろんだけど、ローランがにこにこしながらも足の速さが尋常じゃないのでよほど忙しいのだろう。

 その姿を見ながら、私とヴィオレもいつもより早い足取りで生徒会室に向かう。ヴィオレは私に向かって、先ほどの舞台の様子について話してくれた。


「それにしても、あの演説姿。しっかり父親似だな、思い出しちゃったよ。フルール公爵を」


 だんだんと話していくうちにげっそりした顔になっていくヴィオレ。まぁヴィオレはお父様のこと苦手みたいだしな。お父様、面白くて優しくて大好きだけど。私はヴィオレの様子が面白くて笑いながら指摘する。


「あはは、ヴィオレってほんとうちのお父様の事苦手だよね」

「そりゃそうだろ……」


 何故か疲れ切った表情をするヴィオレ。私の父とヴィオレの間に何があったんだろうか……。

 まぁとにかく、攻略対象キャラのファンクラブと作って規律を正し、この世界の平和に多少軌道修正ができたのであった。めでたしめでたし、で締めたいんだけど、これからの学園祭の準備も忙しいんだよなぁ……。とにかく新しい攻略対象キャラのクロトンに出会えたし、今まではともかくこれからのクロトンの学園生活は楽しいものにしていきたい。そして、私もヒロインとして着実に一歩ずつ頑張っていつか誰かとフルグレみたいな恋ができたらいいな。


読んで頂きましてありがとうございました。

クロトンはひと段落つきましたが、学園祭自体はこれからですね。学園祭は準備が楽しかったなぁ。

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