24.ヒロインなんですが攻略対象の不登校を阻止したいと思います
「え……」
衝撃的な発言に固まっていると、ニヤリと不適に笑っていたクロトンは急に吹き出して笑った。
「あはは、冗談だよ。すごい間抜けな顔!」
「も、もう! 本気にしたじゃない!」
私が怒っていると楽しそうに笑うクロトン。涙が出るほど笑っている。そこまで追い詰めてしまっていたのかと本当に後悔していたのに、こんなに明るくされるともはや腹が立ってしまう。
一頻り笑い終わると、クロトンは涙を拭きながらまた軽快に話し始めた。
「まぁ、まったくの冗談ってわけじゃないんだけど」
「え、そうなの……」
「そんなに心配しないでよ。うーん……」
また、少し悩んだ様子を見せる。私はクロトンの横顔を見ながら次の言葉を待っていると、私の顔を見てふっと力を抜いたように笑った。
「まぁ、アイリス良い子そうだし。話しちゃおっかな」
仕方ない、という風に諦めたように笑ってクロトンが静かに話し始めた。
「僕の母のことは聞いた?」
「あ、うん。有名な女優さんだったんだって」
「じゃあ、父の事も聞いたでしょ?」
「うん、ずっとクロトンを探してたって……」
「僕はさ……ずっと絶対にセヴェール家に見つかるなって言われて育ったんだ。殺されるって」
「え? そうだったの……」
「まぁ、さすらいの旅女優の子に血筋がいくと困るんじゃない? 貴族の事は今でもよくわからないけど」
ふと強く吹いた風になびいた髪を耳にかける。表情がより見えるようになった。その顔は悲しそうでも泣きそうでもない、まるで日常のなんでもないことを話すようなクロトンの横顔で、かえって私の胸を締め付けた。
「そんなことで誤解は解けたけどまだ父への蟠りはあるし、他にも貴族にはちょっと恨みがあってね。どうも、貴族だらけのこの学園って居づらいんだよね。女の子に追いかけまわされたり、色々言われたりも鬱陶しいけど、そこだけじゃないというか。だから、まぁ退学とかなっても楽なのかな~って思ったり」
冗談を言うみたいにカラカラと笑いながら話すクロトン。きっと重く受け止めないように私に言ってくれているだけで、私には想像のできないような人生を歩んできたんだろう。
フルグレの世界でしかもヒロインに転生できたと、ただ喜びながら貴族としての生き方を享受してきたことが恥ずかしくなった。せめて、私がヒロインらしく生きていたら、クロトンは学園生活は楽しく過ごせていたかもしれないのに。
「ごめんね、私が最初からクロトンの傍に居られたら、もっと楽しく学園生活送れたと思うのに私のせいで……」
「え? アイリスのせいじゃないでしょ。どんな責任の負い方なの、ほんと面白いね」
「え!? あ、いやぁ……でもクロトンの嫌いな貴族の中でも私には言えない人きっと多いから」
つい、ゲームのヒロインみたく最初から一緒に居られたらと話しそうになったのを慌てて誤魔化した。クロトンはそんな私の言葉を聞いて、少し驚いた顔をした後に私の顔を覗き込み、また怪しげな笑みを浮かべながら私の頬にそっと手を添えて言う。
「そんな目的でアイリスと仲良くなるのはやだな、友だちとして仲良くしたいよ」
私は、はいはいと受け流しながら、そっとクロトンの手を頬から離す。それにクロトンが笑った。先ほどとは違うあたたかな雰囲気が静かに流れていくのを感じる。やっぱり、クロトンとアイリスがよく一緒に居たのはとても相性が良いんだろうな。すごく居心地が良い。
そして、これでわかった。ゲームのクロトンはアイリスのこと、自分の盾としてじゃなくて本当に仲良しの友人でその後には恋人として大切にしてくれていたんだって。
だってまだ仲良くなっていない私にだって、こんな風に言ってくれるんだから。クロトンはやっぱり、少しわかりにくいけど優しい人。
そんな優しい未来の友人の学園生活、絶対に楽しくしてあげたい。
「もう、そういうことして誘惑するのやめてよね。びっくりしちゃうでしょ」
「あはは。ごめんごめん。なんだか久しぶりに笑った気がするよ。ほんと、アイリスとはまだ出会って間もないのに不思議だね」
「同級生だし、クラスは違うけど。これからも仲良くしよう、困ってるときは助けるから。友人としても、生徒会としても」
「うん、ありがとう」
穏やかに笑うクロトンには申し訳ないけど、私の心にはまだ引っかかっている存在があった。ミルティーユだ。ミルティーユとミルティーユのおばあさん。
多分、さっきの様子からクロトンはミルティーユの切実な理由は知らないだろう。それとなく、演劇についてはどうなのか聞いてみようと、私はクロトンに聞いてみることにした。
「ごめんね、さっきのミルティーユの話に戻るんだけどさ……」
クロトンは私が言いにくそうに詰まっていると、首をかしげながら次の言葉を待った。
「クロトンは演劇、やるつもりないの?」
嫌な気持ちにさせるかも。そんな心配とは裏腹に、クロトンは軽く悩んだ様子を見せた後、けろりと答えてくれた。
「んー、実はちょっとやってみたいんだよね」
「え! そうなんだ、じゃあ……」
「ただ、多分劇出ちゃうと余計に女の子たちが来ちゃいそうだから。危険かなって
」
「あーなるほど……」
「母の見ていた景色を見てみたいな、とは思うんだけどね」
「そっかぁ……」
たしかに、ただ居るだけであの騒ぎになるクロトンが舞台になんて出たらどうなるか。クロトンの懸念は当たっている。……でも、そうか。学園に来たくない、と思っていたクロトンが唯一少しでもやってみたいと思えたことは演劇だったのか。それなら、私はそれができるように全力で応援したい。
クロトンだけではなく、ミルティーユの為にも。
そして、ふとクロトンの発言からあることに気付く。
「……ということは、女の子たちがクロトンに迷惑をかけなかったら劇に出たいってことなのね?」
「え、まぁそうだけど。無理だよそんなの。」
「ううん、やってみる。ちょっと考えないとだけど。大丈夫、安心して! 一緒にミルティーユのところに行こう!」
「絶対無理だって」
「大丈夫。絶対、なんとかするから! それに、クロトンがこの学園での生活、楽しくなるように頑張るって決めてたの私! あと、ヴィオレが王族盾にしたらなんでもこっちのもんだって言ってた!」
「……王子の側近がそんなこと言っていいの。大丈夫? うちの生徒会」
クロトンの手を無理やり引っ張っていき、クロトンはそれに苦笑しながらついてきてくれた。
クロトンのスチルはいつもキラキラしたきれいな笑顔が映っていた。もし、今それが叶っていないのなら私が頑張らないといけない。そのための第一歩を今2人で踏み出した。
読んで頂きましてありがとうございました。
やりたいことがあるっていいですね。




