23.ヒロインなんですが攻略対象の為に奔走します
さて、クロトンが幸せな学園生活を送るように頑張るって言ったけど、私は一体何をしたら良いんだろう。
私はとりあえずクロトンとの接触を試みようとクロトンがいるクラスへ向かっているのだが、会って何をすればいいんだろうとずっと悩んでいた。
ヴィオレと固く腕を組み合っても別に知恵が湧いてくるわけでもあるまいし。
とにかく当人に会ってから考えるしかないかと迷いながらも進んでいると、後ろから女の子に声をかけられた。
「あー、アイリスちゃん!」
「コルザちゃん!」
クラスメイトのコルザちゃんだ。彼女が私を見つけ、話しかけてきた。
コルザちゃんは昨日のクロトンが囲まれていた時に私を見つけ、声をかけてくれた子だ。コルザちゃんはにこにこしながら私に近づいた。
「アイリスちゃんってクロトン様の追っかけ組だったの?」
「ううん、仲良くなりたいとは思ってるけど。コルザちゃんは? 昨日あそこにいたよね」
「私も違うよ! 実は演劇部の友だちとクロトン様に出演をお願いしていたんだ」
「あ、そうだったんだ」
「友だちがね、今回監督しているんだけど。主役はクロトン様じゃないと考えられないって。結局昨日は他の子たちが沢山きちゃって、いつの間にかクロトン様とお話もできない場所まで流されちゃったんだけど」
「あはは、すごかったね……昨日」
「本当! いつも誰かに話しかけられてるからなかなか話せなくて。昨日ようやく話せたと思ったらすぐあぁなっちゃうんだもん。今日こそってまた友だちと約束して今クロトン様のところに行こうと思ってたの」
「そっかぁ、そうだったんだね」
クロトンの周りにいる人には、クロトンに魅力を感じているという理由だけでないみたいだ。クラスに着く前に開けた渡り廊下横の広場でクロトンが誰かと一緒に居るのが見えて、私は足を止めた。
「あ、ミルティーユ……とクロトン様」
コルザちゃんが女の子の存在に気付き、同じく足を止めた。三つ編みにメガネの小さな女の子が、クロトンに何やら必死に話しかけているのを見つけた。
「クロトン様、お願いします! クロトン様のオルキデが見たいんです」
「ごめんね。無理かな」
「この作品をやると決まってからずっと、クロトン様のイメージしかなかったんです。クロトン様のお母さまのオルキデは伝説とも呼ばれています。脚本も全部クロトン様のイメージで書き換えました。自分で言うのもなんですが、良い作品だと……」
「悪いけど、しつこいよ君。僕には無理だ、今後こう言われても受け入れるつもりはない。もう二度と勧誘しないでくれ。昨日もあんなに騒ぎになったし、迷惑なんだ」
ゲームの中では少し軽くて柔らかい印象のクロトンが、ミルティーユに冷たい顔でピシャリと言い放つ。ミルティーユは小さな声で謝罪し、俯いてしまった。
クロトンはこちらに来ようとして一瞬私と目が合うと、ばつが悪そうに踵を返して反対側へ歩いていってしまった。タイミングの悪い時に来てしまったみたいだ。
「ミルティーユ……」
コルザはミルティーユに駆け寄って、背中をさする。
私もその後を追って、ミルティーユという子の傍まで来た。
「大丈夫?」
「……ごめんなさい、大丈夫です」
今にも涙が零れそうなのを必死にこらえているような声で、顔を俯かせたまま小さく震えるミルティーユ。コルザがすぐそばに置いてあるベンチに誘導し、コルザとミルティーユがベンチに座る。
昨日の女の子たちとは様子が違っており、何やらとても必死な様子が気になり、私はミルティーユに尋ねてみた。
「……あの、ごめんね。なんで、その劇、クロトンじゃないとダメなのかな」
気持ちを落ち着かせようと、ミルティーユが何度か深呼吸をした後にゆっくりと話し始めた。
「今度する劇は私の祖母が大好きな演目だったんです。もう1度だけ、見たいって言っていたのを覚えていて。もう今は目が見えなくなってきているんです、今回を逃したらもうきっと……。クロトン様が入学されたと聞いて、勝手ながら本当に期待をしてしまって。私の脚本で、私の演出した舞台で、クロトン様に演じていただく伝説のオルキデを再来させたかったんです。でも……。生徒会の手も煩わせてしまって、申し訳ございませんでした。もう、諦めます」
「あ……」
そう一息に言って、どこかへ駆け出してしまった。コルザはミルティーユを追いかける。
一人ぽつん、と私はその小さくなっていく二人の姿を見つめていた。
昨日の周りにいたクロトンの女の子たちと雰囲気が違ったと思ったけど、こういう理由だったのか。クロトンの幸せな学園生活を、とだけ考えていたけど。あんなに一生懸命なミルティーユの姿を見ると、自分でもどうしたらいいかわからなくなる。
「とにかく、クロトンに会いに行ってみよう……」
このまま会わずに時間が経ってしまったら気まずくなってしまうのもあるし、一度クロトンと話してみようと私はクロトンを探した。幸い近くの庭園のベンチに座っているのを見つけた。木陰で穏やかな風に長い髪をたなびかせている姿は、とても美しい。薄茶色の長い髪に少し垂れ目だけど切れ長の橙色の瞳。肌は陶器のようにきれいで、本当に彫刻のような整った美しさだ。
私はクロトンにそっと近寄って、話しかけた。
「クロトン」
「あ……趣味が悪いね、見ていたなんて」
私に視線を向けると、少し苦笑いをするクロトン。
結果的に嫌な場面を盗み見てしまったようで申し訳ない。
「あはは、ごめんね。クロトンに会いに来たんだけど、タイミングが悪かったみたいで」
「僕に会いに?」
「うん、隣座ってもいいかな」
「どうぞ、レディ」
軽くお辞儀をしてクロトンの隣に促すように手を差し伸べて、私を座らせてくれた。
少し軽い様子とゲームでも聞いたセリフに思わず笑ってしまう。彼はそのまま少しミステリアスで軽くて、でもとても魅力的で本当は優しい男の子だ。
「で、なんで僕に?」
「えーっと、私もどういったら良いのかよくわからないんだけどさ。大変って言ってたじゃない? 学園生活。生徒会として何かできないかなぁって、話を聞きに来たんだけど」
本当に何の案もなくて申し訳ないが、そのままの気持ちを話した。
クロトンは顎に手を当てて、うーん……としばらく考える。こちらから解決案を提示するでもなく、すべて丸投げの発言になってしまって不甲斐ない。ヴィオレやローラン、セージなら何か案を出せたのかもしれないが、頭脳派は生憎皆出払っているので私がどうにかするしかない。
クロトンはしばらく考え込んだ後、ニヤリと笑って私を見た。危険な魅力とでもいうのか、なんだかとてもドキドキしてしまう。私はクロトンの言葉を待つ。
「じゃあ、退学にでもしてくれる? 王子様である生徒会長の権限とかで」
にっこりと笑うクロトンの笑顔から出てきたとは思えない衝撃的な言葉に私は固まってしまった。
読んで頂きましてありがとうございました。
クロトンの美しさ私も拝見してみたいですね。




