21.ヒロインなんですが攻略対象に謝罪しました
女の子の非難の声を浴びながらクロトンの元へ突き進む。
何十人……いや、百人以上かも。一体何人いるんだろう、すごい人だ。人波を突き進むのがこんなに怖くて大変だとは知らなかった。この人波に囲まれたクロトンはどれだけ怖くて、困っているだろう。私は人波をかき分けながら自分にかけられる非難の声に怯みそうになるも突き進み、ようやくクロトンの前まで来れた。
「クロトン! はぁ、ようやくここまで来れた! 私のせいで本当にごめんね!」
「……え? どういうこと、ですか」
あ、勢いでついそのまま謝ってしまった。急に現れた上に謝罪までされたクロトンは当たり前だが困惑している様子だ。しかし、フルグレ随一のイケメンキャラ。困った顔すら美しい。……じゃなくて、私はとにかく急に謝った理由をなんとかしようとしどろもどろになりながらも説明をしようとした。
「あ……えっと。その、ごめんなさい。違くて、えっと……」
「ちょっと! あなたクロトン様のなんなのよ!」
説明しようと慌てていたところ、後ろから無理やりやってきた私の存在に前列の女の子たちが更にヒートアップしてしまった。誰かに肩を強く押されてしまった勢いでよろけてしまい、クロトンに向かって倒れこみそうになる。クロトンは私をそっと受け止め、大丈夫? と顔を覗き込んで尋ねてくれた。その光景にまた女の子たちの悲鳴が上がる。
「ちょっと、クロトン様から離れなさいよ!」
「あんた誰よ!」
「あれー? アイリスちゃんじゃない? アイリスちゃ~ん!」
「え、アイリス様? フルール公爵家の?」
あ、一人クラスメイトの女の子がいた。振り返って女の子の集団を見てみると、のんきに私に手を振っているのが8列目あたりから見える。私がフルール公爵家のアイリスだと分かったことで、ざわめいていた集団の女の子たちが少し大人しくなる。そこにちょうどヴィオレが人波をかき分けて、ここまで到着した。
「はーい、ごめんねごめんね。生徒会でーす! 危ないからはけてはけてー! みなさん解散してくださーい」
「まぁ、ヴィオレ様までいらっしゃるわ」
「ああん、もう。今日こそお話できるチャンスかと思ったのにぃ」
「クロトン様、またお会いできるのを楽しみにしております~!」
女の子たちはヴィオレの注意を聞いて、残念そうに惜しみながらもそれぞれが帰っていった。
女の子たちが居なくなると、クロトンは深く長いため息を吐いた。物憂げな表情すら美しい。私の方に顔を向けて、あっと何かに気付いたような顔をして先ほどの疑問をまた問いかけた。
「それで私のせいでってどういう……」
「あ、えっとその……」
「は!? お前そんなこと言ったのか? あ、いやー。あの来るのが遅れてって! 俺たち生徒会役員だから、こういうの抑えないといけなくて」
さすが最高の私のサポートキャラであるヴィオレ。悩んでいた回答もすっきりと答えてくれた。私はヴィオレが答えてくれたことに激しく頷きながらクロトンを見た。
「あぁ、なるほど。助けてくれて、むしろ感謝しているよ。夏季休暇後からひどくなっていてね、困っているんだ。まぁ入学後からここまでは酷くなくても、こういうことはあったんだけど」
疲れ切った顔で遠くを見つめるクロトン。これは相当参っていた様子だ。
おそらく私が無自覚にも巻き起こしてしまった状況のせいで相当な苦労をさせていてしまったらしい。本当に申し訳ない。心がずん、と重くなり居たたまれなくなった。
ヴィオレはそのままクロトンに状況を確認する。
「そうだったのか、ごめん。俺たち今まで気が付かなくて」
「いや、ここまで大騒ぎになったのは初めてだったから。はぁ、困ったな」
「今日って何かあったのか?」
「あぁ、これだよ」
壁に貼られたポスターを指差す。学園祭の演劇についてだ。学園の演劇部が開催する劇だ。
私も大講堂の使用時間のタイムスケジュール作成で見た覚えがある。
「これに出ないかって、勧誘されていてね」
「あぁ、これ……あれ? クロトンって演劇部だっけ?」
「いや、違うよ。演劇部への勧誘と出演のお願いをされてね。まずは演劇部への勧誘から始まって、僕に話しかけている女の子を筆頭に色々な子が集まってきちゃってなんだかいつの間にかにこんな騒ぎに」
「そうか……よっぽどクロトンにぴったりな役があって、やってほしいとかなのかな?」
「……え?」
「おい……」
少し驚いたような顔で聞き返すクロトンと、肘で私を静かに小突くヴィオレ。
何かいけないことでも言ったのか、と状況がわからず戸惑ってしまった。
そんな私の様子に苦笑しながらクロトンが答えてくれた。
「あぁ、ごめん。僕の出自について知らない人がいたんだって、びっくりしちゃって。自意識過剰だったね。母が女優だったから、その期待もあるんだと思うよ」
「そうなんだ。ごめんなさい、私子どもの頃から入学前まで領地の端の静養地に居て社交界の事とか疎くて……」
「ううん、むしろその方が気が楽だよ。良かったらまた話しかけて、それじゃもうすぐ迎えがあるはずだから」
にこりと笑って手を軽く振り、私たちに背を向け歩いていくクロトン。
それを見送りながら、クロトンが聞こえない距離にいったところでヴィオレが私に話しかけた。
「お前、クロトン・セヴェールのこと知らねぇのか? 攻略対象だろ」
「知ってるよ、クロトンのことは。むしろ結構推してたよ。ただ、お母さんが女優とかは知らない情報だけど」
「あ!? そこが結構大事な話だと思うんだけど、ていうか多分クロトンについては俺の方が詳しいかもな。生徒会室の方がゆっくり話せそうだし、一旦生徒会室に行くか」
私はヴィオレと生徒会室へと足早に歩いていく。
ゲームでは家の事、親の事なんてクロトンに限らずほとんどのキャラの特に出てきてなかった。さらっとデュランダル公爵家は帝国の剣と言われてるほど軍事に優れているとか、そんなもの。オリヴィア様だってゲームには出ていない。本当にただ、攻略対象と会話やデートを楽しむだけだったのに一体何がどうなっているんだろう。
そんなことを考えていたらあっという間に生徒会室の扉の前まで着いた。ローランとセージは今日はそれぞれ教員会議や豊穣祭の準備でいない。ヴィオレは応接用のソファにドカッと座り、私もその向かいに座ってテーブルの上に書類を置いた。
「じゃ、仕事も終わんねぇから手動かしながらやるぞ」
「うい」
ひとまず、書類を分類別に振り分けながらヴィオレは話始めた。
私も手を動かしながら、ヴィオレの話を聞く。
「クロトンの親の事とか、生まれの事は知らねぇんだな?」
「うん」
「クロトンはセヴェール子爵家の一人息子。なんだけど、そうなったのもここ数年くらいの話。クロトンは養子なんだよ。現セヴェール当主の実子ではあるんだけど。セヴェール家の現当主はその舞台女優と結婚しようとしていたんだ。親の大反対があった中で」
「えぇー、ロマンチック!」
「でも、それは叶わなかった」
「え!?」
思わず、手が止まる。
ヴィオレは書類に目を通しながら、ずっと手を動かし続けていた。そのまま話を続けた。
読んで頂きましてありがとうございました。
漫画やゲームって結構な割合で親の存在が透明化されているけど、皆実際どうなんでしょうね。




