20.ヒロインなんですが、この世界の悪となってしまっていたようです
「な、なんだよこれ」
争うたくさんの声のする方へ走り、辿り着いた私とヴィオレ。
学校の中央広場が大変な騒ぎになっていた。
ヴィオレはあまりの光景に絶句する。多くの女の子が押し合いへし合いになりながら、お互いを罵るような金切り声を響かせている。何が起こってるのかとその集団の先を見ると、クロトンが困り果てた表情で立ち尽くしている姿が小さく見えた。クロトン・セヴェール。新しい攻略対象だ。
「あ、あそこ! クロトン! 攻略対象キャラ!」
「あぁ、あれか! ……うわ、すげぇ困ってる。そりゃそうだよな」
ヴィオレにクロトンの居る方向を指差して教える。
ヴィオレはその方向を見て、クロトンのうんざりしている表情に酷く同情した。私は未だ起こっている状況に理解ができず、混乱したままだ。
「でも、こんなこと……。ゲームでは起こってなかったよ、クロトンはたしかに色気があって綺麗なキャラだけど、こんな風に人に囲まれたりだなんて」
そう、クロトンは確かに女性のように美しい容姿のキャラクターだったけど、女性に囲まれていることやそのせいで起きるトラブルなんてものもゲーム内には存在しなかった。
そもそもクロトンは入学して早々にヒロインと仲良くなって、クロトンはアイリスとよくいるキャラクター。……私のパラメーターが低かったせいで、クロトンとは未だに会えず仕舞いだったんだけど。
この状況に驚き、固まったままでいると、ヴィオレが早口で私に尋ねた。
「俺、ねぇちゃんのゲームちゃんと見てねぇからガッツリはわかってねぇんだよ。どういう感じ?」
「えっと、クロトンは結構早めにアイリスと出会うキャラだったの。確かに美人だから人気はあったけど、こんなトラブルなんて起きてない! だから、これもイベントとかじゃない。そもそも、平和なゲームだったからこんな喧嘩なんてありえなかった。ゲーム内でもアイリスとよく居たし、その時も女の子たちが絡んできたりもなかったし。えっと、それから……」
クロトンに関する情報をと思っても、何をどう伝えたら良いかわからないままとにかくヴィオレに説明する。とにかく、こんなイベントもなかったし、こんな争いすらこのゲームには無かった。
私の言葉を聞くと、ヴィオレは顎に手をあててしばらく考え込んだ。
そして、少し言いにくそうに、私にヴィオレの考え出した結論を言った。
「……それさ、もしかしてだけど。これもヒロインのせいじゃね?」
「え!?」
「いや、最初からアイリスと一緒に居たんだろ。それ、多分女除けだったんだよ。目的が女除けだったか、わかんねぇけど実際女除けになってた。公爵家の令嬢で才色兼備のアイリスと一緒に居たら、他の女の子は近寄ってこれねぇだろ? でも、今はヒロインがこう!」
「こうとか言わないで」
「すまん。でも、防波堤の役割であった人間の存在がない状態のクロトンはどうなると思う?」
ヴィオレに言われた言葉を真剣に考えてみる。
防波堤のないクロトン。入学から今までずっと、誰かと一緒に居てやり過ごす術もなくずっとずっとこのままで誰も制御されない状況のまま4か月以上の時間が過ぎたら、まさか……。
「……こうなったんだ」
「とにかく早く止めないと、ここまでヒートアップしたら怪我人も……」
「私のせいでこんな争いが起きてるんだ……」
「あぁ、そうだよ。だから、早く止めに」
ヴィオレが女の子の集団の中に今にも飛び込もうと構えている中、私を振り返り見る。
青ざめた表情の私を見て、ヴィオレは動きを止めた。
「そんな……私、ヒロインなのに。私のせいで起こらなかったはずの争いが起こるなんて。こんなに平和な世界だったのに。もうそれほとんど私、悪者じゃん!」
「いや、そんな悪者とまではいかないと思うけど……」
「私がなんとかしなきゃ。これ。私が好きだった世界観取り戻さないと」
「お、おいちょっとアイリス? アイリス、ちょっと落ち着いてからいこう。な?」
ヴィオレが私の肩に手を置いて説得するも、私の心は尋常じゃないほど動揺していた。大好きだった乙女ゲームの世界を壊してしまっているのが自分、という事実がひどく重かった。それに巻き込まれ、いままさにしんどそうな顔をしているクロトンにも申し訳ない。
そもそもヒロインにせっかく転生しているのに、この世に争いを産む存在になったってどういうこと?
ヒロインなんですが実はこの世の悪になってましたってこと?
そんなの絶対に嫌だ。
私は息をすぅっと吸い、覚悟を決めて女の子の集団に向かって走り出す。
「ごめんねえええええええええ、クロトーン!!」
「あああああああ、待て待てアイリス!」
私はオリヴィア様の教えにより鍛え抜かれた体といまだに少し大きめの体を存分に使って、女の子の集団の中に入っていった。
私の背中にヴィオレの叫び声が聞こえるが、もうそんなことは気にしていられない。
うわっとか、ちょっと! といった女の子の声を浴びながら、私はクロトンの方へ懸命に走っていった。
読んで頂きましてありがとうございました。
ヒロインがまっすぐにおばかなところが好きです




