19.ヒロインなんですがまた新たな攻略対象に会えそうです
生徒会役員になってから早2週間。
私はへとへとになりながら大量の書類を抱えて、ヴィオレと廊下を歩いていた。
「生徒会ってこんなに忙しいものなのかな……」
「俺も今世が初めての生徒会活動だからわかんねぇ」
行事の企画や運営、生徒の学園生活に関するアンケートや意見書への対応、備品の管理や発注・処分、ローランにいたっては教員の会議にまで参加している。それって生徒会の仕事!? と思うけど、王族として必要な仕事も含まれているそうだ。ヴィオレ曰く、ローランが自分自身で仕事を増やしてしまっている節があるらしいけど、それにしたって多すぎる。学業と生徒会の仕事と継続中のダイエットでもう毎日ヘトヘトだ。
「サジェス卿は私が居ない状態の生徒会で仕事して、学業は首席で、大ヒット恋愛小説書いてたっていうの。どうなってるの」
「とんでもない奴だと思うぞ。白目剥きながらでも仕事できるからな」
「怖すぎるよそれ、ここゆる乙女ゲーの世界じゃなかったの。ジャンル間違ってるよ、この仕事量。これじゃ激務仕事ゲーだよ。……だからか、だからフルグレに生徒会入会イベントはなかったのか」
「ここでも正統派ヒロインになれなかったツケがきたんだな」
二人ではぁ、と大きなため息をつく。
乙女ゲームのイベントどころではないほどの仕事量に皆で雑談、華やかで穏やかな時間なんて全くなかった2週間だった。攻略対象達とのイベント発生を期待していただけあって、想定外だ。これからの展望も考えると、乙女ゲームの流れに行くのはなかなか厳しい道だ。私はヴィオレにぼやき続ける。
「イベントも何もないよねぇ、これだと」
「いつもはここまでじゃなかったんだけどな。アイリスが増えてゆったりとした時間が取れると思ってたけど、俺も学園祭の前準備の段階でこんな忙しいと思わなかったんだよ」
「そうだよねぇ……でも、学園祭は楽しみ! それにソレイユ王国をあげての秋の豊穣祭もあるし。私、豊穣祭楽しみなんだよね! 初めてなの!」
気分を切り替え、私はヴィオレに豊穣祭について尋ねてみた。
「あぁ、そうか。アイリスはずっと首都にいなかったもんな。……そういや、比較的最近のイベントだよな。今年でたしか8年目とかだっけか」
「そうそう、ずっと静養地にいて参加できなかったから余計に楽しみ! それに、ゲームでもソレイユ王国の春の花祭りとか冬の星灯祭とかはあったけど、秋の豊穣祭なんてなかったから雰囲気も全然想像つかなくてすっごく楽しみ。豊穣祭なんてイベント作ってくれたの、女神様が私にくれたチャンスなのかな」
「ま、豊穣祭があるから今ローランもセージも俺も忙しくてイベントもデートどころでもないんだけどな」
「本末転倒じゃん」
たしかにそうだ。学園祭の前準備だけでも忙しいのに、ローランもセージもヴィオレも豊穣祭のことでも色々と動かないといけなくて。うちは出店のお店関連の事でお父様が主に対応してくれているらしいけど、お父様も最近は夕飯を一緒に取れない日が出てきているくらいだし。
軍事系のデュランダル公爵は警備関連、国の祭典だから王族であるローランも補佐官のセージもいつもより忙しいとなると学園祭の準備期間と丸被りとなると大変だろう。
大変ではあるけれど、初めてのお祭りはとても楽しみでもあるわけで。私はヴィオレに続けて豊穣祭について尋ねた。
「豊穣祭ってどんな感じなの?」
「まぁ、ほんとお祭りって感じだぞ。最初に国王陛下の開催の挨拶があって、そこからは貴族や国民が出したお店が出展されていて夜まで結構騒いでるかな。今年の実りの感謝と来年の作物の実りへの願いを込めるんだって」
「ふーん、なんか目的だけ聞くと本当によく聞くようなお祭りっぽいね」
「まぁ、お祭りだからな。ただ、花祭りとか星灯祭みたいな華やかさっていうよりは、食の祭典って感じだな。毎年フルール公爵が真新しい食品の紹介をして話題になったり、人気店は軒並み出店するし」
「えー、それすごい楽しみ!」
「……食いすぎるなよ、またヒロインから遠ざかるぞ」
「わかってるよ、オリヴィア様の教えもちゃんと守ってるし」
ヴィオレに呆れた顔をされるので、口をとがらせながら反論をする。
私をそんなに意思の弱い女だと思わないでほしい。いや、最近ちょっとお休みしちゃった日もあったけど、大体は頑張れているはずだ。
「そういえば、夏季休暇終わって継続して頑張ってるけど、サジェス卿以外の攻略対象には会えないね」
「まだ色々足りてないんじゃねぇの」
「でも3か月会えなかったこととか、知力を伸ばしたらすぐにサジェス卿に会えたことを考えると、やっぱりこの乙女ゲームの世界ってパラメーターが関係してたんだね。はーあ、ならゲームでもパラ上げとかあっても良かったのに。そんなのなかったから完全に油断してたわぁ」
「いや、今までが酷すぎただけだろ」
「ねっ、継続して頑張ってるけど、今の私ってどんな感じなの?」
「え? あぁ、そういえば最近見てなかったな。見てみるか」
ヴィオレが立ち止まり、私に手をかざす。
また、ふわっと下から風が吹くようにヴィオレの髪が少し上がった。
相変わらずヴィオレには何か見えているようで、何やら虚空を指差しながら見ている。と思いきや、急に感嘆の声を上げた。
「おぉ! 魅力も平均値までいったぞ! これで平均ってよくわからねぇけど、意識的なことか?」
「うわぁ! 一言多くて素直に喜べないけどやったぁ! オリヴィア様の教えとデイジーのおかげだ!」
飛び跳ねて喜ぶも書類を落としそうになり、よろけそうになるも鍛え続けた体幹で踏ん張り直す。これもそれも『美は継続!』のオリヴィア様の教えとデイジーのマッサージや屋敷の皆の協力のおかげだ。ありがとうございます、と空に向かって皆に拝んでいると離れたところから女の子同士の争う声がした。
私とヴィオレは声のする方を見た。姿は見えないほどの遠さだけど、結構な人数の女の子の声が聞こえる。
「ん? どうしたんだろ」
「珍しいな、こんなこと」
「そうだよ。このゆる平和乙女ゲームでこんなことなかったし」
「本当になにかあったのかもな、急ぐぞ」
私とヴィオレは声のする方へ走り出した。
読んで頂きましてありがとうございました。
ヒロイン、継続して頑張っているようでえらいですね。見習いたい。




