16.5.攻略対象でしたが、友人の考えていることがよくわかりません
先ほどセージが座っていた場所にローランが座り、俺は新しいカップに紅茶を注ぐ。
足を組みながら美しく紅茶を飲むローランがあまりに優雅すぎて忘れそうになるが、そんな場合ではない。ローランがカップをソーサーに戻したタイミングで、ローランに問いかけた。
「おい、ローラン。どっから聞いてたんだよ」
「そんな怖い顔するなよ。本当にさっき来たばかりだぞ。締め切り前後はかなりバタついている~って聞こえたから、あぁ小説のことかって思ったんだが。その話だろ?」
「いや、そうなんだけど。ていうか、なんで知ってるんだよ、作家活動のこと」
「まぁ、そもそもこの国で私に秘密にしてやれることなんて、ほとんどないだろう。税収関連とかもあるし。だから、セージも私が知っている事を分かっていると思っていたんだが」
少し困った様子で話し出すローラン。言われてみれば、たしかにローランが分かっていないはずないか。それならそうと、知らないだろう俺には一言あっても良いような気もするのだけど。少し不満げに見つめるも、ローランは何も気にした様子もなく話し続ける。
「アイツ、たまに抜けているところがあるからな」
かわいい子どものことを話すように、クスクスと笑った。
ローランの方が何枚も上手だったらしい。先ほどあんなにハラハラしていたのは、なんだったんだろうなと思いながら俺も紅茶を飲む。我ながら自分が淹れた紅茶がうまい。
ローランもまた紅茶に口を付けたが、すぐにふぅ、と小さくため息をつきながら、物憂げな表情をした。
「それにしても、やめるつもりだなんて思わなかったな」
コトリとカップを置いて、頬杖をつきながら伏し目がちに沈黙した。
はぁ、と切り替えるように息を吐いたかと思えば、またいつもの少し微笑みをたたえた穏やかな表情に戻る。
「ま、私もまだまだだということだね。こんな近くにいるのに、セージのそんな気持ちも察せないなんて」
「……いや、アイツは結構分かりにくいし」
「そう? 結構分かりやすいけど」
どこが? という顔をするも、お前の方こそ何を言っているんだと言わんばかりに不思議そうな顔をするローラン。セージは口数も少ないし、ローランが間に入ってようやく話す仲ではあったけど、いつもあの深い眉間の皺に仏頂面で正直何を考えているかわからなかった。あんなに感情を露わにしたアイツを見たのも今回初めてなくらいだ。
「とりあえず。お前は反対なんだな、セージが作家活動をやめること」
「あぁ、もちろん」
セージがローランを支えようと思っているのと同じくらい、ローランもセージのことを考えているのは近くにいる俺が一番わかっている。
そりゃそうだよなぁ、どうしたものかと考えているとローランが言葉を続けた。
「税収も上がるしね」
にっこりと微笑みながら片手で小さくお金のマークを作って言うローラン。
ガクッと崩れ落ちそうになる俺。それを見て笑っている。
「まぁ半分、いや少し冗談として……」
「ほぼ本音じゃねーか」
「まぁまぁ。国民の心が豊かになる、そして経済活動も盛んになっていく。そんな素晴らしい才能があって本人も楽しんでいるのに、やめるという方向性はもったいないと思うんだ。それに、セージだって国民の一人だ。国民一人一人が豊かに暮らせるようになる、が私のモットーだしね」
髪をかき上げ、顔をキメながらそんなことを言うローラン。
この美しい王子はふざけているようなフリをして本気でハードワークをするものだから、こちらも心配になることが多いのだけど。
ローランの顔がまた真面目な顔に戻り、顎に手を当て悩んでいる様子でまた話し始めた。
「いや、実は最近も締め切り前後だろうなという時期にかなりしんどそうだなと思っていたんだが、話しかけようと思ってもしんどそうで話せなかったんだ。回復してから声をかけよう、と思っていたらすれ違ってしまっていたみたいだな」
「……あぁ~、そういえば目の下に隈作ってすげぇ機嫌悪い日が続いたことあったな。それか」
「本当に鈍いな、ヴィオレは」
大げさに肩をすくめ、手を上げるローラン。
俺が鈍いというか、毎日毎日小さい頃からあんなに仏頂面をしていたセージの方が悪いと思うんだが。一際機嫌の悪い日もよくあったし。小さい頃からよく顔を合わせる機会があっても、あんまり話したことはない。ローランが何故あのセージといつもあっけらかんと話せるのかが疑問だったくらいだ。
そういえば、ねぇちゃんもセージ可愛い~と言いながらゲームしてたのを俺はどこが良いのか分からずに見ていたっけ。前世から俺とセージの相性はそんなに良くないのかもしれない。
ローランは残りの紅茶を一息で飲み、ふぅと小さく息を吐いてカップをソーサーに戻した。
「まぁ、今回もアイリス嬢がなんとかしてくれるだろう」
「アイツが……? いや、無理な気が」
「きっと大丈夫だよ、アイリス嬢なら」
何を根拠に、と疑いのまなざしを向けると、ローランは楽し気に笑った。
「彼女は人を元気にすることがとても得意だからね」
いや、まぁうるさいからつられてこちらも元気にならざるを得ないところはあると思うけど、と考え込んでいると、ローランが立ち上がってカップとソーサーをティースペースに持っていく。
俺も片づけようと立ち上がると、ローランがぐっと体を伸ばしてから俺に命令を下した。
「さて、私たちも頑張らないとな。ヴィオレ、私の個人用の部屋から書類を取ってきてくれ。右の一番上の鍵付きの引き出しに入っている。はい、これ」
急に鍵を放り投げられるも、うまくキャッチをする俺。
なんだよ急にとローランを見れば、にっこりと笑う。
いつもそうだ、こいつはにっこり笑いながら人を使うんだから。
「急いでね」
「はいはい、殿下」
俺はすぐに生徒会室を出てローランの個人用の部屋に向かう。
アイリスとセージが出て行ってから結構経つけど、アイリスは大丈夫かと少し心配をしながら。
読んでいただきましてありがとうございます。
稼いでる人、お金を使う人のありがたさを大人になるとひしひしと感じますね。
経済を回してくれてありがとう! と思います。




