2.ヒロインなんですがようやく攻略対象に会えました
セネシオと生徒会室までの長い道のりをひた歩き、ようやく生徒会室前まで着いた。
「アイリス様のおかげで生徒会室にたどり着けました。ありがとうございます。こんなに広い校内なのに、よく覚えていましたね」
「えっと……あはは。たしかにセネシオのクラスから庭を通るのは少し遠回りだったね」
「そうだったみたいですね。まだ場所を覚えきれてなくて、まだまだ移動は一苦労です」
こんなに広い学園を迷わず歩ける理由が、まさか攻略対象に会えまいかと暇さえあれば生徒会室や庭、演武場等校内中を徘徊していたとも、ゲームで何度も歩いた学園だからある程度把握していたとも言えず苦笑いで返す。
それにしても、ゲームとは違って実際に校内を歩いていくのはかなり大変で、私はすっかり息切れをしてしまった。汗をハンカチで拭いて、髪を整えてふぅと息を整え終わるのをセネシオがそっと待っていてくれている。
私の準備が終わると、緊張したように小さく咳払いをしてセネシオがノックをした。
「どうぞ」
扉の中から声がした。入学式で聞いたあの声だ。
その声を聞いて、二人ともピンっと思わず背筋を伸ばした。
セネシオは裏返った声で失礼しますっと言って、そっと扉を開けた。
中に入ると広い執務室の大きな机で書類に囲まれながら素早く手を動かすローランと、その側近のヴィオレがいた。ローランの眉目秀麗で窓からの日差しで輝くように見える金髪もルビーのように赤い瞳も美しい。ヴィオレの背の高さ、騎士らしい恵まれた体格に濃い紫色の髪色や日に焼けて少し浅黒くなった健康的な肌もすごくかっこいい。
初めて本物の攻略対象を見ることができた喜びで、私は動けなくなってしまった。
「やぁ、ごめんね。書類の束に囲まれていて。順番に確認するからそこに置いておいてくれ」
忙しい中でもローランはこちらを向いてにっこりと微笑んでくれる。しかしながら、手は止まる気配がないところとこの書類の多さから見るに本当に忙しいのだろう。
セネシオは声を上ずらせながらも「は、はい!」と返事をして、応接用のテーブルの上に書類を置いた。そのテーブルの上にも同じような書類が多いのだけど、生徒会ってこんなに仕事が多い物なのだろうか。私もセネシオの置いた書類の上に同じように書類を重ねた。
「セネシオ……だったよね? 学園にはもう慣れてきた?」
「は、はい! 皆さん優しくて、とても良い学びになっております!」
「はは、今は同じ生徒なんだからそんなに緊張しないで。でも良かったよ」
緊張して身を固くしているセネシオとは対照的にローランはふわっと穏やかにほほ笑んだ。
ローランの視線はセネシオから私の方へとうつっていく。
「……あれ? 君はアイリス嬢? 久しぶりだね、元気だった?」
「で、殿下! お、覚えてくださっていたんですね! は、はい!げ、元気です!」
「何年ぶりかな、また会えて嬉しいよ」
ローランとは幼少期に一度だけ、皇宮の庭園に招かれたときにあったことがあった。ゲームでも幼少期に会った事がある、といった設定はあったけど実際にこのように話してもらえると感動する。
胸がいっぱいになりながら、ゲームの幼少期エピソードのシーンと実際に自分が体験したローランと出会った思い出を同時に思い出す。
あの時も幼少期ローランに興奮していたのと場にもとても緊張してあまり記憶がないのだけれど、そういえばあの時のセリフ……ゲームでのセリフと少し違っていたような……。
「は?……え?これが、アイリスじょ……え?は?え?」
穏やかにほほ笑みを浮かべているローランの横で、先ほどまで無表情で仁王立ちしていたヴィオレは顔が青ざめ、空調の効いている部屋なのにも関わらず汗をかき、私を震える指で指差している。そのあと、なにやら小声でぶつぶつと言っているのだけど、遠くてこちらまで聞こえてこない。
「なんだ? ヴィオレ。あぁ、そうそう。こちらは私の側近兼友人のヴィオレ・デュランダルだ。剣の腕は立つから、何かの折は頼ってやってくれ」
「な……あ、あぁ。俺はヴィオレだ。そうだ、ヴィオレだ。俺がヴィオレだから、やっぱりあれはアイリス嬢で。バグか?バグなのか?」
「さっきからぼそぼそ何を言っているんだ? 疲れているんじゃないか、お前。ひとっ走りいってこい、邪魔だから」
「なっ、邪魔ってローラン。ひでぇなぁ」
ローランが面倒くさそうにヴィオレを手で追い払った。ヴィオレが少しむっとした表情をするも、すぐに顎に手を添えてじっと考えているような仕草をしている。
「まぁ、でも……そうだな。少し出てくる。……アイリス嬢、付き合ってくれるか。」
「え!? は、はい……」
急なご指名にびくっと体を震わせてしまった。
まさか今ようやく出会ったことで3か月分のイベントが一気にくるのか。
緊張と嬉しさで胸を高鳴らせながら、失礼しましたと生徒会室を後にした。
それでは、ぼくはこれで……とセネシオがペコっとお辞儀をして、足早に元来た道を戻っていく。見えないかもしれないが後ろ姿に手を振っていると曲がり角で気付いてまた慌てたようにペコっとお辞儀をしてくれた。主要キャラにはいなかったはずだけど、小さくてとても可愛らしい男の子だな。
「なぁ、おい」
ヴィオレの低い声で話しかけられる。パッとヴィオレの顔の方へ向きなおすと、またあの先ほどの難しそうな顔をしていた。
「ほんっとーにお前、フルール公爵家のアイリス嬢か?」
訝しげな表情で体をかがませて私の顔にずいっと顔を近づける。
おかしいな、こんな会話ゲームにあったっけ……。
読んでくださってありがとうございました。
最近ウエルシアのカリカリ梅にはまってます、甘酸っぱい系で美味しいです。




