16.ヒロインなんですが攻略対象を追いかけようと思います
「え!? 殿下、知ってたんですか!?」
私が驚きのあまりに声を裏返してしまいながら、聞くと「もちろん」なんてさも当たり前のことを何故聞くんだろうといった表情で返してくるローラン。
なんで知ってるの!? という疑問はさておき、生徒会室を出て左右を見るももうセージの姿が見えない。あんなに動揺して走って出て行ってしまったのに、どうしよう。とにかく追いかけなければと殿下とヴィオレに一度振り返る。
「とにかく、私。セージ……じゃなかった、サジェス卿を探して連れてきます! 待っててください!」
セージがどこにいるか検討はついていないけど、とにかく走り出した。
まずは図書館、セージの所属する教室、屋上、校庭、ないと思うけど念のため演武場や音楽室や学食。すべて確認してみるも、セージはいない。学園内が広すぎて、見当もつかない。私は息を切らしながら、庭にも行ってみる。すると、そこにはベンチに腰掛けながら項垂れているセージを見つけた。
ようやく見つけた。息を整えられるようにゆっくりとセージのもとへ歩き出す。
セージの前に立つと、セージはゆっくりと顔を上げた。
「ようやく……はぁ、はあ……見つけた……はぁはぁ」
整えきれなかった。
額には汗も滲んでいて、髪も乱れている。髪の乱れのことまで気にしていなかった、恥ずかしい。
私はハンカチで汗を拭き、手櫛で簡単に髪を整えてセージに聞いた。
「隣、座っていい?」
「……あぁ」
心ここにあらず、といったような様子だ。呆然とベンチに座っている。
夏季休暇明け初日で早くに皆帰ったおかげで見つからなかったが、将来の宰相、学園の頭脳とも呼ばれている秀才のセージ・サジェスがこんな抜け殻のように座っているところを見られていないようで本当に良かった。
私は彼の隣に座る。気が付かなかったが、私の持っていたサイン本もまだ手に抱えていた。それも大事そうに。
なんだか、前に癇癪を起したカメリアを思い出した。彼が良い人だということもゲームで知ってる。なぜかこの世界のセージはちょっと拗らせてるけど、彼とも恋愛とかそんな延長で無くて良いから今はただ仲良くなりたいという気持ちだ。
私はセージに話しかけた。自然とカメリアに諭した時のような声色になる。
「どうして逃げ出したの?」
「……すまない、動揺してつい部屋を出てしまった。ローランには、知られてしまったか」
「……いやぁ、知られたっていうか知ってたみたいだけど……」
「はぁ!? 知っていただと!?」
セージが髪を振り乱しながら、驚きで叫んだ。
先ほどの調子が戻ってきたようで安心する。この慌てっぷりと圧の強さにも慣れてきた私は普通に対応する。
「なんで知ってたかはわからないけどさ。でもね、あなた達一度きちんと話した方が良いよ」
「話?」
「うん。うーん……多分なんだけどさ、殿下はサジェス卿の考えてる事を聞いたらちょっと寂しいと思うよ」
「……寂しい?」
首を傾げながら私の言葉を聞き返すセージ。
「いや、サジェス卿が殿下のこと想ってるようにさ、殿下もサジェス卿のことを想っていると思うのね。だから、殿下の為にって我慢するのってさぁ……ちょっと寂しいなって。サジェス卿だって殿下が自分の為に好きなことを我慢するってなったら言ってほしかったなって思わない?」
「……まぁ」
そんなこと考えもしなかったといった顔をしたセージ。
しかし、セージ申し訳ない。私は何より一番これが言いたい。オタクは強欲なのである。
「それに!」
何を色々言おうとも、結局私の一番の希望はここだ。
私は気持ちを高ぶらせながら、セージに対してずいっと身を乗り出して話し出す。
「こんな面白いお話書いてくれるのに、ファンとしては引退宣言なんて聞いたらすごく残念で。サジェス卿のペースで良いから続けてくれたら嬉しいな~って我が儘だけどそう願っちゃう。数年に1度でも何十年に1度でもいいから」
私にとって娯楽の少ないこの世界でこの恋愛小説はまさに、砂漠に降った一滴の雨のような衝撃があった。
小さい頃、この国の童話や神話、当時出ていた小説は読んでいたけど、恋愛小説はかなり少なかった。そんな時、アムール・シュクレの恋愛小説が華々しくデビューした。そこからアムール・シュクレの数々の名作も出版され、恋愛小説の市場も広がっていき、今では恋愛小説の供給に事欠かなくなってはきたけれど、アムール・シュクレはまさに先駆者であり頂点。何を読んでも面白かった。
甘い恋愛小説なので若い女性が書いていると思っていたから、まさか書いている作家が男性で、しかもセージだなんて思いも寄らなかったけど。ゲーム内のセージも恋愛小説を実は書いていたのかな。そもそもなんで恋愛小説を書き始めたんだろう。
まぁ、生真面目なセージにはこうは言ってみたけど響かないか。たしかに宰相についてから作家活動なんて難しそうだし。そう少し残念に思いながら座り込んでいると、しばらく黙り込んでいたセージが小さな声で私に聞き返した。
「……そんなに面白いか?」
「へ?」
返ってきたのは意外な言葉だった。
あのキャンキャン吠えるうるさい犬のようなセージが、少しおどおどと借りてきた猫のようにおとなしくそんなことを聞くものだからびっくりしてしまった。
私がキョトンとしていると、顔を少し赤くしながらとても慌てた様子で話し出す。
「い、いや。編集者から評判が良いとか、読者からの手紙もたまにもらうが、あまり実際にこういった声を聞くことはないからな」
「面白いよ! すっごく面白い!」
私は興奮しながらアムール・シュクレ第一作目からの出会いの衝撃や登場人物の魅力、大好きな作品の大好きな場面やセリフ、その時感じた気持ちをたくさん語った。
セージはそれをじっと聞いている。ひとしきり話し終わった後に、いろいろ話過ぎてしまったことに気付いた。夢を諦めようとしていたセージには酷いことをしてしまったかもしれない。私は咳払いをして空気を変え、また話し出した。
「まぁ、ファンとして色々言っちゃったけど。サジェス卿の人生だから、サジェス卿の好きなようにして欲しいのがファンとしても一番の気持ちだよ」
「そうか……ありがとう」
押し付けるつもりは更々ない。いつかアムール・シュクレの作品が読めなくなるというのは寂しくはあるけれど。
セージは少し頬を染めながら照れくさそうに笑い、本を眺める。本を開いてゆっくりと本に書かれた自分のサインを指でなぞりながら、しばらく黙り込んだ。その後にハッとした表情で私に本を突き返してきた。
「はっ、すまない。ご家族からもらった大切な本を持ってきてしまって」
「あ、ううん。返してくれてありがとう」
セージから本を受け取り、パラパラとページをめくる。
うん、やっぱり面白い。ローランがどういう風に考えているかは分からないけど、ローランもきっとセージが自分の夢を諦めるようなことはしてほしくないのは分かる。優しい人だから。
私はベンチから立ち上がり、セージに手を差し出した。
「とにかく、生徒会室に戻ろう? 殿下と一度ちゃんと話をしてみようよ」
「あぁ。そうだな」
セージは私の手を取って立ち上がり、私たちは生徒会室へ向かって歩き出した。
読んでいただきましてありがとうございました。
あの堅物仏頂面のセージもファンを目の前に照れくさい表情をしていますが、リアクションをくださったり、評価してくださったり、ブクマしてくださったり、応援してくださっている方がいらっしゃることは書き手にとって大変嬉しく思っております。
久々に書き始めてここまで続いているのは皆さんのおかげです。
読んでくださる方、励ましてくださって下さる方いつもありがとうございます。
セージも無事解決すると良いですね。今後ともよろしくお願いいたします。




