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ヒロインなんですが誰も攻略してくれません!~誰か攻略してください~  作者: minori


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18/60

15.ヒロインなんですが攻略対象に逃げられました


「……あれ?」


 何枚かの書類を手に取り、じっくりと見てみる。

 1つの疑念を持ち、気になった書類をヴィオレに見せて尋ねた。


「これってさ、誰の字?」

「あぁ? セージだな」

「ふーん……」


 さらに何枚も何枚も書類を見ていき、確信を強めていく。やはり、間違いないと思う。

 顔を上げ、セージを見る。セージは固まって私を見ていた。

 ヴィオレはどういう状況だ、と私とセージを交互に見ながら状況を見守っている。


「似てるね、文字」

「何が?」

「作家さんのサインと」


 ヴィオレが、は!? と驚き、書類とセージの顔を交互に見た。

 セージはしどろもどろになりながら、釈明をする。


「た、たまたまこの本のサインだけ私の文字が似ているだけだろう。忙しさで文字が雑になることもあるはずだ」

「いいえ、お父様はその本のサイン本だけじゃなくて、その作家さんの出版された本のサイン本。全部集めてくれたわ、だからその本だけということはないの」

「相変わらずすげぇな、お前のお父様は」


 鞄からずらっと本を出して見せる。呆れ顔のヴィオレは何冊か本を手に取り、書類と見比べる。たしかにな、と呟きながら私に本を返した。

 私はスッと立ち上がり、姿勢をピッと凛々しく正しながら、決め台詞を叫ぶ。


「この作者『アムール・シュクレ』の正体は、セージ・サジェス……あなただ!」

「名探偵か、お前は」


 名探偵の謎を解き明かすようなテンションで、セージを指をさす私。

 楽しそうに謎を解明する私に呆れるヴィオレ。

 甘い恋なんて名前の作家名とは真逆に苦々しく顔を歪めるセージ。 

 反応は三者三様だった。

 しかし、これはゲームには無かった設定だった。何の本を読んでいるかなんてゲームに言及はなかったから、もしかしたらド甘い恋愛小説を読んでいたのかもしれなかったけど。でも、実際に乙女ゲーム内で作家をしているなんていうのもなかった。まぁ、そもそもこの世界の書籍事情なんてゲーム内に一切出てこなかったんだけど。

 謎を解き明かしたにしても色々な小さな謎に腑に落ちないでいると、セージは苦々しく顔を歪めながら絞り出すような声で白状した。


「……あぁ、そうだ。私がアムール・シュクレだ」

「わぁ、やっぱりそうだったのね!……あ、散々成績のこと言われたけどさ、私が勉強しなかったのってこの本が面白すぎたせいだし、つまりあなたのせいじゃない?」

「なっ……、何を言っているんだ、お前は」

「そうだぞアイリス、他責が過ぎるぞ」

「ごめんごめん、冗談だよ」


 笑い飛ばすも、じとりとヴィオレに睨まれる。

 本当に冗談なんだけどなぁ、と笑いながらセージにまた視線を戻すと、セージの周りだけ空気がどよんと重い。興奮のあまり彼の正体をヴィオレの前でも解き明かしてしまったんだけど、作家情報もほぼなく、サイン会もないくらいだったんだから秘密にしておきたい情報だったのかもしれない。

 私はテンションが上がってしまって、つい秘密を解き明かしてしまった罪悪感に潰されながら、セージの方まで行く。また、セージの真向かい位置のソファに座り、おどおどと話しかけた。

 ヴィオレはお茶を淹れて、再びセージのカップに紅茶を注いだ。


「ごめんね。なんか謎を解き明かしちゃったんだけど、あの……こんなこと言っておきながら、私誰にも言う気はないから。ヴィオレも口は堅いし」

「お、おぉ! 俺も誰にも言わねぇぞ、そこは安心しろ」

「……それはありがたい」


 先ほどの勢いはどこへやら、大人しく座り口数が明らかに減るセージの様子に戸惑う私たち。先ほどまで理不尽に怒られていたことに少しイライラしていたが、急にここまで大人しくなられると調子が狂うというか。申し訳なさで心が潰されそうというか。

 私たちがハラハラと見守る中、セージはヴィオレに淹れてもらった紅茶をそっと飲み、少しすると落ち着いた口調で話し始めた。


「知られたくないんだ、特にアイツには……」

「アイツって?」

「ローランだ。……まぁ、騒ぎになると面倒だから多くの人間に知られたくはないのだが」


 大ヒット恋愛小説やシリーズ作品を何冊も出しているから、女の子はほとんどの子が知っているし、興味のない男の子も名前くらいは知っているくらいの知名度がある。それほど人気の作家がセージだなんて、たしかに大騒ぎになることは想像に容易かった。


「俺は恐らくこのまま行けばローランの政務補佐官に……後には宰相の任につくだろう。そんな俺が楽しげにこんなものを書いている等と知れば、アイツは気を遣うかもしれない」


 楽しいんだ、恋愛小説書くの。この仏頂面が……と受けた衝撃を内心に抱えながらも、セージの話に耳を傾ける。

 視線を落とし、口調を重くしながらも彼は話を続けた。


「今でさえ、締め切り前後はかなりバタついている。今後、要職についてのこれは無理だろう。俺が今できる最後の自由が、作家活動なんだ」

「……えええええええ、アムール・シュクレの小さな恋の物語シリーズやめちゃうつもりなの!? やだやだ、だってこれが私の生きがいなのに! そんな……」


 急な推し作家の引退宣言に思わず悲鳴をあげる。セージも変わらず険しい顔をしていた。

 シンとした生徒会室の空気に、コンコンと扉のノックの音がよく響いた。


「アイリス嬢。久しぶりだね」


 生徒会室の開いた扉に自分の存在を示すようにノックをしながらローランが部屋の中に入ってきた。え、いつの間にローランが生徒会室に入ってきていたんだろう。

 先ほどの会話を聞かれたんじゃないかと、私とヴィオレとセージの顔は青ざめていく。

 ローランがそのまま涼やかな表情で話を続けた。


「あと、セージ。それについては、話が……」


 ローランが話をしようとすると、こちらにもびゅんっと風を感じるほどセージがものすごい勢いで生徒会室から出ようと走り出した。

 切羽詰まった表情に思わず彼を呼び止める。


「あ、ちょっと……セージ!」

「親しくもないのに私を名前で呼ぶな!」

「あぁ、それはごめんなさい!」


 去り際に律儀にも私にそう捨て台詞を吐いて、彼は凄まじい速さで生徒会室から出ていった。好感度が高くもない時に、あだ名や名前で呼ぶという乙女ゲームの初歩的なミスを犯した私はやってしまったと一瞬考えが止まったが、いやそんなことより彼を追いかけないと! と思い直し、彼を追いかけようと体勢を立て直して走りだそうとする。その時、ローランが生徒会室に爆弾発言を放って足が止まった。


「……ん? もしかして隠していたのか、小説の事。とっくに知っていたが」


 えぇ!? とヴィオレと私はローランに驚きの表情を向けた。


読んでいただきましてありがとうございました。

セージ、知的キャラのはずだったんですが感情表現豊かでよく動いて面白い人ですね。

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