14.ヒロインなんですが攻略対象に嫌われていたようです
緊迫した空気の生徒会室。
険しい表情のままのセージと戸惑うヴィオレと私。
セージが強い口調で『それなら尚の事、あなたの助けはいらない』と言ったのはなぜなんだろう。セージと私は初対面だ。私が何かした記憶は一切ないんだけど、気付かない間に何かしてしまったのだろうか。でも、思い当たることはない。
このまま言われた通り帰ったとしても、こんなに険悪なムードの彼とは今後良い関係になることもなさそうだ。それならいっそ原因を教えてもらう方が良いのかもしれない。
拳にぎゅっと力を入れて、私は真っ直ぐとセージを見た。
「ちょっと待って。私なら尚の事必要ないってどういうこと? 私、あなたに何かしたかな」
「何かした……だと?」
控えめに問うたのに、火に油を注いでしまったかのように先ほどよりも眉間の皺は深くなり、怒りさえ滲ませた表情をするセージ。しかし、彼の口からは思いもよらない言葉が出てくる。
「何もしていない」
「へ?」
低い声でそう返答されるも、あまりにも意味の分からない返答で思わず変な声が出てしまった。何もしてないなら、なぜこのようなことに?
続けて問おうとしたら、その前にセージが噴火した。
「……いや、お前は私を見下しているのかアイリス・フルール!」
「えええええええ、なになに急にどういうこと!?」
わなわなと震えながら、私を指差し大激怒のセージ。
急に入った怒りのスイッチにもう訳が分からなくて、あわあわと動揺してしまう。
まぁ落ち着けよ、とヴィオレがいつの間にかお茶を淹れていたようで、セージの前にカップをコトリと置いた。セージは怒りに任せてガッとカップに口をつけ、熱い! とソーサーにカップを乱暴に戻しながらまた怒りを爆発させる。
……なんだろう、この人。いっそのことなんか面白いな。
とりあえず、セージが落ち着くのを待ち、彼から理由を話してもらえるように応接用の椅子に座って待った。こちらから促すでもなく、紅茶を飲みながら彼はしばらくして落ち着いたように話し始めた。
「かつて私も神童と呼ばれていた。しかし、私よりも……いや、歴代でも聞いたことのない常軌を逸した速さで字が読めるようになった子どもがいたといい、そいつを皆が神童と呼ばれるようになった。それが、お前だ」
たしかに私は神童と呼ばれていた時期もあった。
この世界の物語や恋愛小説が読みたいというだけで、家庭教師がつく前からデイジーやお母様にたくさん本を読んでもらい、文字を教えてもらったおかげで文字を読めるようになったのである。
まぁ、文字を読めるようになってもその後はずっと小説ばっかり読んでいたから、そんな話も立ち消えたんだけど。
「お前に追い付こうと勉学に励んでいたのに。お前ごと姿が消え、いつの間にやらそんな噂は立ち消えた。久々に現れたと思ったらなんだこの体たらくは! この私よりも早く読み書きができるようになったお前がこの程度のはずはないのに。それなのに、今のお前のテストの順位は228位! 私をばかにしているのか!」
「ちょちょちょ、ちょっと待って! なんでそんなに話が飛躍してるの? 私は別にバカにしていないし。あと、そんな大声でテストの順位言わないで!」
「お前、平均より下くらいの知性だったはずなのに、順位そんな下なのかよ。どんだけ勉強してなかったんだよ……」
「あーあ、ほら! ヴィオレにもバレちゃったじゃないの!」
激昂するセージと、呆れた目で私を見るヴィオレ。すごい温度差の生徒会室だ。セージに理由なんて聞かずに、さっさと帰れば良かった。
ただ、セージがなぜ私を嫌っているのか、意味は分からないけど理由は少し分かった。
いつの間にか私はセージのライバルとなっていたようで、その私がいつの間にか戦線離脱した上に酷い有様だったから一人相撲している感じにプライドが傷つけられたとかそういうこと? けど、それは私に関係ないし、自己都合すぎないか。セージが結構推しキャラだったが為に、あまりの自己中心的な振る舞いに少し辟易する。
そして、未だに怒りが収まらないセージにもはや少々うんざりとしながら話を聞く。
「大体、そんな努力不足のお前が生徒会の仕事を手伝うだと? 笑わせる。仮にお前が本来の力を隠してテストに臨んでいたとしたら、それは私を見下しているといっても過言ではないだろ」
「過言じゃないかな!? そして、ごめんね。あのテストは本当に実力だよ、あんまり言わせないでね!」
「しかも、どうせヴィオレ目当てに生徒会室に居座るんだろう。言語道断だ! ここはお前たちの愛の巣などではない!」
「いや、それマジでほんと違う。勘弁してくれ、母上以外まで……」
「そーよそーよ、私とヴィオレがどうなんて絶対ありえないんだから」
頭を抱えながら俯くヴィオレに「噂になってるぞ、お前ら」とセージがヴィオレに追撃し、マジかと二人で絶句する。どうやら夏季休暇強制パラ上げ合宿の戦友マダム達がデュランダル公爵家に居る私の事を話して噂になってしまったらしい。
「あのね、いろいろ言ってくれますけど、文字がとても早くに読めたのも、私の成績が伸びてないのもちゃんと理由があるの」
「理由?」
眉をピクリと動かし、訝しげに私を見るセージ。私は鞄から本を取り出し、セージの目の前に突き出した。ヴィオレは私のその理由をご存知の為、長いため息をつきながら無くなってしまったお茶のおかわりを煎れに執務用の机横にあるティースペースでお茶を淹れ直しにいく。
「これ! 私は物語や恋愛小説が読みたくて、文字が早くに読めるようになっただけなの! 今は少しは改善されたけど、勉強よりもずっと本を読んでただけ! ここ数年ずっとこの恋愛小説に夢中で勉強してなかったの!」
ずいっと目の前に出された本を受け取り、しげしげとその本を見つめるセージ。
ヴィオレは再度ため息をつきながら、手早くお茶の準備をしながら呆れた口調で私に話しかける。
「お前それ持ち歩いてんのか?」
「お父様が夏季休暇の合宿を終えたご褒美ってサイン本をくれてね! 友達にも見せたくて持ってきちゃった! 超貴重なんだよ、サイン会とかもなくて限定でほんの数冊出してくれるの」
誇らしげに言うと、ちょうど準備も終わったようでヴィオレがまたこちらに戻ってくる。
生徒会室にちゃんとした給茶できるような場所があるなんて、良い学園だなぁなんてことを考えていると、先ほどと少し様子の違うセージが何か私に話そうとした。
「あ、あの……」
「あ、やべ!」
そのタイミングでちょうどヴィオレが執務用の机に置いてあった書類の束に肘がぶつかり、バラバラと書類が落ちてしまった。ヴィオレが慌てて書類を拾い出す。
「大丈夫?」
書類の整理を手伝うため、ヴィオレに駆け寄った。
順番はわからないけど、とにかく散らばってしまった書類を手早く揃えていく。
そこで私は衝撃の書類を目にし、手を止めてしまった。
読んでいただきましてありがとうございました。
セージのめんどくささと不器用な感じが好きです。




