12.ヒロインなんですが実家が何やら変わっていました
主にデイジーがほとんどの帰り支度を済ませ、デュランダル公爵家の門前にやってきた。
いよいよ、別れの時。
お見送りに来てくださった公爵家の皆さんに、寂しさと今までの対応に対する溢れ出る感謝の気持ちから丁寧に挨拶を交わさせていただく。
カメリアに、と小さな楽器をくださったり、プールサイドに植えてあった花で作った大きな花束をくださったりと、手の中も胸の中もいっぱいになるようなお見送りでまた涙が出そうになる。
最後にまた皆さんに感謝を伝え、オリヴィア様と抱きしめあい、ヴィオレと馬車に乗り込む。
真面目なデイジーは、また何か間違いがあったら困るからと荷馬車の点検をしてからそちらで帰宅するらしい。
フルール公爵家へと動き出す馬車の窓から顔をだし、皆さんに大きく手を振る。
オリヴィア様がうるうると涙でいっぱいにした瞳のまま、馬車の方へ何歩か歩みだし、手を振りながら大きな声で語りかけてきた。
「アイリスちゃーん! いつでもうちの子の恋人になってくれても良いんだからね~! 待ってるわー!」
「母上ー! 絶対にそれはないですー!」
……まだ、言っていたのか。
きっとこのヴィオレの否定もオリヴィア様の耳には届いているけど、届かないのだろう。
私は相変わらずのオリヴィア様に苦笑しながら、馬車に揺られた。
フルール公爵家から持ってきた服をきると、少しゆるくなってしまっている。やはり私は結構痩せたのかもしれない。それにしても、あんなに頑張ったのにそんなに変わらないものだなぁと巻き尺の長さを思い出す。腹の肉をつまみながら、ヴィオレに話しかけた。
「いつになったら、ヒロインらしいところまでいけるかな。結構頑張ったと思うんだけどな」
「何年も溜めてきた脂肪をたったの1か月で落とせると思ってるのか、フルグレの恋愛より甘々な頭してるなお前」
「はぅあッ……そんな一息に人の心押しつぶすようなこと言わなくてもいいじゃない、心臓潰れるかと思ったわ」
思わず心臓を押さえながら悶える私。
なんともまぁ歯に衣着せぬ物言いをする前世の弟なんだ。
「まぁでも、夏休み最初に比べるとずいぶん学力と魅力のパラメーターは上がったし。体型については毎日見てるからわからねぇけど、それはフルール公爵家にいってお前を見たみんなの反応を見ればわかるんじゃないか」
落として上げるタイプらしい、私の気持ちも少しは持ち直した。
さらに、明日は夏季休暇明け。
きっと攻略対象に遭遇するイベントもこれだけ頑張ったなら発生するはず。これは正統派ヒロインに近づいたのでは、と期待が膨らんでいく。
ご機嫌なった私は鼻歌まで歌いながら、馬車の外を眺めている。
そんな私の気持ちをぶち壊すかのように、ヴィオレが忠告をした。
「ま、これだけの数字を減らすための努力にどのくらいかかるかわかっただろ。公爵家帰ってもバカ食いすんなよ。あの日々がすべて無駄になるぞ」
「ひぃぃぃ、それはほんと絶対に嫌。継続します。美は継続から成る!」
オリヴィア様と復唱した時の用に軍人のように叫ぶ。
ヴィオレはうるせぇ、と言いながらも笑っていた。
ヴィオレはフルール公爵家まで送ってはくれたが、お父様に会うのは怖いからと言って馬車から降りもせずに帰っていった。デイジーも公爵家に着き、二人でフルール公爵家へ入る。
紙吹雪に『アイリス様おかえりなさい』や『デイジーよくやった』など、大きく書かれた布を持つメイド達、大きな花束をくれた庭師の皆、あたたかな歓待にも驚いたが、一番驚いたのはこれだった。
「……お父様、何ですか。これ……」
「何って。デュランダル公爵家でやったことが同じようにできたら良いかなと思って」
「いや、だからって1か月でプールってできるんです!?」
できるよ? と首を傾げながら、何を言っているんだろうといった不思議そうな顔をするお父様。
いや、できるよじゃなくてさせたよが正解なのでは。
大工さん達、おそらくうちが無理な依頼をしたのではないでしょうか……申し訳ございません。私はプールに合掌した。
「あ、あと。入浴場も改装して、岩盤浴のスペースを作ったよ。あたたかい場所でじんわり汗をかいているのが気持ちよさそうとオリヴィア様が仰っていたからね」
「わぁ……すごぉい、お父様」
「アイリスに喜んでほしくてね!」
ふふん、と鼻高々に言いながらとても嬉しそうに言うお父様。
あまり自覚はなかったのだけれど、本当にうちもなかなかのセレブ側だ。お金の使い方が異常である。
実家の様子があまりにも変わってしまったことに衝撃を受けて呆けてしまっていたのだけど、そんな空気をぶち壊すかのようにデイジーが腕をまくり張り切った様子で私に声をかけてくれた。
「私もオリヴィア様達にしっかりと教わって参りました! なので、夜のマッサージはお任せください!」
「ありがとう、デイジー」
デイジーは本当にすごかったそうで、たった一か月でオリヴィア様専属のエステティシャンの方々と渡り合えるほどの腕前を身に着けたそう。あり得ないことだそうだ。
さすがこの屋敷で最年少なのに、私の専属侍女になっただけある。ふわふわと優しい雰囲気のデイジーの優秀さにはいつも驚かされる。
デイジーは腕まくりを直し、いつものようにぴしっと姿勢正しく穏やかな笑みで私に微笑みかけた。
「アイリス様、お疲れでしょうし。今日はゆっくりされてくださいね。私、マッサージしちゃいますよ」
「アイリスの為に美味しい魚や果物もたくさん用意してあるぞ! あ、早速夕食の準備を盛大に行ってもらうよう伝えてくる」
お父様はものすごいスピードで屋敷の方へ向かっていく。夜は控えめにしないとなんだけど……と声をかける間もなく、屋敷へと消えて行ってしまった。
お父様の相変わらずの様子にとても帰ってきた感を感じて、なんだかとても懐かしい気持ちになる。
ここも私の居場所、これからはここでオリヴィア様に教わった事を活かしていこう。
私はまず、デイジーに向き直り先ほどの返答を伝えた。
「ありがとう。でも、食後の軽い運動はちゃんとやろうかな、美は継続から成る! だからね」
そう言うと、デイジーは少し驚いたような顔をした後に何故だか嬉しそうに微笑んだ。お付き合いします、アイリス様! と言ってくれたけど、細身のデイジーが私に付き合ったらガリガリになってしまうのではないかと少し心配。
かくして、夏季休暇……もとい、夏の強制パラ上げ合宿は幕を閉じたのであった。
読んでいただきましてありがとうございました。
こちらにて夏季休暇編完結となります。
少し長めのお話になりましたが、評価やリアクションをくださったり、あたたかく見守っていただけてとても嬉しかったです!
いよいよ、学校が始まりますね。
ヒロインが頑張り続けてこれから新しい攻略対象キャラをどんどん出させたいなと思っています。
また、読んで頂けると嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします。




