9.ヒロインなんですが久々にお姉様をしました
急ぎカメリアをベッドに運び、改めてデュランダル公爵家のメイドが部屋を知らせにか部屋から走って出ていく。氷嚢を持ってくるメイドや水桶とタオルを持ってくる者、カメリア用の寝間着を急ぎ手配するよう掛け合う者、とにかく屋敷は大騒動だった。
「申し訳ございません! 私がもっと荷馬車の確認をしていれば」
「いや、多分確認の後に潜り込んだんじゃないかな。それに大丈夫よ……」
涙声で動揺しながら何度も頭を下げるデイジー。
私は苦しそうなカメリアの傍に寄り添い、額に手を当てて、魔法を使う。
カメリアの苦しそうな顔が少しずつ落ち着いてきた。
「そうか……アイリスの属性は」
ヴィオレが思い出したように言う。もしかしたら私のパラメーターを確認した時に見えたのかもしれないし、前世で私のゲームをやっていたのを見て思い出したのかもしれない。
「うん、光属性……まだあんまりうまくはできないけど」
「アイリス様……でもっ」
「大丈夫、あの後もたまにカメリアやお母さまに使っていたし」
心配そうなデイジーを制止し、その後はただただ無言で集中し、カメリアに魔法を使う。
緊迫した空気の中、カメリアの紅潮した頬の色が次第に落ち着き、荒々しかった呼吸も落ち着いたリズムになった頃、老齢の医師が走って部屋に入ってきた。
「すみません、お待たせしました」
ほっとし、カメリアの傍から離れるも魔法を使ったせいでかなり疲れてしまったのか、眩暈に耐え切れずふらついてしまった。ヴィオレに支えられ、デイジーが部屋にあった椅子をさっと持ってきて座らせてくれた。私がここまでしんどいということは、カメリアの体の状態は相当辛かったのだろう。
医師はカメリアの診察を手際良く行っていき、一通り診終わったのか長く息を吐きこちらに向き直った。
「アイリス様の対応のおかげで落ち着かれていましたよ。荷馬車に長時間居られたとのことですので、おそらく暑さと疲れからなのでしょう。水分を多めにとって、涼しい環境でしばらく安静に過ごされてください」
「良かった……! ありがとうございました」
私が椅子から立ち上がり医師にお辞儀をすると、穏やかな笑みでお辞儀を返してくれた。薬を渡し、必要な食事の説明をデュランダル公爵家の使用人の方に説明をして、入ってきたときとは考えられないほどゆったりとした動作で丁寧にお辞儀をしてから出て行った。
それと入れ違うようにオリヴィア様が部屋に入ってくる。
「フルール公爵家も大騒ぎだと思ったから先ほど早馬で事情は知らせておいたわ。良かったわ、落ち着いたみたいで」
「オリヴィア様、すみませんありがとうございます。皆さんも、いろいろとご迷惑をおかけしてすみません。ありがとうございました」
デュランダル公爵家のメイド達やオリヴィア様に頭を下げる。急な病人対応に付き合わせてしまったのに、皆にこにこと笑顔を返してくれる。申し訳ない。
「……あ、あれ?」
急にまた視界がぐにゃりと歪み、少し立っていられなくなり椅子に腰かける。
ここまでになったのは初めて魔法を使って以来かもしれない。
「アイリスちゃん! 大丈夫!?」
「だ、大丈夫です。ベッド大きいし、起きた時私が居た方が安心すると思うから私もカメリアと横にならせてもらっても良いですか?」
「えぇ、もちろんよ。今日はもうゆっくり休みなさい。寝られるならそのまま寝てしまってね。誰か、果実水を持ってきてあげて。少し何か飲んでから眠れるかしら? 飲んだ方が良いわ」
私はさあさあとオリヴィア様に促され、カメリアの隣に横になる。
近くで見ると今はすやすやと気持ちよさそうに眠っている、良かった。今は大丈夫そうだ。
ほどなくして切った果物がたくさん入ったガラスの水差しとグラスを持ってきてくれた。オリヴィア様自らグラスにいれてくださり、私に差し出す。少し甘さがあって、するすると飲めてしまうほど美味しかった。グラスに一杯分の果実水を飲み終わり、オリヴィア様にお礼を言って返すと、そのまま意識を手放すようにして眠りについてしまった。
ふと目を開ける。あたりは真っ暗で、ベッド横の小さなランプでなんとなくあたりの様子がわかるくらいだ。もう夜になっているらしい。カメリアの様子はどうかと横を見ると、私を見ながら大粒の涙を流していた。
驚いて起き上がり、カメリアの頬に手を当ててカメリアの様子を見る。触った感じだと熱はなさそうだけど、どうしたんだろう。
「カメリア! どうしたの、どこか痛いの?」
「ううん……」
小さく首を振るカメリア。嗚咽で苦しそうで、言葉を発せないようだった。
私はまた横になりカメリアを優しく抱きしめて、背中をとんとんとゆっくりとしたリズムで叩いて返答を待つ。少しずつ落ち着いてきたようで、嗚咽をこらえながら少しずつ言葉を発してくれた。
「おねえさま、ごめんなさい。わたしのせいでたおれたって」
目に涙をいっぱい浮かべて、一生懸命に話すカメリア。
きっとずっと一緒に居た私と離れ離れになって寂しかったのをずっと我慢していたのに、ようやく会えると会いに来た私がいなかったからとてもショックだったのだろう。だから、いつもは絶対にしなような荷馬車への乗り込みなどという無茶なことをしてしまったんだ。
カメリアが来ることは知らなかったけど、体調が良ければ遊びに来る可能性は考えられたし、私が遊びに行く事も楽しみにしていたのかもしれないのに……。気付かなくて本当に申し訳なかった。
「ううん、ぜんぜん平気よ。それより、たくさん我慢をさせてごめんね、カメリア。寂しかったよね、私もとってもあなたに会いたかったわ。でも今度からこんなことをしてはだめよ、とても危ないことだから」
「うん……ごめんなさい」
目を伏せてとても悲しそうなカメリア。
どうにかして彼女が今日明るい気持ちで眠れないかと考えていると、いつも静養地で話していたおはなしのことを思い出した。ダイエットや学習は少しお休みさせてもらって、カメリアとゆっくりと時間を作らせてもらおう。
カメリアの頭を撫でながら、微笑みかけた。
「ねぇ、カメリア。オリヴィア様にお話しして、明日の朝起きたらたくさん二人で遊びましょう? よく話していた恋愛小説の続きが出たのよ! 明日おはなししていい? 一緒に居た時みたいにたくさんおはなしのおはなしししましょ」
「うん、わたしおねえさまのおはなしだいすき。おねえさま、ありがとう」
そう言うと、カメリアは私の頬にそっとキスをした。
そう、いつものこの子はこんなにも素直で可愛らしい女の子だ。熱と置かれた状況のせいでヴィオレに飛び蹴りなんてしてしまったことにはかなり驚いたけど。あんなこと、どこで覚えてきたんだろう。
「私もありがとう。さぁ、また寝られるかな? すぐ寝たら、明日早く起きられていっぱい遊べるかもよ?」
「すぐねる!」
勢い良く布団を被り、すぐに寝ようとするカメリア。その様子があまりにも可愛くて笑っていると、ひょっこりとまた顔を出して私に抱き着いてきた。
「おねえさま、だーいすき。ありがとう」
私に抱き着いたせいでくぐもった声で小さく言う愛の言葉があまりにも可愛くて、胸を鷲掴みにされたような衝撃を受ける。私の妹はなんてかわいいんだろう。カメリアを優しく抱きしめ返した。
「わたしもだいだいだーいすきよ。おやすみなさい、カメリア」
カメリアの小さな手がまた、私を抱きしめ返してくる。二人で眠ったのは魔法学園に行くために本邸へ行く前日ぶりだった。久しぶりの小さくてあたたかな幸せな体温に癒されながら、私はまた深い眠りに落ちていった。
読んで頂きましてありがとうございました。
こんな愛らしい妹ならいくらでもいてくれていいですね。




