8.ヒロインなんですが妹が爆発しました
何が起こっているんだろう。
つるつるのお肌、つやつやの髪、すっきりと軽くなった体。いや、まだそんな痩せた訳じゃないんだけど。とにかく、デュランダル公爵家に来てから私は驚きの日々を送っている。
「アイリスちゃん、またね~」
「無理しないのよ~」
「あ、あはは……。ありがとうございますー! また明日ー!」
プールサイドのパラソルの下、少しゆったりとしたワンピースを着てゆっくりと読書をしていると、高齢マダム達が私に手を振りながら馬車に乗り込み帰っていく。それに手を振り返してお見送りをした。それにしても、無理しない、とは……。この生活をしてどう無理をしようと言うのだろう。
デュランダル公爵家のあの衝撃の夕食の翌日から、早速私のダイエットが始まった。
まずは体重の把握、ボディラインのチェック、運動測定、オリヴィア様が主に対応され私のダイエット方針が決まった。
まずは水中ウォーキングや水泳、少し慣れてきたら簡単な水中エクササイズから始まった。なんとこの水中エクササイズはデュランダル公爵家お抱えの楽団がやってきて演奏し、それに合わせてオリヴィア様が目の前で手本を見せ、私やマダム達がそれにならってプールでエクササイズをするというもの。
はっきり言って楽しい。
それが終わったら少しゆっくりして昼食。その後はヴィオレが私の勉強を見てくれたり、オリヴィア様にマナーのチェックをしていただいたり(そこは公爵令嬢としてほとんどクリアしているけど!)。それが終わったら夕食を食べて軽い運動とストレッチ。日によって岩盤浴のようなところでアロマの香りを楽しみながらじんわりと汗をかいたら、オリヴィア様おかかえのエステティシャン達に少し強めのリンパマッサージをしてもらい、気持ちよく早めの就寝。そして、朝。この繰り返し。
最初は確かに少し疲れたけど、少しずつ体も慣れてきたし、毎日寝る前にきちんと体のケアをしていただいているからか、翌朝の目覚めがとても良くすっきりと目覚められている。
「何!? デュランダル公爵家って天国だったの!?」
「だから無理させないって言っただろうが。……ま、元々母上がアニス様の為に作ったようなものだからかなり甘い設計になってそうだけど。俺もここまでとは知らなかった」
「オリヴィア様、お母様、ありがとうございます!」
両手を握り天を仰ぎながら心からの感謝を叫ぶ。
ダイエットって薄い味のごはんを少量、激しい運動を繰り返すイメージしかなかったけど、こんなダイエットもあるんだという衝撃。いや、でもこのダイエットもかなり特殊な方だと思うけど。
自身のダイエットに対するイメージとはかなり異なるけれども、この手厚さはなんというかただただすごい。
「前世が庶民だったからか、セレブってすげぇという頭の悪そうな感想しかでてこないや」
「今はお前もそのセレブ側なんだけどな、一応」
この幸運を恵んでくださってありがとうございます、女神様。改めて私はソレイユ王国の女神に感謝をした。
そんな時、こちらに近づいてくる馬車の音がしてきた。そちらの方に目をやれば、フルール公爵家の馬車が見える。
そうか、今日が約束の日だったのか。
ヴィオレもその音に気が付き、そちらに視線を向ける。
「あ、来たみたいだぞ」
「お久しぶりです、料理長~!」
「アイリス様~! お久しぶりです~!」
「アイリス様~!! 私もおります~!」
「えぇ!? なんでデイジーまで!?」
馬車から降りてきたのは料理長とデイジー。こちらに向かって手を振ってくれている。
今日は私の読んでいた恋愛小説や夏季休暇の課題等、公爵家にあった必要なものを届けてくれる日だった。また、今後公爵家でも同じようなメニューが提供できるよう料理長がこちらで数日ほど食事について共有することになっている。
けれど、デイジーが来るとは聞いておらず、満面の笑みで手を振ってくれるデイジーのもとへ駆け寄った。
「アイリス様の日々の努力を聞き、フルール公爵家に帰られても同じように対応できるよう、オリヴィア様に特訓させていただけるようお願いしたのです。アイリス様のお傍には居れませんが、私も精一杯頑張りますからね」
拳を握り、熱く語るデイジー。
どちらかというと、ただただ天国にいる私よりデイジーの方がよほど大変な日々になりそうな気がするが、瞳に炎を宿して熱く燃えているデイジーの耳には入らなさそうだ。
たった数日なのに、いつもの賑やかな空気にほっとした気持ちになる。お父様も皆も元気かな……。
フルール公爵家に思いをはせていると、荷物だけのはずの荷馬車から何やら音がした。
全員でバッとそちらに視線を向ける。アイリス様、お下がりくださいとデイジーが私の前に盾になるかのように立ちふさがった。ヴィオレが確認をしに荷馬車に近づくと、荷馬車の出し口から美しい金色の髪を二つ縛りにしている小さな顔がぬっと出てきた。
「あ、おねえさま……!」
可愛らしい声で私を見つめ、声を上げたのは妹だった。
「え、カメリア!?」
「カメリア様! まぁ、大変! 荷馬車に入り込んでいたのですね」
カメリアはこちらに駆けてきて、私の足に抱き着いてきた。私もそれを抱き留める。
カメリアに目線を合わせるためにしゃがんで、諭すような口調で伝えた。
「カメリア、だめじゃない。荷馬車に乗り込むなんて、とっても危ないよ」
「だって、ようやくおねえさまにあえるとおもったんだもの。それなのに、おねえさまがいないから……ずっと、たのしみにしていたの。おねえさまにあえるの」
お母さまに似たエメラルドのような翠色の大きな瞳に涙をいっぱいに溜めながら、一生懸命に私に思いを伝えてくる妹に胸がいっぱいになってしまう。
私の夏季休暇に合わせてカメリアが会いに来てくれていたのか。となると、そもそもこうなったのは、私がヒロインに胡坐をかいてしまいこの状況にしてしまったからなのであって。それがなければ夏季休暇に遊びに来たカメリアにも会えたわけで……。つまり、私のせいということだ。
カメリアをひしっと抱きしめ、ごめんねと言う。それにしても、頬はいつもより少し赤いし、抱きしめるとカメリアの体温が少し熱く感じた。確認をしようと額に触れようとするもカメリアはそっと私から離れた。そして、くるりとヴィオレの方へ向き直り、ヴィオレのもとへ走っていく。
「おねえさまを返せ! あなたなんてだいっきらい!」
「おおおお、か、カメリアちゃあん!? なんてことしてるの!?」
そして、まさかのカメリアが暴言を吐きながら走った勢いそのまま思い切りヴィオレの脛に飛び蹴りをお見舞いした。
普段天使のようなこの子がこんなことをするなんて、と驚いているとそのままふらりとカメリアが倒れてしまいそうになった。ヴィオレがそれを抱き留め、私たちもカメリアに駆け寄る。少し息苦しそうに呼吸をしており、額に手を当ててみると夏の日差しのせいとは言えないほどひどく熱かった。
「え、すごい熱い……」
「おい、早く医者を呼んできてくれ! とにかく、屋敷の中へ」
ヴィオレがカメリアを抱え、皆で屋敷の方へ駆けていった。
読んでいただきましてありがとうございました。
私も自力で痩せねぇなら金を払うしかないだろ!と脂肪を札束で殴るタイプのダイエットをしたことがありますが、プロってすごいですね。痩せました。




