7.ヒロインなんですが母の親友に会いました
やけにニコニコしたオリヴィア様。
うんざりした顔で肘をついてそっぽを向くヴィオレ。
ただただ戸惑う私。
初めてのデュランダル公爵家での夕食の空気はかなり混沌としていて、お世辞にも良い雰囲気だったとは言えないけれど、さっぱりとしたお料理はするすると口に入っていきとても美味しかった。
最後のお皿を食べ終えた後、オリヴィア様はにっこりと私に微笑みかける。
「これからもお夕飯は少し早めの時間に食べて、早めに就寝しましょうね」
なるほど、オリヴィア様も私のダイエット計画をご存知のようだ。
「はい、よろしくお願いします」
頭をべこりと下げると、良いのよ~と歌うように楽しそうに返事をされた。オリヴィア様は夕食中もずっとご機嫌で楽しげに私を見ていた。
お母様からオリヴィア様と仲が良くて、姉のようにとても可愛がってくれたという話はよく聞いていたけれど本当に仲が良かったのだろう。
最後にあたたかなハーブティが出されて、皆でゆっくりとお茶を飲んでいるとオリヴィア様が優しく微笑みながら私に話しかけた。
「それにしても、本当にアニスに似ているわ」
「……え、お母様に?」
「えぇ。本当にそっくりよ、懐かしい気持ちになるわ」
嘘のない優しい声色とあたたかな微笑みだ。
オリヴィア様は本当にそのように仰ってくれているのだろうけど、正直お母様と私が似ているというのは少し違うと思う。
お母様は本当に綺麗だ。体を弱くしてからは、かなりほっそりとしてしまったがそれはそれで儚げな美しさがあると思う。薄紫色の髪やエメラルドのような不思議と美しく輝く翠色の瞳。昔は頬は薄紅色で庭園に居た時に見た時は、本当にお花の妖精のようだと幼心に思っていたことをよく覚えている。
そんな母と自分は程遠いと思うけど……。
うーん、と私が悩んでいると、オリヴィア様は気付いたようにして大きく笑った。
「……あぁ! あの子もあなたを産んだ頃結構ふっくらしていたのよ」
「えぇ! そうだったんですか?」
「そうそう……今は、会えてないけど瘦せちゃっているのよね?」
「はい……あ、でも私が学園に行く前には随分と良くなっていて、今では外に出る時間も増えてきているんですよ!」
「そう……それは良かったわ」
少し寂しそうに笑うオリヴィア様。
たまに届くオリヴィア様からの手紙、母は嬉しそうに読んでいたっけ。美味しいハーブティと共に、母にたくさんの言葉を投げかけていたのを嬉しそうに私に話してくれたのを覚えている。
会えないから、手紙をよくくれていたんだな。でも、きっと会えるなら会いたかったんだろうな。
それから母とカメリアとどのように過ごしていたか。母が少しずつ回復していることや、楽しい思い出をたくさんオリヴィア様に伝えた。オリヴィア様はずっととても嬉しそうに話を聞いてくれて、最後に良かったと満面の笑みで笑ってくれた。
「あの子元々太りやすい体質だったから、美容や痩身にも特化したものを元々作っていたの。今はいつか、あの子が首都に戻ってこれるほど回復したら……あの子が健康になれるようにサポートしたくて新しくサロンを作ったの。せっかく作ったからお話を聞いて向いてそうな方には声をかけて利用してもらっていてね。デュランダル公爵家はそういう体に関するものを構築することが得意だから」
「うちは比較的危険なことも対応する事が多いから、リハビリとかも医者や設備含め結構強いんだよ」
「そうか、そうだったんだね」
もしかしたら『逃げ出した人間が居ないのは恐ろしい手段で逃げられないようにされている』という噂も、きちんとした体のケアを受けていただけなのかもしれない。オリヴィア様の優しさやヴィオレの様子を見ていると、もしかしたらデュランダル公爵家は言われている程恐ろしい家ではないのかもしれない。
私が二人の話を聞きながら考えを改めていると、オリヴィア様から衝撃的な発言が投下された。
「だからね、今回アイリスちゃんがうちのサロンを使ってくれるって聞いた時、本当に嬉しかったのよ。話は聞いたわ、王妃を目指しているんですってね」
「……ん?」
オリヴィア様の発言の意味がわからず、ヴィオレを見る。すると、シュバっと信じられない速度で目を反らされた。あの野郎、一体どんな伝え方をしたんだ? いつの間にどんな話になっているんだ?
とにかく訂正しなければ。話が大きくなりすぎている上に、今のところローランルートに進む予定もなければ私なんかが王妃なんて絶対無理だ。実際のゲームのヒロインアイリスならまだしも、王妃なんて私には荷が重すぎる!
「えっ……とですね、オリヴィア様。あの……」
誤解を訂正しようと話そうとするも、オリヴィア様がお仕事モードになられたのか、キッとした鋭い目つきで手を組まれた様子に顔が怖くて何も言えなくなる私。
「健康や美に近道はないわ、アイリスちゃん。遠回りに見えるけど、健康な食事、運動、そして健全な精神を養うことが健康と美に直結するの。それを習慣づけること。この1か月、私とヴィオレが精一杯あなたを磨き上げてあげるわ」
オリヴィア様は席を立ち、私の傍まで来てそっと肩に左手を置いた。
右手で拳を握り、心臓のあるところへその拳をそっと置く。
先ほどまでの優しく微笑む母親の友人顔はどこへやら、強面の公爵夫人がカッと目を見開く。
「体を鍛え、心を癒し、強くなる。強さこそ、正義!」
お、どんどん雲行きが怪しくなってきたぞ。
私がまたヴィオレを見るも、先ほどよりも早い速さで目を反らされる。
やはりここは帝国の剣と呼ばれるデュランダル公爵家。公爵夫人であるオリヴィア様もなかなかの精神性だ、もう誰も彼女を止められない。
私はここでどうなっていくのだろう。不安そうな顔をしていると、強面の公爵夫人の顔がまた母の友人の優しい笑顔ににこりと戻る。
「大丈夫、遠慮しないで。ばっちり公爵家をあげてサポートするわ。でも、せっかく娘ができると思ったのに残念だわぁ~。王妃を目指すだなんて、志が高いわねアイリスちゃん。ふふ、そこが気に入ったわ。まぁ私も公爵夫人になるとは思わなかったし、未来はまだわからないからね。うちの娘になってくれる分には大歓迎だから、それは心にとめておいてね」
とても嬉しそうな顔で私の顔を覗き込むオリヴィア様。
ヴィオレはそれを聞いて、焦りながら立ち上がって弁解をした。
「な……母上!? だからそれは最初に否定したでしょう!」
「あら? ヴィオレが女の子つれてくるなんて気のある子を連れてきたとしか思わなかったんだけど? 王子様との三角関係だなんて、燃えるわねぇ。やるわね、アイリスちゃん」
「違いますオリヴィア様!」
とても楽しげなオリヴィア様。
私とヴィオレの懸命な否定の声は届いていないようだ。
二人でその後も懸命に否定するも、ニマニマと嬉しそうに笑っているだけで全然耳に届いていない様子である。
「ま、今はそうでもいつどうなるかはわからないものだからね。私もあなたのお父様と結婚するとは夢にも思っていなかったくらいだし」
「あー親のそういう話は聞きたくないから、それはいいです! とにかく、アイリスと俺がどうかなるなんて絶対ないですから!」
「そうです、オリヴィア様! 本当に絶対にありえません!」
「と、思っていたころが私にもあったのよねぇ」
「あ~やっぱり、こうなった! 面倒くさくなると思ったんだよなぁ!」
オリヴィア様は昔を思い出しているのかうっとりとした表情で居て、私やヴィオレの話はあまり聞いてくれていない。というか、聞いているのかもしれないけど話が通じない。一番厄介なパターンだ。
初日からこのような有り様で果たして、この強制パラ上げ夏合宿はうまくいくのだろうか……。
なんとスピンオフ回含め10話目となりました。
書いていて楽しくなってしまってつい長くなる回が多くてすみません、調整していけたらと思います。
評価をしてくださったり、ブクマ登録等あたたかなご反応いただきましてありがとうございます。
続々と攻略対象キャラも出していけたらと思いますので、あたたかく見守って下さると嬉しいです。
読んでくださってありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。




