1.ヒロインなんですが誰も攻略しにきません
私が生まれた日、空からは美しいアイリスの花が降ったそう。
それは王国建国の立役者と云われる女神さまからの祝福。
祝福を受けたヒロイン、アイリス誕生シーンのエピローグ。
生まれたてで記憶なんてないけれど、『花の祝福≪フルール・ド・グレイス≫』のオープニングシーン……見たかったなぁ、なんて思うのです。
『花の祝福≪フルール・ド・グレイス≫』
ソレイユ王国建国の立役者である女神「フルール」の祝福を受けた乙女〈アイリス〉が生まれる。
アイリスが生まれた日、この国の空から色とりどりの美しい花の雨が降った。
その花はアイリス。
天から降る花の雨は女神さまの祝福であるという言い伝えがあり、この不思議な現象が起こったのは建国以来初めて。フルール様が生まれた日から二度目のことだった。
女神の祝福を受けたアイリスは健やかに成長していき、王立魔法学園に入学する。
そこで素敵な男性達と恋愛をしていく、といった王道乙女ゲーム。
攻略難易度がやさしめの乙女ゲームで、正直デフォルトがすでに逆ハーレムのようなものだった。
アイリスにはみんな優しくて、恋敵なんてものもいない。ただただ恋愛ストーリーや魔法等のアクションを楽しむもので、乙女ゲーム初心者の方はまずこれ、と言われるようなゲーム。
乙女ゲーム大好きなのんちゃんから「乙女ゲームやる人の義務教育だから、これ。やんな」と押し付けられるようにして渡され、見事どっぷりと沼につからされてしまったのである。
そんな大好きだった乙女ゲーム『花の祝福≪フルール・ド・グレイス≫』、略してフルグレのヒロインに転生できるなんて、私は本当になんて幸運なんだろう……!
……と思っていたのですが。
「……やっぱりだれもこない」
魔法学園に入学して早3か月。
たしかゲームだと入学早々から廊下や学食、校庭、庭、演武場、図書館、音楽室等々で遭遇、そこから仲が深まっていくはずで、しかもこの時期だと夏の長期休暇に入る前にデートに誘って良いかのお誘いがすでにあってもおかしくない時期。
この初夏の汗ばんでくる季節にわざわざ庭のベンチでじっと座って待ってみるも、攻略対象が現れる様子は全くない。
普通に学園生活しているだけで遭遇するはずなのだけど、今のところ入学式であいさつをしてくれていたソレイユ王国の王子のローランを席からしか見ていない。
ゲームでもアイリス自ら会いに行く事はなかった。
いろんな場所で攻略対象達がアイリスを見つけ、話しかけ、恋をしていくのだ。
しかし、イベントまみれのはずの3か月間に何も起こっていない……。
もしかして、私フルグレの世界に転生したわけじゃなかった? いや、でもそれにしては設定が合致しすぎているから、そんなことはないはず……。
ゲームではアイリスが探して会いに行っていなかったのに、探して無理やり王子様ですよね!? なんてして良いものなのかもわからない。どうしたものか……。
「うわぁ!」
考えに耽っていたら、目の前で男の子が大量の紙の束と一緒に思い切り転んだ。
「大丈夫? ケガしてない?」
「は、はい……すみません」
思わず駆け寄ると、男の子は体勢を立て直してぺこぺこと頭を下げ、バラバラになって紙を慌てて拾い始めた。
それを手伝い始めると、また「すみません、すみません!」とぺこぺことお辞儀をする。
かわいらしい様子に自然とくすりと笑ってしまった。この世界のキャラクターはみんな優しいけど、この子もそのようだ。とても良い子そう。
紙についた土を払いながら書類を集め終わり、トントンと膝の上で軽く整えてから彼に書類を渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます!あの……もしやアイリス様でしょうか?」
「えぇ、そうよ。えっと、あなたは……」
「あ、すみません! 失礼いたしました、僕はセネシオと申します」
「そう、セネシオね。すごい紙の量ね。一人でどこまで持っていくの?」
「生徒会室へなんです」
……ん?生徒会室?
生徒会室といえば、生徒会長を務めるローランを筆頭に攻略対象が3人ほどいるはずの言わばフルグレの聖域。何度か生徒会室の前の廊下を歩いてみたりもしたけど、用事もないのに入れる空間でもなく、すぐ諦めたのだけれど。
これはチャンスだ。
セネシオはまさに女神様がくださった手助けなのでは? としか思えない。
私はセネシオの肩を力強く掴んでにっこりと微笑んだ。
「すごい量だし、私も手伝うわ。半分持つわね」
「ありがとうございます! さすがフルール様の祝福を受けたアイリス様はお優しいですね」
セネシオに憧れと尊敬のつまった輝いた瞳で見られると、よこしまな目的のある私としてはとても申し訳ない気持ちになる。しかし、そんなことは些末なこと。
ようやく攻略対象のキャラクターに会えるはずなのだから。
そして、そこからはフルグレの展開通りの甘い恋愛、青春生活の幕開けとなり、私は誰かに恋をされ、恋をして……。にやけそうな顔を必死に抑える。
きっと、ここから私のヒロインとして甘い恋が始まっていくのだ。
希望と期待とまだ実際には会っていない攻略対象達への想いでいっぱいの胸を抑えながら、私はセネシオとうきうきと生徒会室へ向かった。
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