**◆ 第1話:君を守れる世界で**
**学校の日常**
初夏の光が差し込む三年A組。
窓際のいちばん後ろ。
そこが、車椅子で生活する**悠斗**の席だ。
彼は美少年で、どこか儚く、それでいて優しい雰囲気を纏っていた。
誰にでも愛想よく――とはいかないが、
必要最低限の言葉だけで、静かに笑ってみせる。
「悠斗くん、ここノート写すところだよ」
隣の席の**由利**がそっとノートを寄せる。
学校中で人気の美女、生徒会長、成績トップ。
そんな彼女が見せる柔らかい微笑みは、
悠斗にだけ向けられる特別なものだった。
「ありがと、由利」
静かで小さな声。
だけどその声が好きで、
由利は胸の奥がふわっと温かくなる。
周囲は“絶対付き合ってる”と言う。
でも実際は、どちらも言えないままの相思相愛。
ただそばにいることだけが、ふたりの距離を繋いでいた。
ーーー放課後ーーー
白峰千紗は、生徒会室の窓から校庭を見下ろしていた。
夕焼けがオレンジ色に染まり、部活帰りの生徒たちが笑い合っている。
その中に――
車椅子の少年がいた。
霧崎悠斗。
千紗の幼馴染で、たった一人の“特別”。
彼の横を吹き抜ける風が、栗色の髪を優しく揺らした。
「……今日も、がんばってる」
ひとりごとのように呟いて、生徒会の仕事を早々に切り上げた。
千紗は急いで階段を下り、玄関先へ向かう。
そこには、いつも通りの悠斗がいた。
「遅かったな、千紗」
「ごめんごめん、生徒会がちょっとね!」
千紗は彼の後ろに回り、慣れた手つきで車椅子を押し始めた。
悠斗は前を向いたまま、少しだけ頬をゆるませる。
「……ありがとう」
「何年一緒にいると思ってるの? これくらい当然!」
そう言って笑う千紗の横顔は、いつ見ても眩しい。
悠斗は――
その笑顔を見るたび、胸の奥が痛くなる。
それは病気の痛みではない。
もっとずっと苦しくて、温かい痛み。
彼が決して言えない“恋”だった。
ーーー学校生活の裏で揺れる感情ーーー
放課後の道は、二人がいつも歩く帰り道。
千紗が楽しげに話し、悠斗は静かに聞く。
それが当たり前だった。
「ね、ね! 例の歌手の新曲、聴いた?」
「……聴いた。あれは反則だろ。泣く」
「でしょ!? サビがすごく良くてさ……!」
千紗は体ごと楽しそうに話す。
悠斗はその全てを、穏やかに受け止めていた。
――本当は、いつかこの時間が終わることを誰よりも恐れていた。
千紗の明るさは、知っていた。
気づいていることも。
自分の体調が悪化していること。
歩けなくなった理由が“ただの病気”ではないこと。
千紗が何も言わず、気を使い続けてくれていること。
全部わかっていた。
けれど悠斗は、言えなかった。
(千紗の未来を、俺のために止めたくない)
その思いだけが、胸を締め付けていた。




