相続人はつらいよ
俺は、大伯母の遺言で彼女の家を相続した。
彼女は生前、葛飾区を舞台にした映画の大ファンで、聖地に土地を買って住んでいたのだ。
大学をさぼって、庭のミントを抜いていたら、突然スーツの男が訪ねてきた。
「あなた、この土地家屋の相続人ですね?」
名刺には《第13銀河信用金庫 地球債権回収部》。
「ホッホ。本件不動産には抵当権がついております。債務が返済されていないため、本件を差し押さえます」
「は?」
そう言って彼は、地面に銀の箱のような装置を置いた。バン、と音がして庭の真ん中に時空の穴が開いた。
「ちょ、おい!」
俺は穴に落ちかけたが、その時、ポケットの中で、大伯母の遺品の懐中時計が奇妙な光を放った。取り出すと、ぐるぐると針が逆回転していた。
俺は直感的に気づいた。これ、もしかしてタイムリープ装置? 時計はさらに輝き、視界が真っ白に塗りつぶされた。
――――
気づくと、家の前に立っていた。しかし、隣の家も向かいの家も、形が違う。そして人々の服装が古い。
「ここは……?」
「あら、ヒデちゃん?」
家から40代くらいの女性が出てきた。秀樹は父の名前だ。もしかして、目の前にいるのは。
「咲来おばさん!?」
若い大伯母だった。
「おばさん、俺、今から変なこと言うけど、聞いて? この家、抵当に入れないで」
急にこんなことを言って、大伯母は怒るだろうか。
「……あなた、ヒデちゃんじゃないのね。この土地を守るには過去に戻る必要があったのよ。でもタイムマシンは高いから、土地を担保にお金を借りたの」
大伯母は古風な細い眉をきゅっとよせて、厳しい顔をした。そして、懐中時計を服の中から出してみせた。
「でも借金は払ったから大丈夫」
「えっ! どういう事?」
俺の時計と大伯母さんの時計が震えはじめた。同一の物が近くにあるので、反発で元に戻ろうとする力が働くのを感じる。
――――
俺は再び光に包まれ、元いた場所に戻ってしまった。
時空の穴に落ちる、と思った瞬間、俺の前にもう一人の俺が現れた。
「え、俺!?」
「未来の俺だ! 早く、このUSBを法務局に持ってけ! おばさんが返済した時の領収書の写しが入ってる!」
「え、それをどうすんの?」
「抵当権抹消の手続きをするんだよ! 未来では、葛飾を舞台にした映画が宇宙で大ヒットして、この辺の土地が高騰しているんだ。咲来おばさんの土地を守るんだ!」
「ホッホ」
銀河信用金庫の男が、謎の力で俺の手の中のUSBを消滅させた。
「ああっ!」
俺は悲鳴を上げた。
「こいつ、こうやって何度も抵当権抹消を妨害しているんだ! おばさんはこいつと戦っていた」
未来の俺が叫ぶ。
色々なことが起こりすぎて、俺は逆に冷静になった。
えーと。
つまり、この土地は守るために抵当に入っていて、抵当に入っているから奪われそうになってる……?
これ、どこが起点なんだ?
「では、被担保債権の消滅時効完成による抵当権消滅を主張する!」
ちょ、未来の俺、カッコよ。
「ホッホ、あなた、少しは使えそうで……」
男は余裕をみせたが、最後まで言うことはできなかった。
あたりを光が包み、宇宙信用金庫の男と未来の俺が消えたからだ。
代わりに、そこに大伯母さんの面影がある少女が立っていた。
「私、クミ。パパの娘だよ。宇宙信用金庫の男は逮捕されたよ。あの男、過去に戻って、土地の登記の偽造をくり返していたんだ」
「そーなんだ」
俺はそう答えるしかできなかった。みんなが何を言っているか、半分もわからなかったからだ。
過去にさかのぼって、あの男の偽造が修正されたので、問題は解決したそうだ。
娘も同じ懐中時計で、元の時間に帰った。
こうして土地は守られたようだ。
俺はその後、宅建の資格を取った。
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