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三分で読めるやつ【ショートショート集】  作者: 青色豆乳


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宇宙から来た嫁

 あんこ餅で有名な、代々続く老舗和菓子屋「さかき弥兵衛やへえ総本舗」の長男、健太が連れてきた婚約者は、シリウス星人のセリアだった。


 家族は、特に伝統を重んじる祖母は猛反対した。

 しかし、二人の状況がテレビに取り上げられると、この多様性の時代に時代錯誤だと非難された。店のSNSは荒らされた。

 40歳近くになるまで、一筋に餡を練り続けていた男の初めての恋だった。健太の決意は固く、二人は結婚し、家族はしぶしぶ彼女を受け入れた。


 セリアは古風で献身的な女性だった。そして、彼女の持つシリウス星人の高度な分析能力で、和菓子の材料の微細な組成を解析し、最適な配合を見つけ出した。


 また、顧客の購買履歴から潜在的なニーズを予測し、新商品の開発に役立てた。最初は戸惑っていた職人たちも、セリアが提案する「改良」が次々とヒット商品を生み出すにつれて、彼女の才能を認めざるを得なくなった。


 最初はセリアに対して頑なな態度をとり続けていた健太の祖母も、今際いまわきわには涙を流して彼女に謝罪し、店の行く末をたのんだ。


 二十年後、榊弥兵衛総本舗は、天の川銀河全体に店舗を広げる巨大な和菓子チェーンへと成長していた。


 ――――


 早朝からこし餡作りをしていた健太は、工房の休憩室のソファにどさりと音を立てて座った。休憩室では、数人の異星人の従業員が談笑していた。

 健太は配膳ロボットから、Aランチ(サワラの幽庵焼(ゆうあんや)き定食)のトレイを受け取ると、食事を始めた。


 こし餡を練る作業は重労働だ。年のせいか最近きつく感じることが増えてきた。工場で作っている商品もあるが、やはり看板商品のあんこ餅の餡は、人間の職人が作ったものでなくてはいけない。


 いまや、あんこ餅は、地球の主要産業といってもよかった。地球上の小豆栽培が可能な土地の全てで、小豆が生産されていた。一時は、輸出用の小豆の栽培のせいで地球の食料危機が叫ばれたが、あんこ餅の輸出先の星々から、安価な食料が輸入できるようになったので、それも解決した。


 さまざまな星から来た顧客を相手にするので、摩擦もあった。試食の文化がなかったらしく、かんちがいして店の在庫を食いつくされたり、今となっては笑い話である。

 おおむね、異星人たちは争いを好まず、良き隣人だった。


 健太は、Aランチを食べ終わった。今、地球の食品のほとんどは、宇宙から輸入された粉を加工して作られている。完全な栄養素が含まれた素晴らしいものだ。見た目、味ともに、本物とそん色なく加工されている。

 しかし、何となくすべて同じ練り切りのような食感に感じてしまうのは、健太が和菓子職人だからかもしれない。


 昼休みが終わった。地球人の従業員たちは、すでに持ち場にもどっている。しかし、異星人たちは、コーヒーを飲んでのんびりしていた。


 ――あの異星人の従業員たち、ずいぶんゆっくり休憩してやしないか?


 健太は一瞬そう考え、妻に「地球人は時間に細かすぎる」と言われたことを思い出した。異性間コミュニケーションには気を遣う。健太は首を振って食堂を後にした。


 妻は、甘味処の経営を手始めに、最近は居酒屋やレストランにも手を広げている。地球の食材は美味だと、銀河中で評判なのだそうだ。


 ――わたし、あんこ大好き。こんなエネルギー源として素晴らしい食品って、初めて。


 忙しく最近なかなか会えない妻だが、若い頃の思い出は健太の心を温めた。


 来年には子どもたちは妻の母星に留学する予定だ。まだまだ頑張って、子どもたちに父親の背中を見せたい。


 健太は午後の作業に戻った。

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