瓜二つの少女と声だけの少年
冬休みじゃ。うれしい。
「始めまして、木咲アカネ。私の名前は、アルミス・セニピリーフ」
確かに、目の前の少女はそう言った。どうして名前を知っているのかということよりも、彼女の見た目が気になる。
「この顔、あなたのだったんだ――そう」
そう言うとHMDを展開し、目元を隠す。
「今はまだ、話すことはない。また、どこかで」
何やらマントのようなものが形成されていき、同時に彼女の姿が少しずつ溶けていく。
「ちょっと待って」
そう呼びかける私に返事はない。
音すらもない。光学迷彩というよりも、最早ワープと言ったほうがいいのかもしれない。
それから何分かしても、特に変わったところはなかった。
本当にどこかへアルミスは消えてしまった。残っているのは私と、情報樹だけ。ここまで来たからにはアクセスしておこう。
「リンク形成、アクセススタート」
データバウムに手を触れ、深層へ潜っていく。
普段よりもすんなりと最深部にたどり着いたけど、何かがおかしい。
「何も……ない?」
普通ならデータ量が少なかったとしても何か一つくらいは情報があるし、視界に広がるイメージはこんなコンクリート固めの無機質な部屋ではなくて、花が咲いていて、綺麗な感じなのに。
ここには、何も
「ない、なんて失礼じゃないか」
「――誰、」
「僕は、エコー」
少年の声だけ聞こえる。
姿はどこにもなくて、無機質な部屋の中に私が一人でいる。
「私はアカネ。君は何? 情報樹の中にいるお化け?」
「あながち間違いじゃないかも。少なくとも姿は見せられないわけだし」
「見せられない?」
「うん。少なくともこの情報樹では無理かな。他のとは役割が違うし」
そのままエコーは続ける。
「本題に入ろうか。僕は君に、あるデータを残しているんだ。まぁそのせいでこんな場所になっちゃったワケだけど」
【data upload : E quipment ; upgrader】
急にデータが送られてきたと思ったらリンク状態が乱れ始めた。視界にノイズが走り、意識が遠ざかっていく。
「――カ――、あ、渡すものはこれだけ」
「エコー?」
「あとは、君次第だ」
ぶつん、とブラックアウトして、すぐに現実に引き戻される。私を待ち受けたのは、ある通知だった。
【congrats : now you can upgrade ur self ; Echo】
その文字とともに、新しいウィンドウが開く。
ステータス画面みたい。耐久力、回復力、拡張性、許容値、固有能力。昔で言うところのゲームみたい。
私はやったことないけど。
「EPを消費してステータスを向上できます、か。ふーん」
ちなみにEPとやらは現状10ほど貯まっている。ステータスはオール1。ひどい、と思ったけど多分このアップグレードデータを持たないギアは1と表記されるんだろう。流石にオール1ではないと信じたい。
よくわからないけど、ひとまず耐久力と回復力を多めに、後は同じくらいに割り振ってみた。効果があるかはわからないし、実はおふざけデータで、意味がないという可能性だってもちろんある。
コツコツ、コツツコツツ、コツ。
コツコツ、コツツコツツ、コツ。
軽い、軽い金属音。
間違いなく、パンドラの足音だ。
私が開けた扉が破壊され、姿を現した。
巨大な蠍。だけど、前見たのとは違う。背中に小さな蠍を背負っている、子持ちの蠍だ。
そして、それだけじゃない。
恐らくさっきまで機能停止状態にあったスコーピオンが、無数にいる。
ふざけないでほしい。
絶望的な状態。そうとしかいいようがない。大体私には逃げ場がない。多数を相手するには広く、数を制限して戦うこともできない。
私、死ぬのかな。
そんな弱気なセリフを呟く。
誰も助けには来れない。そもそもその「誰か」なんていないわけだし。この前会った黒髪の子も、さっきのアルミスも、多分ここにはいない。
いるんだとしたら相当悪趣味だ。うん。
「ま、やるしかないか」
DMPRを両手に形成し、普段は使わないホバースラスターを展開する。出し惜しみはしない。前よりもナノマシン再生産能力が上がっていて、ナノマシンの使用可能量に余裕がある。後は、私自身でどうにかするしかない。
スコーピオンたちが動く。
子持ちは動かず、その後ろにいる成体が複数体まとめてやってくる。先頭の脚を打ち抜き、追撃を撃ち込み、ホバーで横ベクトルを与えて攻撃をよける。
「パーソナリティ、使用」
【Gladiater personality Open】
一時的に動体視力と反射速度を引き上げて状況を把握してからすぐに戻す。この能力は使いやすいけど、その分ナノマシンの消費量も高く、身体への負担が大きいせいで長時間は使えない。
現状あと3 秒ほどか。
【Personality Closed】
成体の数が増えていないのを確認して第一波のスコーピオンのコアを破壊する。悠長に確認している暇はない。すぐに第二波が来る。
さっき来たのとは違って、私のデータにはないタイプのスコーピオン。こうなるとコアを見つけるところがスタートラインになる。めんどう。
見慣れない攻撃をかわしながら、パリィのタイミングを探るために数発撃つ。何度か繰り返せば、パリィ耐性が知っている方と変わっていなければいずれはわかるはず。そこまで悠長にやらせてくれるかはわからないけど。
何回か繰り返していくうちに大体の行動パターンとパリィのタイミングを掴んだ。意外とゆっくりとやるタイプらしい。なら後は適当にパリィしてコアを探すだけ。数が多すぎていつ終わるかわからないというのを除けばただの作業。いつまで集中力が持つかの勝負だ。
――そうだったら、よかったんだけど。
私の戦法を見切ったとでも言うつもりなのか、子持ちのスコーピオンが背負った子供を大量に放出し、それに連動して成体の方も一気に襲い掛かってくきた。
最近寝不足ですね。ねむねむおねむー




