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第1章 ― かなり退屈な死

普通の一日になるはずだった。


荒田和樹は、片手にコンビニ袋を握りしめ、細い路地をとぼとぼと歩いていた。太陽はビルの向こうへ沈み、街角には長い影が落ちている。袋の中には、即席焼きそば、コーラのペットボトル、そして限定メロンパン。今夜の計画は単純明快だった。食べて、アニメを観て、パソコンの前でそのまま寝落ち――それだけ。


ため息が漏れる。バスが遅れていて、苛立ちが募る。


「バス待ちに時間かけるより、歩いた方が早かったかもな……」


こんな“普通”の日に、何の変哲もない人生に、特別なことなど期待していなかった。学校もまあまあ。成績も及第点。交友関係はグループチャットにネット掲示板。これといって際立ったことなど何もない。むしろ、あまりにも平凡すぎた。


だからこそ、不条理に感じた。


――足音が、近すぎた。


振り向いた瞬間、視界がブレた。そして、鋭い衝撃。


腹の奥から痛みが花開くように広がる。視線を落とすと、フーディの下から赤がにじんでいた。


プラスチック袋が手をすり抜け、メロンパンがアスファルトを転がる。


もたつく脚。


「え……?」


地面に倒れ込み、視界がにじむ。どこかで叫び声が響いた。


「――これで死ぬのか。まさか、インスタント焼きそばとおやつのせいで?」


最後に見えたのは、変わらない灰色の空。


「……なんて、退屈な幕引きだよな」


そして、目を開けたとき、すべてが白かった。


天井も壁も床もない、ただただ柔らかな光に満たされた無限の空間。立っているわけでもなく、落ちているでもない。まるで夢の中のように、ふわりと浮いていた。


「思ったより早く起きたな」


背後から、声が響く。振り返ると、ローブを纏った老人が立っていた。白い長いひげ、横に広がった帽子、大げさに笑った口元が特徴的で、まるでファンタジーアニメからそのまま抜け出してきたような出で立ちだ。


「あなたは、誰……?」


「まあまあ、ただの神さまさ。あるいは、そんなもの。ここでは“魂の管轄管理者”って思ってくれればいい」


和樹は目を瞬かせた。


「……本当に、死んだのか?」


「そうですよ!」


「これは……いわゆるあの世、ってやつか?」


「んー、どちらかというと中継地点ね。今は、世界のあいだをさまよってる状態ってとこかな」


老人はまるで、賞を贈るかのように明るく告げた。


「でまあ、あなたの死はウチのミスなんですよ。予定ではあと四十年は生きてもらうはずだった。でも、バスをスキップして違う道を選んだ──そのせいで他人の不幸に巻き込まれちゃったんだな」


和樹はぽかんと口を開けた。


「待って。それって、公共交通機関を五分ケチったせいで死んだってこと……?」


「ざっくり言えば、そういうこと!」


「冗談だろ……」


神さま(らしき老人)はくすくす笑い、手を軽く振った。


「でも安心してください。もう補償は用意してあります。異世界に転生させてあげる。いいとこですよ! ファンタジー、モンスター、魔法――全部そろってるやつ」


和樹の脳内が、追いつかない。


「待って待って、いわゆる“異世界転生”ってやつか?」


「そうそう、あれですよ、あれ。ラノベとかで読むような」


「そのトロープ、本当に実在するの……? これ、リアルに起きてる?」


咳払いする。


「転生するんだったら……チート能力ってもらえるんですか?」


「当然です。好きな特別な才能ひとつ、プレゼントしますよ」


和樹は少し考えてから、指を一本立てた。


「じゃあ、二つお願いしてもいいですか?」


神さま(?)が、言葉の途中で止まった。


「お前、ずいぶん図々しいな」


「話を最後まで聞いて! まず、めちゃくちゃイケメンになりたい。バカみたいにイケメン。それから、才能が欲しい。戦闘とか魔法だけじゃなく、全部で!」


老人は一瞬だけ目を細めた後、腹の底から笑い出した。


「ははっ! 強欲な魂だな! でも嫌いじゃない。面白くなりそうだ。よし、叶えてやろう!」


和樹は目をぱちくりさせた。


「……本気で?」


「大真面目さ。じゃあ、行ってらっしゃい、和樹くん」


「ちょ、今なんて――」


言い終わる前に、世界がガラスのように砕け散った。


まばゆい光が彼を包み込む。


そして、落ちた。


草の匂いが鼻をついた。


「っ……!」


和樹は息を飲んで起き上がった。木々が頭上に広がり、幹の間には霧が漂っている。森の中には命の気配が満ちていた。鳥のさえずり、遠くのざわめき、土と朝露の香り。


服装が変わっていた。黒いシンプルなチュニックにズボン。軽くて動きやすい。体を確認してみると、傷も痛みもない。


「……本当に転生した、のか?」


空中に淡い光が揺れた。


【スキル画面 起動】


名前:荒田 和樹

種族:ヴァンパイア

レベル:1

スキル:


・超速再生[パッシブ]

・血液吸収[パッシブ]

・天賦の才[ユニーク|パッシブ]


彼の動きが止まる。


「……ヴァンパイア……?」


近くの水たまりへ駆け寄り、反射を見る。銀白の髪、鋭い深紅の瞳、陶器のような肌、わずかに伸びた犬歯。


「いや、確かにイケメンだけどさ……ヴァンパイアってどういうこと!?」


胸に焦燥感が灯る。


「話が違う! イケメンと才能って言っただけで、吸血鬼になるなんて聞いてないぞ!」


深呼吸して、なんとか気を落ち着ける。


「落ち着け……もしかしたら、この世界ではヴァンパイアも普通の種族なのかもしれない。焦るな、うまくやればいい。人間に会ったら普通に振る舞えばいいし、モンスターに遭遇したら進化種って言い張ればなんとかなる。いける、いける」


見知らぬ森を見回す。


「まずは、ここから出ないと」


肩掛けバッグのストラップを直す――え、いつ手に入れた?――そして霧のかかる木々の中へと歩き出す。本能と空気に漂う微かな魔素に導かれるように。


湿った落ち葉と絡まる根を踏みしめながら、和樹は慎重に下草をかき分け進む。地図も、方向感覚もない。静けさに包まれたこの森は、心を落ち着かせるどころか不安を煽った。


「道らしい道もない……だろうな」


顔に当たりそうになった枝を払いながらつぶやく。


木々が密集しているにもかかわらず、森は意外と明るい。木漏れ日が差し込み、霧の中に魔素の粒子が微かに煌めいていた。


「……これが魔法の世界ってやつか」


体が信じられないほど軽い。反応も鋭く、動きに無駄がない。平衡感覚、視界、感覚――すべてが研ぎ澄まされていた。


「これがヴァンパイアの特性なのか、それともチート能力の恩恵なのか……」


考えた瞬間、再び視界に文字が浮かぶ。


【スキル画面 - パッシブ特性検出】


・超速再生:傷の回復速度を著しく加速。ただし致命傷は対象外。

・血液吸収:他者の血液を摂取することで能力や特性を獲得。1個体につき1つ。経験値取得は無効化される。

・天賦の才:ユニークスキル。学習制限を撤廃。努力・読書・実体験により、レベルに関係なくスキル習得が可能。


「最後のはまあ、“特典”だとして……血液吸収のほうがよっぽどチートだろ」


倒木に寄りかかりながら、和樹は周囲を警戒する。


拭いきれない違和感があった。空腹でも喉の渇きでもない。もっと原始的な何か。肌の下で低く唸るような感覚。


耳がぴくりと動いた。遠くで、草をかき分ける音。


しゃがみ込む。


音が近づいてくる。重い、四足の足音。


和樹の目が細まる。


「慌てるな……動くな……やり過ごせ」


だが、魔獣は通り過ぎなかった。


低いうなり声が空気を震わせ、茂みの向こうから姿を現す。大型の獣、全身を毛に覆われ、鋭い牙をむき出しにしている。狼に似ていたが、倍はあろうかという巨体。真紅の瞳が和樹を捉えた。


「……やっぱり魔獣かよ」


呻くように呟いた瞬間、獣が突進してきた。


和樹は動いた。いや、体が勝手に動いた。かがんで横に転がり、バネのような反応で跳ね起きる。考えるより先に体が反応し、脚がばねのように弾けた。


「速い……いや、速すぎる……」


肩をかすめる爪。落ちていた枝を反射的に拾い、突き出す。だが、効果は薄い。


「くそっ……!」


獣が再び飛びかかる。


和樹は構え、足で顎を蹴り上げた。獣が鳴き声を上げ、よろめく。逃さず突進し、枝を槍のように握りしめ、首元に突き立てた。


血が噴き出す。


その一部が唇にかかった。


──その瞬間、


【血液吸収 発動】


スキル獲得:鋭敏感覚(小)


脳内に鋭い刺激が走る。視界が一気に鮮明になり、周囲の音が際立ち、空気中の魔素の流れが見えるような感覚。


「……マジか。ホントに発動した……」


倒れゆく獣を見つめる。手がかすかに震えていた。恐怖ではない。アドレナリンの余韻。


「一体倒すごとにスキルが手に入るなら……これ、とんでもないことになるぞ……」


魔獣の死骸のそばにしゃがみ込む。巨体は最後の痙攣を見せていた。毛並みを持ち、異様に肥大化した狼──けれど血は赤く、温かく、鉄臭かった。


殺すつもりはなかった。というより、そもそも何も考えていなかった。ただ、飛びかかってきた瞬間、体が勝手に動いた。今、こうして血まみれの手で死体を見下ろしている。


鼓動が、重く、しかし規則正しく響く。


「……俺、魔獣に勝った。殺したんだ。俺が」


手のひらを見つめる。暗赤色の血が染みている。その匂いは、もう忌避すべきものではなかった。


むしろ――呼ばれているようだった。


一瞬、ためらう。いくらなんでも飲むなんて――そう思った。だが体の奥では、何かが欠けたような違和感がじわじわと広がっていた。内側から引っ張られるような感覚。肌の下にある、微かな渇き。


「バカだろ……血なんて……ただの動物の血だぞ、飲み物じゃないっての」


和樹は獣の首元にできた血だまりに手を差し入れた。どろりとした粘り気のある液体が手のひらに集まり、淡く光っていた。魔素を多く含んだ証だ。表面には自分の歪んだ映り込みが揺れていた。


「……絶対、後悔する」


手のひらを口元に運び――一気に飲み干した。


直後、えづいた。


「ッッッッッ……なんだこれ!!」


咳き込みながら喉を押さえる。味はまるで、錆びた鉄とカビた小銭を混ぜたような――最悪だった。


「これ考えたの誰だ!? 俺か!? 俺、変態じゃねーか……!」


――だが、その直後。


冷たい波が体内を巡った。痙攣は収まり、喉の渇きは消え、脚の疲れは陽光に溶ける霧のように消え去る。


「……嘘だろ。これ、効いてる?」


肌に軽い刺激が走ると同時に、視界に淡い通知が浮かぶ。


【血液吸収 発動】


重複特性を検出:吸収不可


和樹は目を瞬かせた。


「……もう、この個体からスキル得てたのか? いつ――ああ」


思い返す。戦いの最中、口元に飛んできた一滴の血。


「あれだけで発動するのかよ。マジか……」


スキル画面を開く。


スキル一覧:


・超速再生[パッシブ]

・血液吸収[パッシブ]

・天賦の才[ユニーク|パッシブ]

・鋭敏感覚(小)


苔むした地面に腰を下ろし、大きく息を吐く。


「同じ死体からは一つだけ……血を飲むタイミングに関係なく、先に吸収した時点で打ち止めか」


納得はできた。確かにチートだが、限度はある。


まだ温かみの残る狼の死骸を見つめる。


「同じ種族から別のスキルが欲しいなら……別の個体を探さなきゃダメか」


効率的ではない。だが、戦略的だ。


力を選び、組み上げていける。少しずつ、少しずつ。倒した数だけ、自分を作り替えられる。


――その重みが、どっとのしかかる。


「また戦わなきゃいけない。しかも、こんなにうまくいくとは限らない」


ふと、使った枝に視線が落ちる。先端は赤く染まり、割れて使い物にならなくなっていた。


強くなったとは言えない。あれは本能と運に助けられただけ。でも――今の体は、前の自分よりずっと動ける。むしろ、やっと“自分の体”になったような感覚だった。


立ち上がり、口元を袖で拭い、顔をしかめる。


「……やっぱりマズい。次はよっぽどのことがない限り、もう飲まない」


一拍置く。


「……いや、ちょっと疲れてたら、まあ、考えるかも」


森は再び静寂に包まれていた。和樹は木々の上を見渡す。鳥の姿も、羽音もない。


本能がざわつく。


誰かが――いる。


「もう驚かされたくない。水、休める場所、それと……計画が要るな」


魔獣の亡骸をまたぎ、霧の奥へと歩みを進める。血の金属臭が、まだ口の中に残っていた。


森が――和樹に反応したかのようだった。静けさは“無音”ではない。“圧”だ。まるで木々そのものが息を潜めているような、重たく濃密な沈黙。踏みしめるたび、枝の砕ける音や湿った葉の感触が大聖堂の中の太鼓のように響く。


腰には何も携えていない。武器も、鎧も、仲間もいない。ただ、捨てた枝と、受動スキルのリスト、そして“自分の体”だけ。


「鳥も虫も、風さえない。……不気味なんてレベルじゃないな」


霧が幹のあいだを漂い、柔らかく光を反射する。その中には時折、魔素の粒子がほのかに脈動していた。まるで蜜に絡まった蛍のように。


「これが……魔素の感覚、か。静電気みたいで……いや、冬の吐息の温もりに近い」


和樹は足を進める。柔らかい土にブーツが沈み込み、歩くたびに周囲への感覚が研ぎ澄まされていくのを感じた。わずかな根の起伏、地形の傾斜、体重の移動――体が順応している。学習している。


あるいは――思い出している?


自分でも確信はなかった。


小さな尾根が前方に現れ、それをよじ登る。苔を踏まないよう注意深く石を踏んでいく。登り切ると、木々に囲まれた広い空間が開けた。中央には泉があった。細い流れが注ぎ込み、ほとんど鏡のように静まり返った水面。


和樹はそっと近づき、膝をついた。


「……やっと、だ」


両手ですくい、水を飲む。冷たく、澄んでいて、わずかに甘みと金属っぽい味が混じる。魔素の濃度のせいだろう。


水面が揺れる。


銀の髪。青白い肌。深紅の瞳。


「イケメン、って言ってたけどさ。これ、イケメンというより死体じゃね?」


顔に触れる。その感触は、もう“他人のもの”には感じられなかった。


そのことのほうが、牙よりも不気味だった。


そっと体を引いて、深呼吸する。ここへ来てから初めて、何の脅威も感じない瞬間だった。聞こえるのは泉のささやき、静けさの重み、そして自分の思考だけ。


「……俺って何なんだ? ヴァンパイア? そうだろうけど、それってここではどういう存在なんだ? 他にもいるのか? 狩られる? 崇められる? そもそも存在するのか?」


スキル画面には“ヴァンパイア”とあるだけ。詳細も由来も記載なし。ただのラベル。それが今や、答えというより問いのように思えた。


「もし一般的な存在なら、記録とか、逸話があるはずだ。人々も反応を知っている。でも、もし俺が唯一なら……」


水面をじっと見つめる。


「運に頼ってばかりじゃダメだ。知識が要る。住処が要る。馴染む術が要る」


膝の露を払って立ち上がる。


そのとき、奥の木々から音がした。


反射的に身をかがめ、目を細める。音は低く、繰り返される――ずるずるとした足音。


狼のような重さはない。もっと遅く、二足歩行のような動き。


「……人型?」


息を潜め、様子をうかがう。


霧の中から姿が現れた。小柄で、前かがみ。毛皮に身を包んでいる。ゴブリンではない。獣人とも違う。ふらつきながら泉へ近づき、水を飲もうと屈んだ。和樹には気づいていない。


「声をかけるべきか? 隠れる? 待て、危険かもしれない。いや、逆に……」


思考が枝分かれしていく。


歯を食いしばる。


「落ち着け。状況を読むんだ」


さらにもう一体、後ろから現れる。続いて三体目。


誰も武器は持っていない。服は粗末で、補修だらけ。旅人か? 放浪者か?


最初に現れた者が顔を上げた。黄色い瞳。細長い瞳孔。獣人か?


目が合った。


一瞬、時間が止まった。


和樹はゆっくりと両手を上げ、敵意のないことを示した。


「……よう。敵意はないよ」


獣人は瞬きをした。


そして――意外にも、こくりと頷いた。


和樹は息を吐く。


「よし。第一関門クリア:現地民に殺されない。……全力ヴァンパイア路線は、プランAじゃないな」


獣人たちはあまり口を利かなかった。そのうちの一人が和樹をちらりと見て、爪のある手で曖昧なジェスチャーをする。誘ってる? 警戒してる? 判断はつかない。だが少なくとも、襲ってくる気配も呪詛のような罵声もない――なら、勝ちと見なしていいだろう。


彼らは泉のそばに腰を下ろし、小声で言葉を交わしていた。和樹は少し距離を取りながらも、彼らの仕草や癖をじっと観察する。少なくとも今は、危険な存在には見えない。警戒よりも、好奇心が勝っているようだった。


ふさふさの尻尾と丸い耳を持つ小さな獣人が、じっとこちらを見つめていた。和樹が片手を軽く振ると、その子は目を見開いて、慌てて目を逸らした。


「……あれ? 俺、そんなに怖くないかも?」


やがて、年長と思われる獣人が立ち上がり、干からびた根っこを差し出してきた。匂いは最悪だったが、和樹は丁寧に頷いて受け取る。食べはしなかった。ただ、手に持つ。それで十分だった。


木の幹に背を預け、脚を前に伸ばす。木陰の冷たさが、骨の奥まで染み込んでくる。


ほんのひととき、心を許す。


頭上の葉が風に揺れる。かすかに、でも確かに。その音が、現実に引き戻してくれる。


――そのとき、腹が鳴った。


和樹は自分の腹を見下ろした。


「……そっか。何も食ってない……血を除けば、だけど。うぇ」


ずるりと肩を落とす。


美しい自然も、今の彼の“魂の空白”を癒やすことはできなかった。


「自販機もない。レンチンもできない。Wi-Fiもない。コーラもない」


首を垂れる。


「この世界、たしかにスゲーけどさ……」


空を見上げる。瞳が悲壮に震える。


「俺、コーラ飲みてぇ……」


長い沈黙。


「てか……アニメ、どうなったんだっけ?」


髪をわしづかみにして頭を抱える。雷のような衝撃が心を貫いた。


「漫画の結末どうなるんだよ!? この世界クソかよおおおお!!」


森から鳥たちが一斉に飛び立った。


獣人の一人がびくりと肩を震わせた。


和樹は苔の上で丸まり、まるで疲れ果てたサラリーマンのように呻いた。


こうして――彼の異世界生活が始まった。

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