記憶の檻

作者：にっしー

サイコホラーの作品です。そこまで読むのには時間はかからないと思います。

### **プロローグ**

　相沢蓮は精神医学の専門医であり、神経科学と心理学の交差領域を研究してきた。彼は特に記憶障害に関する臨床経験が豊富で、従来の医学では説明が難しい症例にも対応してきた。

　ある日、警視庁の心理捜査官・片瀬恭子から一本の電話が入る。

　「先生、特殊な記憶障害を持つ患者を診ていただけませんか？」

　その患者とは秋山透。彼は「自分の記憶が書き換えられている」と主張していた。通常の解離性健忘症や統合失調症とは異なる症状を示しており、警察病院に収容されているという。

　相沢はこの依頼を受け、秋山の診察を決意する。

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### **第一章：消された記憶**

　警察病院の個室にいる秋山透は、痩せ細り、不安定な表情を浮かべていた。しかし、彼の言葉は明瞭で、論理的だった。

　「先生……俺の記憶が変えられてるんです。」

　秋山は震える手でノートを取り出し、メモを見せた。

　「昨日まで、俺は妻と二人で暮らしていました。でも今朝目覚めると、妻の存在が消えていたんです。家族や友人に聞いても、誰も彼女を知らない。彼女の写真も、記録も、何もかもがなくなっている。」

　相沢は慎重に彼の話を聞き、質問を重ねた。

　「奥さんの名前は？」

　「美咲です。でも、今の俺の人生には美咲が存在しないんです。」

　秋山の症状は、単なる記憶の欠落ではなかった。彼は記憶の改変を「認識」していた。

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### **第二章：変化する記憶**

　秋山の診察を続けるうちに、相沢はさらに驚くべき事実を知る。

　「これが初めてではないんです。」

　秋山はため息をつきながら話し始めた。

　「俺の記憶は、定期的に書き換えられてる。ある時は銀行員、別の時は教師、またある時は……犯罪者の記憶を持っていました。」

　「共通点は？」

　秋山は、しばらく考え込んだ後、小さな声で答えた。

　「すべて……未解決事件に関係する記憶です。」

　相沢はこの情報を重く受け止める。もしこれが真実なら、秋山の記憶改変には何らかの意図がある可能性があった。

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### **第三章：伝染する記憶**

　診察後、相沢自身に異変が起こる。

　ある夜、彼は奇妙な夢を見た。

　夢の中で、彼は知らない街に立っていた。目の前には見知らぬ男。

　「助けてくれ……俺の記憶が消える……」

　男がそう訴えた瞬間、彼の姿がかき消えた。

　翌朝、相沢は強い既視感を覚えながら、新聞を広げた。

　そこには、夢の中で見た男の記事が載っていた。

　**「未解決事件の被害者として報道された男」**

　「……まさか、秋山の記憶が俺に伝染したのか？」

　相沢は戦慄した。

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### **第四章：記憶操作の可能性**

　相沢は秋山の供述をもとに、過去の未解決事件を調べ始めた。

　そして驚くべき事実を発見する。

　**秋山の記憶は、すべて実際に起こった事件と一致していた。**

　しかし、その記憶を持っているのは彼一人だった。

　もし秋山の記憶が単なる精神疾患ではなく、何者かによって意図的に植え付けられたものであるならば、これは単なる医学の問題ではなくなってくる。

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### **第五章：真実の崩壊**

　調査を進めるにつれ、相沢自身の記憶にも異常が現れ始める。

　ある日、目覚めると彼はまったく知らない部屋にいた。

　**「先生、目が覚めましたか？」**

　見知らぬ医師が彼を覗き込んでいた。

　相沢の視線はカルテに吸い寄せられる。

　**患者名：相沢蓮　診断名：重度の解離性健忘症**

　「違う……俺は医師だ……！」

　だが、彼の過去の記録はすべて、**精神疾患の患者**として書き換えられていた。

　現実とは何なのか？

　彼が見てきた世界は、本当に存在していたのか？

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### **エピローグ：檻の中の記憶**

　病室の扉が静かに閉じた。

　「次の患者をお呼びください。」

　その声に応じて、部屋に入ってきたのは——

　**秋山透。**

　「先生……俺の記憶が、また書き換えられました。」

　その瞬間、相沢の頭の中で、何かが崩れ落ちる音がした。

みなさまの記憶は本当に自分の記憶なのでしょうか。日々、当たり前に過ごしている日常を大事に今日も頑張っていきましょう。