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元人工勇者による魔族国家の育成戦記  作者: チョコメモリー
連邦歴十一世紀第一章 『人工勇者』
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連邦歴十一世紀6 『連邦と王国、勇者と人工勇者』

 アルメシア王国。その国は約千年前、国家という存在がない時代に大陸の西側で暮らしていた多くの人族、獣人族、妖精(エルフ)族、小人(ドワーフ)族が一つになったことで生まれたアルメシア・フォルティナ・アモラリタス・ディタ連邦が元となった国家である。

 以前の連邦は大陸の西側ほとんどを支配し、それ以外の民族、特に魔族は東側に様々な国を作った。連邦は当時絶対的な影響力を持つ覇権国家として君臨し、連邦千年安泰とまで言われ、現代まで様々な国が使用する連邦歴を誕生させた。


 しかし連邦歴一世紀後半、八十年代に事件が起きる。

 人族に三人の勇者が誕生したのだ。

 一人は「勇者」、もう一人は「白の勇者」、最後に「黒の勇者」


 勇者とは神から与えられし称号。それは天啓とは異なりながらも様々な恩恵を与えた。そもそも称号とは教会で神のお告げによって判明する天啓とは異なり、本来何かを成し遂げたことによって神に認められ与えられる。そのため産まれたばかりの人間が勇者という称号を持っているという事実に連邦だけでなく世界の国々の関心を集めた。


 称号の権能。それは少なからず世界の情勢に影響を与える。様々な事柄への耐性や強力な攻撃を行使することができる。そんな称号の中でも「勇者」は強力だった。人三人分の大きさの鉄塊を軽々と持ち上げる怪力に尽きることがない膨大な魔力。

 そんな勇者は人族からしか生まれないと神は言った。

 その影響か人族は連邦では大きな権力を持つようになり、他種族への迫害や差別が増えることとなった。

 そんな時、アイゼンハルムという魔族の国の一つである大陸の中心から連邦にとって南東に位置した国で当時連邦で人族の王を冠していた人物が殺されるパトビルア事件が起きてしまう。

 それに怒った王子が王位に即位してすぐに勇者を向かわせアイゼンハルムを滅ぼし、魔族大征伐という連邦の取り分け人族の軍を集め魔族の国々に侵攻をした。


 一方連邦内では人族の度重なる迫害に対し他の種族が決起して独立戦争を仕掛ける。

 人族は連邦内で東側、魔族の国々と接する地域に多く住んでいたこともあり、完全に挟まれてしまったのだ。勇者を三人抱えていた人族も突然の出来事で降伏、以降連邦は解体され、種族ごとに様々な国に分裂してしまった。


 そうして魔族の国々との最前線、西と東から挟まる様に生まれたのがアルメシア王国なのだ。

 しかし未だに一世紀周期で三人の勇者が生まれるこの王国は大国の位置が揺るがない。


 そんな王国も連邦歴九百八十六年、危機に陥ってしまう。三人の勇者の中で最も強い「勇者」が幼少期に殺されてしまったのだ。「勇者」は階級で言うならば災害級から天災級になりえるのに対して、「白の勇者」と「黒の勇者」は帝級…………良くて災害級下位だ。災害級下位と天災級ではエネルギー量は十倍以上の差ができてしまう。魔族と敵対している王国にとって国家存亡の危機となった。


 そんな時に発足した事業が「人工勇者」だ。身寄りのない幼き孤児を保護し、勇者と同程度の戦闘力を持たせるために訓練を重ね、様々な魔法を身体や魂に刻んだ。

 最初は千二百人程の人数がいたが数年後には訓練を持続できなくなり百人程度に、最終工程を終え、人工勇者として世に出されたのは十六人となっていた。

 訓練には実戦経験を積むために魔物……特にゴブリンやオーク、オーガなどの魔物の中で頭の良い種類と戦わされ、それによって数百人が命を落としたという。


 「もうそろそろかな…………」


 シルは呟く、戦場となり爆音が響いていたはずのこの場所で妙な静けさが場を支配していた。時間にしてイゼル達と別れてから十分は経過している。彼の足元では聖級と判断されていた蟲人(インセクター)らがバラバラになって転がっていた。


 コトッコトッと足音を鳴らし、元居た広場に戻る。先の話し合いで決められた作戦を見直してみよう。

 側近の蟲人(インセクター)三匹をシルが相手をして早急に倒し、王級を討伐する。イゼル達はシルが側近を倒すまでの時間稼ぎをするという作戦。一見まともに思えるがこの作戦はある程度実力が拮抗していることが前提なのだ。

 そもそも階級という概念は神が生み出したのではないかと言われる程に人としての指標にする場合半分以上がほとんど使われないほどだ。一つ階級が上がるというのは一回り二回り実力が上がることを意味していない。全体のエネルギー量が何倍、何十倍にも膨れ上がることを意味する。

 先の戦闘での最適解は単純だった。シルが蟲人(インセクター)らを皆殺しにする。王級も下っ端も関係なくだ。それを思いつかない彼ではないはずだ。


 広場に着くとそこには蟲人(インセクター)も人間も関係なく屍となって転がり、赤黒い血が地面に滴り、臓物のような何かが壁に張り付いていた。


 「ふむ。ふむふむ。まだ生き残りがいたのか………もう仲間は死んじまったぞ?」


 シルがこのような行動をとるべきと判断した相手がまるで腹を満たした後に来るデザートのようにうれしそうにもめんどうにも思える態度で目線を向ける。

 肌が青く、筋骨隆々といった言葉が似合う魔族と思わしき風貌の男がそこに立っていた。

 そばには王級の蟲人(インセクター)と白い髪に混じる赤毛が目立つ女が彼を立てるように並んでいる。いずれにせよ魔族の彼らがこの惨劇を生み出した元凶だというのは考えずとも分かる答えだ。

 そんな時、男は右手をシルに差し出すように上げると、その手には辺境伯の頭が無造作に掴まれていた。


 「俺の目的はこいつを殺すことだ……。何もしないのなら見逃してやってもいいんだが?」


 魔族の男は隠しているつもりなのかもしれないが膨大な魔力があふれ出てきている。それよりも気になるのは隣の女の方だ。男の方より明らかに魔力量が多い。いずれにせよ二人とも災害級相当に思える。


 「いや、ここで死んだ者の為にも俺は抗うさ。命令の順守の為にもね」


 シルはそう淡々と言い放つと、刀を抜いた。


 男は首を傾げて言った。


 「貴様………気色が悪いな………」


 「いきなりひどくないかな……」


 男は上を見上げて考えるような動作を見せると言った。


 「つまらん。つまらんのだ。人間のもっとこう……友を殺され、自分の置かれている立場を理解した時の顔、叫び、怒りに怯えといった感情の起伏が俺は見たいのだ。だというのに貴様は……客観的というのか? もしかして仲間ではない? いやさっき貴様は――」


 シルは終わりの見えない話を遮るように言葉を発する。


 「そろそろいいかな? 俺の名前はシル。お前の名前は?」


 「話を遮るとはなんとも傲慢な……だがそれも良し。俺の名前はクティストーニス・アルマヴィルスという。せいぜい死に怯えながら俺を楽しませてくれ」


 そう言い終えるとたちまち男の肌は赤色に変わっていき、先程まで一対しかなかった自身の腕を十数本空中に浮かばせていた。

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