連邦歴十一世紀4 『技量の基準』
静かな基地に怒号が響く。
「――敵襲だ!! 戦闘態勢に入れ!!」
副団長の急な呼びかけに騎士団、傭兵団の団員達は一時混乱するも、戦闘態勢に入る。
魔族は陸と空両方から迫ってきていた。人族と違って魔族には種類がある。
そもそも魔族とその他の種族には明確に違いがある。魔族は交配の他に自然発生する事によっても数を増やすことができる。言わば魔物に近いのだ。ではなぜ魔物に分類されていないのかというと知能の差だ。魔物に似た性質を持ち合わせ、知能が高い種族をまとめて魔族と分類するのだ。空を飛ぶ魔族もいれば虫のような魔族もいる。その他種族と対等な知能、容姿を持った純粋な魔族もいるがそれは魔族軍の幹部となるだろう。
空を飛ぶ魔族は蜂や蠅型の蟲人族だろうか。不快な羽音が轟き、地を這う我々に空から一方的に魔法攻撃を仕掛けていた。
「散れ!! 空の羽虫は魔法使いに任せて諸君らは地から迫る奴らに対応しろ!!」
魔法の弾が飛び交い、爆発で静かだった基地は数秒にして地獄絵図となっていた。
すると基地に隣接する森から葉が擦れる音が聞こえる。陸の敵が迫っていた。
「なんでこんな近くにいる敵に誰も気付かなかったんだ? 俺達も行くぞシル」
イゼルは武器を手に取り、森に目をやる。
そこには大量に蟲人の一種、二足歩行の蟻型がいた。
魔力の流れが乱れ、殺気が場の空気を変える。それは強者がいる証でしかなかった。
「菫コ讒倥∈縺ョ繧ゅ※縺ェ縺励�縺ゅk縺九��滉ココ髢薙」
一匹の蟻型蟲人が我々に問うように発せられた声は、心臓が撫でられるような不快感を押し売りしていた。副団長が言う幹部、王級はこいつの事だろう。奴を護衛するかのように三匹の蟲人が後ろを囲み、奴の四本の手には一本の神々しい槍が握られていた。次々に森から飛び出す蟲人に兵は翻弄され、死者が出始めていた。
「シル様、奴が例の幹部かと思われますがどうされますか?」
副団長は急かすように俺に問う。しかし……。
「俺は先に奴の後ろにいる三匹を片付ける。副団長とイゼルは少しの間時間稼ぎをしてくれ」
副団長はそちらを細目で見て応じる。
「なるほど……確かに三匹とも聖級並みの気配が感じられました。確かに我々だけでは各個撃破されるだけでしょうね……。イゼル殿は速度上昇という天啓もありますし、上級には収まらない器だ。その案でいきましょう」
案は決まった。イゼルが不満そうな顔をしているが後回しだ。まずは戦いに専念しよう。
俺は刀を鞘から抜き、幹部に向かって音速を超えるかといった速度で距離を詰める。刀を軽く振るものの幹部は槍で受け止める。
「流石に止めてもらわなきゃな……。だがお前の相手は俺じゃない!」
槍が俺の身体のいたる所に吸い付くように突きが繰り出される。刀で槍を払い。蹴りを叩きつけるように食らわせた。その衝撃で幹部はイゼル達の方向に地を跳ねて吹っ飛ぶ。
「諤・縺ォ螟ア遉シ縺ェ莠九□縲ゆココ髢馴「ィ諠�↓遉シ縺ィ縺�≧讎ょソオ縺ッ逅�ァ」縺ァ縺阪s縺九よョコ縺吶◇縲よョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺吶≠縺√≠縺√≠縺ゅ=縺√=縺√=!!」
完全にご乱心といった様子だ。だが今の攻防で少し分かったような気がする。
王級といえどもあの個体は若い。力や魔力量は膨大だが技量が未熟だった。蟲人の特徴として基本的に寿命は魔力量などのエネルギー量によって変動する。王級ならば五百年生きることなど容易だろう。しかし十九歳……前世を合わせても数十年しか生きていない俺に育った環境は違えど負けたのだ。イゼル達が簡単にやられるとは思わない。
「おいおい乱暴すぎるだろうが!!」
イゼルが剣先を幹部に向けて叫ぶ。
今回はあくまでも時間稼ぎ。副団長を含めても真面目に戦えばジリ貧だ。俺はこの三匹を早々に片付ける必要がある。
「縺ゥ縺�☆繧具シ溘%縺�▽縺ゥ縺�☆繧具シ�」
「谿コ縺帙�縺�>繧薙□縲ゅ◎縺�□繧域ョコ縺帙�縺�>繧薙□縲ょシア縺�¥縺帙↓讌ッ遯√¥莠コ髢薙↑縺ゥ豌玲戟縺。縺ョ謔ェ縺�□縺代□縲�」
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相変わらず何を言っているかは分からないが俺に対する殺気を強く感じられた。一匹は二メートル程の装飾された棒を一本自由自在に振り回し、もう一匹は短剣を四本それぞれの手が埋まる様に持ち、最後の一匹は二本の大剣を構える。棒持ちと短剣持ちと大剣持ち…………癖のある面子のようだ。
――副団長は幹部をこの場に引き留める方法を思案する。戦いに持ち込むのは簡単だが王級と言えども多種多様、同じならまだしも一つ上の階級、実力の詳細が分からない今後手に回れば命取りだ。
「貴殿が蟲人どもを率いる将だな。私はアルメシア王国騎士団副団長ジルジ・フォン・クルーゼン。貴殿の相手になってやろうぞ」
「菫コ讒倥�驍ェ鬲斐r縺吶k縺ェ��シ∵・ス縺ォ豁サ縺ォ縺溘¢繧後�謨」繧鯉シ�シ∵ョコ縺吶◇。」
「おい、副団長様よ。こいつらと話が通じる訳じゃあねぇんだ。名乗ったところで意味ないぜ」
「黙るんだイゼル君。私達の目的はあくまで時間稼ぎ。対話で済むのならそれの方がいい」
「繧ゅ≧縺�>縲∵ョコ縺�」
幹部の目が黒からみるみるうちに赤色になっていく。対話が成功しているとはとても思えない様子だった。わずかに身体が揺れている…………すると衝撃波がイゼル達の身体を掠める。
「何を…………!?」
幹部は後方に一瞬にして移動していた。そしてその地面には数名の風穴が無数に開いた死体が転がっていた。