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元人工勇者による魔族国家の育成戦記  作者: チョコメモリー
連邦歴十一世紀第一章 『人工勇者』
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連邦歴十一世紀2 『前線の基地にて』

 今俺が生まれ育ったこの国、アルメシア王国は隣接する魔族の国との国境紛争が過激化して戦時下にある。


 戦争が各地に拡大する事を防ぐため人工勇者最強である俺の投入が決められ、魔族軍を率いる幹部討伐へと派遣されていたのだ。

 ある軍事基地のテントで今俺は派遣要請をした男二人と会議していた。


 「シル様、ここ東部戦線ではすでに魔族が国境を越えて西進中。我が軍は窮地に陥っていて…何とか食い止めようと策を練っているのですがどうにも……」


 歯切れの悪さから見てもやはり相当劣勢なのだろう。

俺は東部戦線を指揮している貴族、辺境伯と第二騎士団の副団長と面会していた。


 「だから俺が呼ばれたのですよね? 魔族軍の幹部を討伐するとの話ですがその肝心の幹部はどちらに?」


 俺の質問に副団長が応じる。


 「現在前線の後方にそれらしき魔力反応が確認されています」


 「階級は?」


 「放出されている魔力量からして王級でしょう」


 なるほど……それならば幹部である証拠としては十分納得できる。

 この世界は様々な事柄に対する階級がほとんど統一されていて、順に下級、中級、上級、聖級、王級、帝級、災害級、天災級、そしておとぎ話にしか出てこない神話級だ。帝級から上はほとんど見ないので王級は幹部足りえるだろう。


 「団長がここにいない今、我々に太刀打ちできる相手ではないので帝級から災害級への昇進も打診されているという貴殿の力を借りたく……」


 「もちろんですよ。国の命令でもありますしね」


 「おぉ! それはありがたい。早速現地へ、向かっていただきたい」


 さっきから押し黙っていた辺境伯が息を吹き返し、息も絶え絶えにそう発する。


 「分かりました。それでは俺はこれで」


 そう言い席を立ち、テントを出る。


 「ふぅ、これでなんとかなったか。しかし案外普通ではないか? 人工勇者というものはもっと奇抜というか、成り立ちからしても戦闘兵器のように不気味なものだと思っていたが……黒髪、茶色の瞳、平凡な街でよく見る青年ではないか」


 「そうですな。まるで異質さというものが感じられないと言いますか」


 「しかし孤児を鍛えて帝級にまで引き上げるとは安上がりで戦力を補充できる素晴らしい国策だ。もし死んだとしても剣が折れたように戦力が減るのみで戦後の面倒がないのはさらにな」


 (聞こえてるんだよなぁ) 


 これも慣れたものだ。やはり元孤児というのが大きいのか。どれだけ活躍したとしても所詮道具だと思われているのだろう。心から敬われることは無い。別に求めてないけど。


 少し前、一人の人工勇者がいた。人々は本物の勇者のように愛で戦い、人々を勇気で照らすことを求めた。

 しかし人工勇者は愛ではなく命令で戦い、ただ淡々と作業の様に戦うソレに人々は感謝すれどもそうなりたいとは思わなかった。


 実力でも勇者に劣るのに他で勝てるものが無い人工勇者に求められることは戦争で戦い、国民を守って死ぬということだけだ。


 「おい! お前噂の人工勇者なんだってな。俺と手合わせしてくれないか?」


 突然俺の肩を叩き、そう言ったのは傭兵だろうかという服装をした青年だった。


 「手合わせ?」


 「そうだ。俺は傭兵の新人なんだがよ。先輩方に申し込んでもまったく取り合っちゃくれないからさぁ」


 人工勇者というのは数年前公式に発表された存在だからか、一般的にあまり詳細は知られていないのだ。たまに人工勇者と知って挑んでくる若者は少なくない。


 「いいけど、君は誰かな」


 「俺は将来の英雄、イゼル・ラハト!」


 将来の英雄とは実に自信満々なようである。


 「お前は?」


 「シル、ただのシルだ」


 麦色の髪と青い目をした彼の狂暴そうな顔と鍛え抜かれ、洗練された体は、強者の影を落としていた。


 「どれでも好きなの選んでいいぜ」


 そう言いイゼルは木剣を手にする。

 短剣に大剣、槍、盾などの様々な木製武器を並べ、選ぶよう催促する。

 選んだのはもちろん……。


 「へぇ、刀ね。こりゃ珍しい」


 「何だか生まれる前から知っているような気がしてね」


 「はぁ」


 イゼルは俺の言葉を流す。


 (嘘じゃないんだけどな……)


 「そんな事よりお前、天啓は?」


 「持ってるよ」


 「ならいい。全力じゃないとつまらないからな」


 天啓。それは持つ者と持たざる者がいる。

 魔法とはまわりの魔素や体内の魔力を使うことで行使できるものだが、天啓はその限りではない。同じ工程で使える天啓もあれば、魔力と対価を交換する事自体が天啓として機能するものもある。多種多様で花を愛でることに適したものもあれば戦いに有用なものもある。

 そして天啓と魔法が区別される一番の理由は属性の有無だ。魔法は火、水、風、地、無属性の誰もが持っている基本五属性と空間属性、光属性、闇属性の八つのどれかの属性を魔力に付与して行使する。一見魔法に見えなくても天啓でないのなら複数の属性をかけ合わせたりしているものだ。しかし、天啓は属性を付与せず魔力そのもので行使できる。二十人に一人授かるかどうかというものだが、戦闘向きのものがすべてというわけではない。


 「じゃあ始めるぞ」


 そう言ったイゼルは急激に距離を詰め、木剣を切り裂くように下から胸部に目がけて持ち上げる。


 それを受け止めるために木刀を振り下ろすが、そこに来るはずの木剣は来ず、空を切る。


 「おぉ!!」


 いつの間にか集まっていた外野が叫ぶ。イゼルは回転し、すでに視界外、後ろに回り込んでいた。背中を狙う鋭い斬撃は鈍い音を立てる……ことはなく、高くカンと音が鳴る。


 「へぇ。止めてくるか。初見じゃ避けられないんだがな」


 「お前の天啓は分かった。身体強化の類だな」


 天啓は結構被ることがある、二十分の一といえどこの世界の人口は統計が出しにくい魔族を抜いても六、七億人程だ。大体偏りが出てしまうのだろう。文字通り身体強化に属する天啓は戦闘向き天啓の代表だ。


 「そんなとこだが、よく分かったなぁ。どんな理屈だ?」


 「無属性じゃなく純粋な魔力を使っていたな。それが分かれば簡単だ」


 「余計分からねぇな。魔力の区別なんてつかねぇよ」


 剣を再び構え、イゼルは問う。


 「一つ聞くがこの技を止めたのは天啓のおかげか?」

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