007 琴座宮親王と八咫烏
「それで、その母子は助かったのか? よかった・・・」
2年後に起る京葉線での人身事故で、母子を助けた代わりに、
自分が死んだという話を、詳しく、ルナから聞いたアラタは、
母子が無事だった事を聞いて、安堵した。
「お兄ちゃん、自分が2年後に死んでしまうって話を聞いて、
ショックじゃないの?」
「うん、それ程、まあ夢を果たせなかったのは辛いけど、
人助けで死ぬのなら満足かな」
「アラタさま、らしい発言ですわね。確かリュックには、
遺言書も入れていらっしゃいますよね」ルナがまた、
無意識のうちにのぞき見で得た知識を披露してしまう。
「ええ、どうしてそれを知っているんだ?」アラタの驚きに、
マーレがまた上手く、ルナの覗き見をごまかしながら誘導して、
アラタがある小説で、主人公の坂本龍馬が
「自分の命など、とっくに天に預けているさ、天命があるなら、
それが成されるまでは、生かされているだろう」というセリフに
感銘を受けて、自分も、いつ死んでもいいように、
家財道具は最低限にして、リュックの中には、
「自分が死んだら、近くの火葬場で焼いて、骨は散骨してほしい」
という遺書と、火葬代まで入れている事を、白状させたのだった。
「お兄ちゃんらしいけど、そんな別れ、私は絶対に嫌だからね」
とホタルが泣き崩れる
「ホ、ホタル?多分この事故は、流動的事件なんだよ、
だからこれから気を付ければ、大丈夫じゃないかな、多分・・」
「もう、どうしてそんなに、楽天的なの、お兄ちゃんのバカ、バカ、バカ」
と慰めようとしたアラタの胸をポカポカと叩き始めた。
妹の勢いに、どうしていいか解らずオロオロするアラタに、
ルナが微笑み、
「ホタルさん、この事故を絶対に起こさせなくする作戦がありますのよ」
と、ルナが優しく諭してきた。
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いつの間にか、アラタ達のマンションの隣の部屋が、
ルナ達の部屋になっていた。
その部屋に招き入れられた、アラタは、リビングの床に描かれた、
黄金比の螺旋で描かれた正八角形の花の模様のような絵の上に立たされていた。
「これは、魔方陣?いや、アメリカのSF映画「スタートレック」に出てくる、
瞬間移動装置のようなものかな」
「ああ、あれはプレアデス製の座標軸だけ移動する装置ですよ。
こちらは、ベガ製で、座標軸だけでなく、時間軸も移動できるんです。
どう違うかと言うと・・・」マーレが得意顔で、この装置がどれだけ
優れているかを説明してくれたのだが、よく分からず、
「そ、そうなんだ・・」とアラタは、あやふやに答えた。
「アラタさま、これを」とマーレが腕時計を渡してくる。
「見かけは腕時計ですが、地球の量子力学で言う、『量子もつれ』
の原理を使った、波長同通及び変換装置です。
半径2m以内の人間に影響を与えられます」
(マインドコントロールできるってことか、そんなことして本当にいいのか)
「不満そうな顔ですね。マインドコントロールではなく、
相手を感化しやすくする道具ですから」そう言われて、
渋々アラタが腕時計を付けると、マーレも並んで魔方陣に立った。
「お兄ちゃん、じゃなかった、琴座宮新さま頑張ってね」
最初は、アラタとマーレのコンビで、過去に飛ぶことになっていて、
ルナとホタルが魔方陣の外で、見守っている状況だった。
アラタは、伏見宮、有栖川宮、閉院宮、桂宮に続く、架空の皇族、
『琴座宮親王』になっているのだという。これから、運輸大臣や、
国鉄の首脳陣に会い、旅客化を検討している京葉線の8線化
(2線は貨物線)への増線の根回しに周るのだ。
そして、根回しが済んだ後、ルナとホタルが、皇族の裏組織、
八咫烏の者として地権者を周り、なぜかすんなりと土地が寄進されたり、
交換されて集まるようにする計画なのだ。
「こんなことして大丈夫なのか」というアラタの心配に、
じゃあ万が一、2年後に死んだら、ホタルにどう説明するのかと言い寄られ、
「ホームドアを付ければ」というと、その場合も、なぜか、
誤作動でホームドアが誤作動で急に開き、子供が落ちそうになって、
やはりアラタが身代わりになって死んでしまったんだと詰め寄られたのだった。
「ああ、頑張るよ」とアラタが言い終わると、魔方陣が光り、
アラタ達が見えなくなって、光が消えると、アラタ達も消えていたのだった。
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<< 国会議員会館 >>
○○運輸大臣の議員室に秘書が慌てて入ってきた
「あの、皇族の『琴座宮親王』さまが、いらっしゃってます」
「ああ、あの鉄道オタクの・・。また、何かの陳情かな?
いくら皇族でも、アポぐらい取らなきゃ駄目だな、
忙しいからって、断ってくれ」
「それが・・、なぜか、アポが入ってまして、
第二秘書が入れたみたいなんですが、本人も記憶にないようなんです」
「ちっ、しょうがねえな。5分だけ会うか、すぐ追い返してやる」
しかし、欧米系の女性の秘書を連れて現われた、『琴座宮親王』
の京葉線を8線で建設する話に聞き入ってしまった大臣は、
その場で、その計画にGOサインを出し、運輸省も全面的に
協力すると宣言して、その後、マスコミを集めてプレスリリースまで、
してしまったのだった。
その後もアラタ達は、総理大臣や、大蔵大臣(今の財務省)及び、
大蔵省、運輸省のキーとなる官僚達にも、根回しをし、ヘロヘロになって、
帰ってきたのだった。
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<< とある会社の社長室 >>>
「だ、誰だ・・」外出先から戻った、小森は思わず声を上げた。
小森実掛の仕切る会社は見かけは、小さい会社だが、
裏社会との繋がりも有り、今回の京葉線建設計画でも、京葉線が通る
ルートの情報を事前に貰えたおかげで、かなりの線路用地の利権を
手に入れる事ができたのだ。
この権利を使って大もうけが出来ると、上機嫌で外出先から帰って来て
小森商事の会長屋に入ると、イスラム教の女性のように、目だけ開いた
服装の女性がソファに腰掛けていた。
どうやって鍵の掛かっている会長室に入ったのか、戸惑っていると、
「小森会長さんの考えている人物の使いだと言ったら?」と返事をしてくる。
「まさか八咫烏。本当に実在したのか・・」
「さあ、どうかしら、それより、貴方たちがやろうとしている、
京葉線の土地のつり上げは、どうかと思うわ」
「なんの事だ・・」
「随分、間にペーパーカンパニーを噛ましてるから、国税局も、
途中で掴めなくなっているみたいだけど、私たちの目はごまかせないわよ」
そう言いながらルナが手を振ると、一羽のカラスが突然現われ、
「カア」と一鳴きすると、ふわりと、会長の後ろのコート掛けの上の舞い降りた。
そして、カラスの目が光ると空中に、これまで、小森が行ってきた、
非道な金儲けの映像が、立体映像、音声付で次々に映し出されたのだった。
映像を映し出すカラスの足は、伝承どおり3本あった。
「な・・」小森は、顔面蒼白となり、震えていた。
「照磨の鏡に映し出された貴方の言動を自分で見た感想はどう?
この動画をマスコミに流してもいいのよ」
「や、止めてくれ・・」
「会社としての利益も必要だから、全て寄進しなさいとは言わないわ、
でもああいう、不当なやり方での儲けるのはよくないと思うのよ。
そうね、複線分だけ、国の言い値で売って、利益を得ることを許しましょう。
でも、あとは寄進しなさい。それと、駅の予定地は、
駅前広場も考えて広めに寄進してね」余りにも一方的なルナの提案だが、
小森は無言で、コクコクと何度も頷いた。
一瞬部屋がまぶしく光り、思わず目を瞑って、開くと、いつの間にか、
黒ずくめの女性も、3本足のカラスも消えていた。
そして幻を見たのかと思ったが、机の上に、カラスの羽が1つ落ちてきた。
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魔方陣が光ると、ルナとホタルが戻ってきた。アラタ達はまだ戻って
きていないみたいなので、着替えて、お茶にしながらホタルが質問してくる。
「ルナ姉様、さっきの八咫烏ってなんですか」
「ああ、あれは、会長さんの頭の中にあった、日本に昔から存在している、
秘密結社になりすましただけよ。
本当は、田中角栄を陥れた、CIAか何かを装おうと思ってたんだけど、
彼が八咫烏というその秘密結社の名を思い浮かべてたから、
そっちを使わせてもらったの」と言いながら、ホタルの目の前に
再び、3本足のカラスを実現化させた。
「カア」と鳴いて、ホタルの前のテーブルにちょこんと立つ八咫烏は、
先程より小さく、しかも、丸っこくなっていて、可愛く見えた。
ホタルが思わず、カラスの頭を撫でると、目を瞑って気持ちよさそうにした。
「この子は?」
「名前は特に無いのよ。古事記や日本書記によると、神武天皇の東征の時に
現われて、天皇の軍を勝利に導いたとされている、3本足の鳥で、
八咫烏と呼ばれているわ。
現代では幸運に導く聖なる鳥として、サッカーの日本代表の
ユニホームのエンブレムにもなってるけど、実はこの子も、
ベガ製の偵察用アンドロイドなの」
「名前が無いの?じゃあ私が付けてもいい。そうね、鳴き声から、
カアちゃんだと母さんみたいだから、
『カルル』で、『カルちゃん』はどう」
「僕は『カルル』?いいね、ありがとう」
「え、カルちゃん喋れるの?」
「うん、喋れるけど・・」
「男の子なんだね、でも可愛い」と
ホタルがカルルを抱きしめていると、魔方陣が光り、
ヘロヘロになった、アラタがマーレと共に帰ってきたのだった。