004 出会いはベガ大使館
「ちょっとまってください」そう、後ろから呼び止める、
ピンクのカツラを被ったメイドコスプレをした美少女の呼びかけを、
全力で振り切って、日本 新は、夕暮れの
秋葉原の電気街を、お茶の水方面に逃げていた。
幼い頃に、さらに幼い妹のホタルを野犬からかばった時に、
野犬に噛まれて、左頬から、首に醜い痕が残り、さらにそれを隠すように
前髪を伸ばしている風貌がもとで、たまに不審者として、
警官に職務質問されたり、電車で痴漢扱いされたことが何度かあった・・
そんな、アラタの経験からすると、女性から声をかけられる時は、
何かの勧誘か、何かのクレームか、はたまた痴漢のでっち上げか、
とにかくトラブルになる確率が高いのだ。
今日は、アラタの通っている工業系の大学のゼミで行う、
鉄道模型を使った自動制御運転の実験のための電子部品を、
秋葉原にある秋月電気に買いに来ていたのだった。
この辺りには、メイド喫茶が多く、夕方の時間帯によっては、
多くのメイドコスプレの少女が客引きのために、結構立っているのだ。
アラタは、トラブルを避けるため、パーカーを深くかぶって、
傷痕が見えないようにしながら、秋月電子店に入ったのだが、
どうやら出待ちされていたようで、店から出た瞬間に、ピンク頭の
メイドコスプレ少女に声を掛けられたのだ。
「日本新さんですよね、あの、
少しお時間をもらえませんか?」と、ハリウッド映画女優の若い頃の
ジェニファー・コネリーに似た美人メイドコスプレの人に声を掛けられたら、
普通の青年なら付いていくだろう。
しかし、この風貌のため、何度か痴漢扱いされていた、アラタは、ついて行かずに
「・・・なんで僕の名前を知っているんですか?でも、時間はムリです。
失礼します」と、言って、足早に人通りの少ない、
お茶の水方面に逃げ出したのだった。
(何かの勧誘かな?でも、どこから俺の名前を知ったんだ?
まさか、追ってくるのか!)
全力で、逃げながら、後ろを振り向くと、何処かにスマホで連絡を取りながら、
アラタを追ってくる、メイドコスプレ美少女がいた。
(マジか!絶対ヤバイぞ、あの娘)アラタは、身に覚えがなくて、
内心あせりながらも、古いレンガのガードをくぐり抜け、旧交通博物館跡に
建てられた高層ビルの脇の坂道をお茶の水方面に登っていった。
すると、突然ビルの脇から、なんとなく見覚えのある、
平安時代の姫様のようなコスプレをした女性が現われたのだ。
「アラタさんですよね。先日、志持教授の研究室に、一緒に入部した、
神夜月です」と今度は、若い頃のハリウッド女優の
アン・ハサウェイに似た美女が挨拶してきた。
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今のNR中央線・総武線は、昔は甲武鉄道という私鉄だったらしく、
その起点だった万世橋駅というのが、今の、お茶の水界駅と秋葉原駅の間に
あったそうで、その名残の古いレンガ造りのアーチ形のガード下に
「ベガ大使館」という名の、カフェ&バーのような店があった。
アラタは、その店の少し奥まったテーブルで、志持研究室で出会った
神夜月という女性と向かい合って座っていた。
ピンク頭のメイドコスプレ美少女は、マーレと言うらしく、
ルナの斜め後ろに立っていた。
そして、神夜月が、自分がベガ星人であることをカミングアウト
(アラタをずっと、のぞき見、していることは伏せながら)したので
「はあ、つまり、神夜さんは、1000年以上前に書かれた、浦島太郎が
竜宮城で出会った舞姫さまのお孫さんで、さらに、竹取物語に出てくる、
かぐや姫の娘ということですか・・」と答えた。
「信じられませんか」
「ええ、正直言って信じられません。神夜さんが、真剣に話してくれている
事は理解しましたが、話が突拍子すぎて、信じられないです。ごめんなさい」
「そうですよね。じゃあこれでは、どうですか」とルナが言うなり、
その場から一瞬で消えたかと思うと、また瞬間移動をしたように、
一瞬で、再びマーレの横に現われた。
ほんの一瞬消えただけなのに、ルナの服が乱れていて、
腕に犬にかまれた痕があり、血が流れていた。
「ルナ様!なんて無茶を」マーレが慌てて、ルナに詰め寄る。
「なっ、何があった?今一瞬消えたような、咬まれた痕?どう言こと・・」
「大丈夫、少し犬に咬まれただけよ。それより、アラタさま、
トイレの洗面台で、ご自身を鏡で見てきてもらっていいですか」と、
マーレに手当をしてもらいながら、ルナがアラタに鏡を見るように勧めてきた。
ルナの怪我が気になるが、言われたとおり洗面所に向かい鏡を見ると、
「なぜ?・・」
アラタの頬や首に付いていた醜い傷跡が綺麗に消えていたのだ。
「う・・」それと同時に、アラタの頭の中に、新たな記憶が生まれて来た。
それは、アラタが幼い頃に、さらに幼い妹のホタルが野犬に咬まれそうになり、
アラタが助けに入ろうとしたときの記憶なのに、突然、そこに
綺麗なお姉さんが現われて、野犬から、ホタルを守って、
追い払ってくれる記憶が生まれたのだ。
ただ、それでもまだ、タイミングが遅く、妹のホタルが、
野犬に少し噛まれてしまっていた。
そして、近所の人が駆けつけ、救急車を呼んでくれている間に、
いつの間にか、そのお姉さんが、居なくなっていたという記憶だった。
さらに不思議なのが、この傷跡のことで、小学生時代から
イジメにあった事や、中学生ぐらいになると不審者として、
警官に職質にあった記憶が、完全に消えるのではなく、
2重線で、消されて、あったけど、無かったという、
なんだか不思議な記憶に訂正された事だ。
これは例えば、巡回中の警察官が、アラタの容姿を見て、職質に来るのだが、
職質に来た部分が、モノクロ映像になっていて、アラタの姿を見て、
一瞬止まるが、傷跡が消えているので、実際には職質に来なかった
という感じで、記憶に訂正が入っているのだ。
「あの時の、お姉さんが神夜さんだったって事なのか・・」
その後、マーレさんから、神夜月には、時間を戻って、
起きた出来事を変更できる、不思議な力があることを聞かされた。
「信じてもらえましたか」
どうやって治療したのか、ルナに付いた、咬痕は少しピンク色に
なっているだけで、綺麗に消えていた。
その傷跡を見ながら
「ああ、信じるよ。ありがとう傷跡を無かったことにしてくれて・・・
それで、神夜さんにお願いがあるんだ、もう少し前に、妹が襲われる前に、
僕も戻してもらえないだろうか」
「・・・同じ場所の同じ時間帯に何度も戻るのは、
世界が壊れる可能性があります」
メイドコスプレ美少女?のマーレさんが冷静な言葉で解答してくる。
「そうか・・」心底残念そうに、アラタが答えると
「アラタさまは、本当に自分の事より、他人の事を優先されるのですね」
ルナが、尊敬のまなざしで見てくる
「ああ、よく偽善者だと言われたりするんだけど、どうしても
人が傷付く姿を見ると、どうにかしたくなって、気が付くと前に
出ちゃってるんだ・・」
「マーレ、どうにかならない?今の私の行為を取り消して、
アラタさまを、代わりに過去に戻すとか」
「・・この宇宙も全ての生き物も、時間も全て、仏(神)様が、
念いによって創られました。
なので、アラタさまが、戻りたい時間を強力に念じて、
そこにルナさまの特別な波長のエネルギーを注ぎ込めば、肉体はムリですが、
意識だけなら戻れるかも知れません。
でもその場合、ルナさまのエネルギーが一瞬止まるので、
肉体として戻っているルナさまの行動が遅れて、
アラタさまに襲いかかる野犬に対処出来なくなる可能性が・・」
「僕が襲われたままで、傷が残るって事?それなら、全然構わないよ」
結局、アラタの強い願いに、ルナたちも折れ、アラタの意識だけを、
野犬事件の時に戻す作業が行われた。
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結論から言うと、野犬の恐怖で動けなかったアラタの意識に
20歳のアラタの意識が入り込み、ギリギリで、妹が野犬に咬まれる事を
防ぐことが出来たのだった。
一方、マーレの予想通り、ルナの動きが一時的に止まってしまい。
アラタはやはり野犬に咬まれ、消えていた傷痕が再び現われたのだった。
(しかし、前回よりは、小さく首から肩の筋肉の引きつりは無くなっていた)
「本当に、本当にありがとう。なんとお礼を言っていいかわからないよ」
「い、いえ、お気になさらずに。私がやりたくてやった事ですから」
「いや、でもいくらそうでも、痛かったと思うし、
何か俺にできることはないかな?お金とかは余り持ってないから、
あまり高価なものは、持ってこれないが、地球にある程度存在していて、
でもあなたの星では重要なモノなんかがあるのなら、手に入るように、
できる限り協力するけど・・」
「本当ですか、私に協力してくれますか、なら貴方の精子を採取させてください」
「ぶほ」アラタは、飲みかけていた水を、おもいっきり吐いた。
「姫さま!」マーレが慌てて、ルナを部屋の隅につれて行き、小声で
「そんなストレートな言い方は、地球では使わないんですよ」
「え、そうなの?じゃあどう言えば」
「それはですね・・・」と、耳元で、何かアドバイスをしていた。
結局、ベガ星で、数百万年前から、原因不明の突然死が多発し、
その対策として、地球に移住してきた元ベガ男性からの遺伝子を注入すれば、
それが防げるため、王家が責任を持って採取しに来ていることを説明された、
アラタは、少し恥ずかしいが、人命救助の一環だと思い、
精子の提出に協力することにしたが、今すぐの提供は、かんべんしてもらい、
見かけは小型の水筒のような容器を渡されそこに、
採取して持ってくることを約束したのだった。




