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003 ツトムくんとロボット電車

日本新ヒノモト・アラタは、小さい頃から、困っている人を見ると、

考える前に体が動いてしまい、助けに入ってしまう人間だった。


妹が、野犬に襲われそうになっている時もそうだが、いつも気が付くと

自分が前に出てしまっているのだ。その結果、ケガをしてしまう事も

多々あり、頬から首にかけての傷のように、後が残ることもあったが、

後悔はしていなかった。


しかし、妹の野犬事件では、野犬の恐ろしさに一瞬足がすくみ、

救済が少し遅れてしまい、妹にもアラタほどではないが、少し傷痕が

残ってしまったのだ。

そのため、あの時、自分の体が動かなかった事を未だに悔やんで

いるのだった。(もちろんその後からすぐに、剣道を習い始めたのだが)


「もっと、自分を大切にしろ」


「偽善者が、そんなに他人からの賞賛が欲しいのか」


いろいろな事を他人から言われ、無意識に前に出て人助けをする事を、

なんとか止めようとしたのだが、どうしても自分の行動が止められないのだ。


剣道を習い始めてからは特に、足がすくむことも無くなり、気が付くと、

無意識に前に出てしまっているので

(内心では、これが妹の野犬事件で出来ていればと悔やんでいる)

そんな場面に遭遇しないように、うつむいて歩いたり、フードを深くかぶり、

周りをできるだけ見ないようにして歩いたりもしたのだが、

かなりの高確率で、何故か困っている人に遭遇してしまうのだ。


そんな中で、読んだ司馬遼太郎の『竜馬がゆく』という小説で、

主人公の坂本龍馬が

「自分の命など、とっくに天に預けているさ、天命があるなら、

それが成されるまでは、生かされているだろう」というセリフに感銘を受け、

アラタも、いつ死んでもいいように、家財道具は最低限にして、

リュックの中には、「自分が死んだら、近くの火葬場で焼いて、

骨は散骨してほしい」という遺書と、火葬代まで入れていた。


そして、何のために、自分は生かされているのか、自らの天命、

使命をいつしか探し求めるようになっていた。


坂本龍馬のように、薩長同盟を結ばせて、大政奉還を促し、

日本の国政を変えるような、大きな働きをする天命ではないのは、

自分でも良く分かっていたが、それでも、自分の天命を考え続けていた。


自分の使命が何となく解ってきたのは、知的障害の子供達を引率して、

電車に乗って遊園地に連れて行くボランティアに参加したときだった。


彼らは、アラタの醜い傷跡には、無頓着な一方で、ボランティアに来た

アラタの本心を見ぬくような力を持っているようだった。

特に『山口努ヤマグチ・ツトム』という8歳の少年には、

本当に、アラタの本心が見えているのではないかと思う場面が時々あった。


そんな出会いから、アラタは、度々その子供達と出かけるボランティアに

参加するようになったのだが、不思議な出来事があった。


ある日、アラタが、バイト先で明らかに自分のミスで、失敗して、

叱られたことがあったのだが、どうしてもムシャクシャしてしまい、

誰かに八つ当たり気味な心境で、ボランティアに行った時は、

まるで「少し頭を冷したら?」と言っているみたいな目をして

なぜか、ツトムは、よって来なかったのだ。


また、あるとき、電車内で痴漢されそうになっている女性と男との

間に入って止めたのに、アラタの醜い容姿を見た女性に

「貴方もグルなんでしょう」と誤解された言葉を放たれて、

落ち込みながら、ボランティアに行ったときは、なぜか、

ツトムがアラタの頭をヨシヨシと撫でてくるのだ。


そんなツトムは、アラタが無意識のうちに、彼を守ろうとする心に

反応しているようで、今まで、誰に対しても敵意を向けるので、

サポートが非常に難しかったのだが、アラタからは離れないのだ。


そのような状況なので、この施設にボランティアに行った時は

アラタが自然に、ツトムの専属のようになったのだった。


ツトムは、電車が好きだった。

しかし、他人の肩が触れたり、前を横切ったりする、

ちょっとした行為に敏感に反応してしまい、時には相手構わず

殴りかかろうとする行為に、施設のスタッフは、対処できずに、

アラタがボランティアで来るまでは、ツトムは電車に、

ほとんど乗せてもらえてなかったらしい。


なので、アラタがマンツーマンで、ツトムを引率して、

電車に乗せてあげたときには、大興奮して、車内で飛び回ってしまい、

その様子を動画に撮られ、ネット上で、大迷惑行為として、

批難されたのだった。


*********************************


そんな中で、思いついたのが、小型の電車の自動運転システムだった。

なぜ、自動運転の車でないのか、自動運転の車は、グーグルをはじめ、

大手の企業が研究を続けているが、急な歩行者の飛び出しなどの対策が

難しく、開発が難航しているという。


そんな分野に素人のアラタが参入しても難しいだろうと言う理由もあったが、

一番大きな理由は、ツトムが電車好きだと言う事だった。


アラタが施設を訪ねると、ツトムは、いつも、部屋の隅の『ツトムコーナー』で、

電車の図鑑を見るか、プラレールの車両だけを持って、

床を走らせて楽しそうにしていた。


そんなツトムを見ているうちに、

(よし、他の人に迷惑がかからないような、自動運転のパーソナル電車を造ろう。

大きさは、そうだな、ツトムと俺と、数人が乗れて・・・

そうだ、ツトムは急にトイレに行きたがるから、トイレも付けて、

そうなると、キャンピングカーぐらいの大きさになるのかな?


こんな電車が、駅に行くと沢山並んで待っていてくれて、

先頭の電車に乗るんだ・・

車内に入って、行く先をタッチパネルで押せるようにすれば、

自動で動き出す・・

練習すれば、ツトムも行き先のタッチパネルを押せるかな?

前面展望だから、きっとツトムはかぶりつきで景色を見るだろうな・・

俺たちだけだから、いくらツトムが奇声を上げても

他の人に迷惑がかからない!絶対ツトムが喜ぶぞ!)と思ったのだった。


それからも

(このシステム、なんて呼ぼうか?「列車自動運転システム」?

ちょっと違うか・・

いろいろと調べていくと、倉庫や工場で、自動で荷物を運ぶ

ロボットが存在していた。

そうだ、『ロボット電車』略して『ロボ電』うん、いいかも!)とか


(坂本龍馬さんのような、「日本を今一度、洗濯して候」なんて

大きな夢ではないけど、ツトムのような子供達でも、人に迷惑かけずに、

自由に移動出来る乗り物、『ロボット電車』、『ロボ電』を

日本中に走らせることを、自分の天命、使命にしよう。)と考え


(『ロボ電」を開発するには、まずは自動運転技術を学ばなくては、

そんなシステムを研究している大学は・・

あった、神楽坂にある東京○○大学か、偏差値は、うっ、がんばろう・・・)

という感じで、アラタの猛勉強がはじまったのだった。


**********************************


そんなアラタの様子を覗き見していたルナは、


「素晴らしい考えだわ、さすが私のアラタさま!よし、さっそくAIを使って、

自動運転列車の設計データをアラタさまの脳に送り込んで、いえ、その前にまず、

大学に合格させるために、入試問題と解答を脳に送らなければ、

あ、でも入学金や授業料も必要ね、ここは日本で行われている、

『ジャンボ宝くじ』とか言うものを当選させて・・」


「ルナさま、落ち着いてください。そんな事をしたら、

アラタさまの魂の向上になりませんよ。地球の3次元世界は、

さまざまな次元(波長)の人が一同に介して、

しかも天上界や過去世の記憶を一時的に封印されているため、

手探り状態で、人生を生き、さまざまな人と出会い、

さまざまな経験を積んで、魂を進化させるための学校のような場所です。


心清く、真剣に努力している人に、多少のインスピレーションを

降ろすのなら構いませんが、入試問題の解答を降ろしたり、

宝くじを当てさせるのは、やり過ぎです!」


とマーレに窘められた、ルナは、ルール違反にならない程度の

インスピレーションをアラタに降ろして、影ながら応援するのだった。


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