029 京都の大改革
♪「まもなく、京都、京都です。今日も新幹線をご利用頂き
ありがとうございました・・」
車内放送が流れ、NR東海が満を期して投入したN700S形新幹線が、
速度を落とし始めると、アラタ達だけで無く、結構な乗客が降りる準備を始めた。
「2人とも、もうすぐ着くから、そろそろ手を離して貰えないかな・・」
アラタは、3人掛けの席の真ん中に座らされ、通路側からは、
黒髪だがエマ・ワトソンに似た妹のホタルが、窓側からは、
アン・ハサウェイに似たルナが、腕を絡めて、肩に頭をチョコンと乗せて、
うたた寝をしているのだ。
端から見ると、両手に華の状態なので時々
(あんな野暮ったいヤツになんであんなモデルさんのような女性が2人も・・)
(朝から見せつけやがって)と殺気のような気まで飛んでくるのだが、
当人としては、ロボット電車の運用の参考に成るかもと、ゼミの志持教授が
貸してくれた、『鉄道貨物の発展と衰退』という本が読み辛くて、
(何とか、両手は離して貰えたのだが、両方の肘から上を絡められていた)
しかたがなかったのだ。
通路を挟んで座っていたマーレさんが、2人を強引に引き離して、
降りる準備を促し、ようやく解放されたのだった。
事の始まりは、悪友の智弘が貸してくれた、京都を舞台にした、
SFラブストーリー「僕は明日、昨日の君とデートする」のDVDだった。
京都の北部を走る、叡山鉄道が美しく映っていると言われて、見ていたのだが、
何故か途中から、ホタルとルナもソファーの両隣に座って来て、もう一度、
最初から見る事になったのだ。
アラタとしては叡山鉄道が出ない部分は適当にスキップしながら
見ようと思っていたのだが、女性陣に止められ、結局2倍速など無しで、
じっくり鑑賞したのだ。
確かに、互いに好意を持つ主人公たち2人が、少しの時間だけしか
一緒にいられない事に切なさを感じたが、アラタからすれば、そもそも、
時間が相対的に逆に流れている世界なんて有るわけがないと思ったのだが、
マーレさん曰く、そう言うパラレルワールドがあってもおかしくはないらしい。
というか、アラタたちがやっている、過去に戻って、鉄道敷設の歴史を
少し変える行為も、もしかしたら、パラレルワールドに移動している
のかも知れない事だと教えられた。
「お兄ちゃんも、京都にいってみたい?」ホタルの問に
「ああ京都は、龍馬さんの終焉の地でもあるんだ。昔、中学の修学旅行で、
行ったけど、あの時は班別行動で自由がなく、定番の金閣寺や清水寺などを
めぐって、結局行けなかったんだ。
だから、またいつか行ってみたいかな。
でも、暗殺された地の旅館は残ってなくて、記念碑のみポツンと
立ってるって話だけどね」と呟くと、すぐに女性陣の話し合いが行われ
「今なら、紅葉も見れますよ」
「宿は、伏見の寺田屋にしましょう。アラタさんが喜びますよ。
寺田屋は、プレアデス系列なので、銀河同盟のよしみで泊まれるように
連絡しますね。
ベガの王家の名前を出してもかまいませんよね」
「映画の主人公達2人が入った、あの喫茶店も行ってみたいですね」
「そう、そして夜は、あのツリーのしたで、私も映画のヒロインのように
告白してもらうのよ!」
「えー、ルナ姉様だけずるい、私も告白してほしい」
「じゃあ順番でしてもらいましょう。最初は私が動画撮影しますから。
でも、私の時は、ホタルさんにお願いしてもいいですか」
「え、マーレさんも告白してもらいたいの?」
「当然です」と、いつの間にか、京都行きが決まっていた。
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「しかし、観光客が多かったな」京都に着いて2日目の夜、
京阪電車の出町柳駅の地下ホームから、淀屋橋行きの特急2人掛けシートに、
マーレと座ったアラタは、向かい合わせにした、ルナとホタルに話しかけた。
(新幹線で譲ったので、今度は私が隣ですと、マーレが腕を絡めてきた)
「元々、春の桜の季節と秋の紅葉の季節はNR東海さんの
『そうだ、京都、行こう』キャンペーンで、大勢来ていた所に、
近年の日本旅行ブームで、外国人観光客も、大勢来るようになりましたからね」
「でも、これじゃあ、地元の人も大変だろうな」
「通勤・通学用のバスが観光客でいっぱいで、
地元民が乗れないって話もありますね」
「まあ、僕らもその観光客の一員だけど・・でも、
これは何とかしてあげたいな」
昨日は、一日中、映画の主人公達が、デートした、順番に沿って、
三条大橋から、商店街や、喫茶店を周り(途中で少しだけ、
龍馬の暗殺された場所に立ち寄ったが、小さな石碑と写真入りの説明文が
有るだけだった)、夕方には伏見にある寺田屋という、
坂本龍馬がよく使っていた宿に、何故かキャンセルが
出たみたいで、チェックインすることが出来たのだ。
さっそく風呂にでも入って、龍馬さんを思いながら、ゆっくりしようとした
アラタだったが、日が暮れると再び、映画に出ていた、京都市内の植物園の
木の下に連れ出され、主人公の男子がヒロインにしたような告白を相手を
変えて、3回もやらされたのだ。
そして、今日も午前中は、また映画の舞台になった伏見稲荷に付き合わされ、
アラタが、宮本武蔵と吉岡一門が戦った下り松を見に行きたいと告げると、
『じゃあ、鴨川の飛び石でじゃれ合うシーンや、叡山鉄道の茶山駅ホームの
ベンチで、2人で語り合うシーンも撮りましょう』と言う事になったのだ。
鴨川の飛び石では、先日の雨の影響で、飛び石の上まで増水していたのが、
ルナ達が近づくと何故か、水が引き、渡れるようになったり、
茶山駅のホームでも、もう撤去されていた、ベンチが何故か出現し
(ルナがドヤ顔をしていたので多分、過去に戻って撤去を阻止したのだと思う)
アラタ達の撮影後、ちょっとしたニュースになったりしたのだった。
「アラタさまなら、どのように京都を改善しますか」
マーレが地下を走り始め、走行音に邪魔されないよう耳元で問うてくる
「そうだな、まず京都駅は、新東京駅のように、2階部分は7面の
島式ホーム14線は、全て在来線にして、山陰線4線、湖西線4線、
東海道線6線に分けるけど、直通も可能にする。
つぎに3階はコンコースで新幹線の改札口を置き、4階が島式ホーム5面で、
東海道新幹線6線、北陸新幹線4線にするかな。
あと、山陰線をはじめ、近鉄線も阪急や京阪のように、地下鉄化してしまう。
で、試してみたいのが、地下の荷物用ミニロボ電と、地上というか、
高架化した、
モノレール形ミニロボ電の設置かな」
「荷物用ミニロボ電と、モノレール形ミニロボ電ですか」
その後、カーブの多い京阪電車(ここも直線化と増線することになった)の
特急で、淀屋橋まで行き、少し歩いて、お初天神横の繁華街で、
大阪名物の串カツや、たこ焼きを堪能し、北新地にある、
琴座旅館というベガ系列の旅館に泊まることになっていた。
この琴座旅館は、豊臣秀吉が大阪城築城時に各地から職人を集めた時に、
薬屋兼、料理屋兼、旅館として、紛れ込んで開業して、
それから江戸時代末期までは、そのままの形態で続き、明治に入ってからは、
旅館業のみを行って、情報収集と精子の獲得に努めていたのだそうだ。
アラタが風呂から上がると、先程京阪電車内で、話した内容を、
マーレがまとめていた。
「すごい、もうまとめたんだ」
京都市内のオーバーツーリズムによるバス等の交通機関の
混雑暖和についての基本計画は
・NR京都駅を、新東京駅と同じように、3、4階に新幹線用ホームを造って
毎日の通勤、通学者と旅行者の動線を分ける
・山陰線(嵯峨嵐山まで)や奈良線(稲荷まで)近鉄京都線(竹田まで)の
地下鉄化やすでに地下化されている京阪は丹波橋の手前まで、
阪急は桂駅の手前まで地下化を延長し、空いた空間にミニロボ電を走らせる
ことになった。
・ミニロボ電は、軽自動車を改良した自動運転の乗り物で、3m程の高さに
渡されたモノレールの上を時速30km程で走り、約200mごとに設置された、
元バス停付近で分岐して、地面に降りてきて、
また登っていけるようになっていた。
・利用料金の支払いは、今のところは交通系カードのみ(定期あり)で、
ドア横のタッチスペースにカードをタッチしないとドアが開かない仕組みで、
フロント面か、後部座席の前のパネルから、行き先をタッチすれば、
ドアが閉まり、自動で動き出し、坂を登って3mの高さのモノレール上を走り、
目的地の元バス停付近から地面に降りて止まり、室内のカードタッチスペースに
タッチして、料金を精算して、ドアが開く仕組みである。
・元バス停で地面に降りた所で乗客が降りると、ドアを開けたまま、3m程進み、
そこで、クイック理髪店にあるような吸引機で、ゴミ等を吸い取り、
アルコールミストで消毒され、温風機で乾燥させられてから、
前方の乗車口に向かう仕組みになっていた。
・基本的には、どの元バス停にも、1~2台のミニロボ電が止まっているが、
足りない場合は、近くの停留所から駆けつけるようになっていた。
走行方向は、車と同じ、左側通行なので、大通りの両側にY字型の
ミニロボ電用のモノレールが設置されている。
・そのため、南北方面では、東大路通、川端通、河原町通、鳥丸通、堀川通、
大宮通、山陰本線痕(二条からは千本通と合流)、西大路通、葛野大路通が、
5m+5mの10mずつ道幅が広がっていた。
東西方面も同様に、久世橋通、十条通(鳥羽通)、九条通、七条通、五条通、
四条通、三条通、御池通、丸太町通、今出川通、北大路通、北山通も10m程、
拡張されていた。
・ミニロボ電の整備局は、梅商小路に出現していたが、ミニロボ電の製造工場は
国道1号を南に下った、巨椋池跡の干拓地に出来ていてたのだった。
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「どうですか稲林さん、身に覚えありますか」
「うーん、あまり覚えてないですが、この筆跡は私ですな、わかりました、
社長を引き受けますわ」
巨椋池に出来たミニロボ電製造工場には、『京都ロボット電車株式会社本社』
という看板が掲げてあり、その社長室には、会社定款が置かれており、そこには、
社長として、京都○ラミックを作り上げた稲林氏の名が書かれていたのだ。
また副社長には、同じく京都創業のゲームメーカー任天○の
大創氏が就任しており、NR貨物や、ダイハツ、スズキ、ホンダなどの
軽自動車メーカー、近畿車輛や川崎重工などの車両メーカー、
パナソニックや、シャープなどの関西系の電機メーカーなどが出資しており、
運転資金も、研究開発費も十分にあった。
「本当にいいんですか」
「はい、実は京都はじり貧なんですよ。今は観光客で賑わってますから、
余り目立ちませんが、人がどんどん減っているんですわ」
「人が減っている?」
「ええ、京都には、京都大学をはじめ、府立や市立大学がようさんあって、
人口147万人のうち、15万人が学生さん、10人に1人が学生の街なんですが、
卒業すると、みな、東京や大阪に行ってしまうんですな。
なんでやと思います」
「えーと、すみません解りません」
「彼ら、彼女らが満足する、就職先が少ないんですわ。だから任天○の
大創さんとも、若い人たちが夢中になれる、夢のある企業を何か
誘致できないやろかって、話してたんです。
この『京ロボ』の社訓、見てもえますか。
『健常者も障害者も、免許を持たない、子供も老人も、全ての人が自由に
移動できる乗り物を創って人々に貢献する』これなら、
多くの若者が入社してくれるんじゃないかと思うんですわ、
あと何年生きてるか解らん老人ですけど、最後のご奉公だと思って
引き受けますわ」




