028 神楽坂と日葵さんと藤見坂
皇居の内堀沿いや、神楽坂の赤城神社の桜が終わり、
新緑に変わる頃のある日の夜中、神楽坂一帯が光に包まれた。
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飯田橋から、外堀通りを渡り、赤城神社方面にに上って行く神楽坂は、
3m程道幅が広がったぐらいで、道自体にはあまり変化がなかったが、
その広がった部分に太さ1m程の3本の柱に支えられて、高さ5m程の所に
歩行者専用の坂道が出来上がっていたのだった。
そのスカイデッキは、外堀通りも覆っていて、歩行者は、飯田橋駅の西口を
出ると、あまり坂道を下らずに信号待ち無しで、そのまま、
神楽坂方面に行けるようになっていた。
道路に面したお店も、1階部分と3階部分に入り口があり、1階部分は、
お客さんより、宅配業者などの荷物搬入の方が多いい感じだった。
そして、スカイデッキと言おうか、新しい坂道には、見事な藤棚が、
赤城神社の入り口付近まで、約1kmに渡って続いていて、1階部分の坂を神楽坂、
3階部分の坂は、藤見坂と呼ばれるようになっていた。
また、3階部分の藤見坂には、中央付近に、遊園地にあるような、
4人乗りの小型のモノレール(吊り下げ式)が走っていて、
足が弱っている人向けに、赤城神社まで、片道100円
(子供は無料だが、子供だけの乗車は禁止)で乗れるようになっていた。
藤見坂は、赤城神社が右手に見える交差点で、右に曲がり、
赤城神社前で徐々に平地に降りる構造になっていた。
しかし、小型モノレールは、赤城神社からも右手方向に再び上がって続いていて、
白銀公園や新宿病院前を通って、飯田橋駅の東口まで戻って来て、
駅ビルの4-5階にあるメンテナンス工場で、充電や清掃などを行った上で、
再び、西口や東口から、出発するようになっていた。
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そして、例のごとく、トミーとマツの捜査官コンビから、問題無しとの、
お墨付きを頂いた、小型モノレールは、東京都交通局に新たにできた、
子会社に当る新宿区交通局が管理運営することになった。
(以前、上野動物園で、モノレールを運行していた職員と、
新たに新宿区から移籍された、若手の職員で運営されるようだ)
3ヶ月の訓練期間を置いて、先週から、一般向けに運行されたのだ。
「良い感じじゃないかな」
飯田橋駅の西口前には、一度モノレールに乗って見ようと、
多くの人が並んで待っていたのだが、駅ビルの4階?から、
次々に小型モノレールがやって来るので、それ程待たずに、
アラタ達も小型モノレールに乗り込むことができた。
大人の人数(大人1人の場合は子供が3人まで同乗できる)と、
行き先(赤城神社までの途中に3ヶ所ほど乗降できる駅?がある)を押し、
交通系カード(残念ながら、現金は使えない)をタッチして、
入金が確認されると、『出発します、ご注意ください』という
音声ガイドの後に動き出した。
向かい合う形で、アラタの横は今日はルナで、アラタの向かいにホタル、
ルナの向かいにマーレが座っていた。屋根は付いているが、窓が無いので、
雨は大丈夫だろうが、夏は暑くて、冬は寒そうだった。
「窓は付けなかったんですね」
「ああ、足利フラワーパークと同じように、
藤の花の香りが楽しめるかと思って」
「まあ、子供達だけでは、乗車出来ませんし、シートベルトも
付いているから大丈夫でしょう」マーレから、合格点を貰えたようで、
アラタは嬉しそうだった。
「ありがとう、ルナとホタルはどうかな」
「中央にこれだけのスペースがあれば、車椅子もベビーカーもそのまま、
乗り込めますから、いいと思いますよ」向かい合う席の間は、
車椅子やベビーカーがそのまま入れるようになっていた。
「藤の花が手に取るように見えるのはすごいよ。
でも、それ以外の季節はどうするの」
「じつは、この藤の花の管理は、『あしかがフラワーパーク』の人達に
管理して貰うことになっているんだ。
それで、パークから、お古の、LEDを譲ってもらっていてね、
そのセッティングもお願いしてあるはずだよ」
(やがて、記憶が二重線で引かれて、ここで成功を収めた、藤棚創りの会社が、
足利にフラワーパークを創ったとなるそうだ)
「すごい、じゃあ、季節外でも夜はイルミネーションが楽しめるんだね」
小型モノレールは、スキー場のリフトのように、下を歩く人にぶつからないよう、
スカイデッキのさらに上を走っている。
(モノレール下2.5m程で、頭上のモノレールに注意と柱に警告書が貼ってある)
そして、藤棚は少し高めの4.5m程で、左右にあるので、花の位置が、
乗客の目の高さぐらいになるのだ。
その手に取れるような藤の花と香りを楽しみながら、4人は、
アラタの設計した(実際は、別の人達の設計になっている)小型モノレールの
評価を楽しそうに話していると、途中駅から、1台のモノレールが合流してきた。
合流するときは、本線を走っていたアラタ達が通り過ぎると、
レールが変換されて、本線に合流するのだ。
「あ、」アラタは小さく声を上げた。
止まって、本線の合流を待つ、そのモノレールに、見覚えのある、
ご隠居さんと女将さん、そして旦那さん?と翔くんが乗っていたからだ。
アラタの声に、こちらは全員気が付いたのだが、この時間軸では、翔くん達とは、
接点がないため、向こうの大人たちはアラタたちを見ても、
何の反応も示さなかった。
しかし、翔くんは、こちらに手を振り
「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがと」と言ったのだった。
「え、翔、知り合いなの?」突然、翔くんが、アラタたちに挨拶したので、
女将さんが、戸惑いながら聞いている。
翔くんが「うん、モノレーレのおにいちゃんなの」と答えたため、
ぎこちなくも、女将さん、ご隠居さん、翔くんのお父さんも、
こちらに会釈をしてきた。
アラタたちも、遠ざかる翔くんたちに手を振った。
赤城神社で、下りると、今度は大きな荷物を持ってふらついている、
老婦人(この時間軸の藤子さん)を見つけて、アラタが荷物持ちを買って出た。
そして、前回と同じように、マンションまで運び、娘さんが麦茶を出してもらい、
屋上の庭園を見せて貰い、昔話を聞いて、別の部屋に続く廊下に出た。
廊下の絵は、戦前の神楽坂を描いた絵だったが、ケーブルカーではなく、
モノレールになっていた。
「あの藤見坂って、戦前からあったんですか」
絵を見ながらアラタが尋ねると、
「そうよ、あれは、私の祖父が、体の弱かった私の母のために、
東京都や鉄道省などを奔走して、創ったらしいの。
戦争中には、この辺り一帯も空襲で、焼け野原になった
みたいなんだけど、みんな、藤見坂の下に批難して、命だけは助かって、
お爺ちゃんにお礼に来たって、自慢してたな。」といいながら、
その横に飾ってある、古い写真を見せてくれた。
そこには、若い頃の、お爺ちゃん、日葵さん、そしてバンカラな格好をした
アラタや、昔の女学生の格好をした、ルナやマーレやホタルが写っていた。
「あら、アラタくん達、何処かで見たことがあると思ったら、
この写真の母の友達だった、学生さん達によく似てるんだわ。」
「ほ、本当によく似てますね・・・」
藤子さんの問に、本当に驚いたフリをしながら、マンションを後にした。
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それから、数ヶ月後、アラタ達は、ツトムの遠足時に、神楽坂の
モノレール乗車を提案して、藤見坂にツトムを連れて来たのだが、
本当に偶然?に、また、翔くんとご隠居さんにばったり出会い、
ツトムと翔くんが、すぐに友達になったのだった。
(お兄さん風を気取っているツトムが微笑ましかった)
そして、料亭から、急遽、色んな種類の『おにぎり』と『ジュース』が沢山届き、
遠足に来た施設の子供たちと楽しく、公園で遊んだのだった。




