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002  月は決断した

<< ベガ星の王城 >>


「どうでしたかマーレ、地球にいる大使館員と連絡取れましたか?

アラタさまを、生き返らせる事ができましたか?」モニターに映ったマーレに、

ルナは矢継ぎ早に問いかけた。


ルナは、あれから直ぐに、地球に向かおうとしたのだが、

王族であるルナの地球行きの許可など下りるわけがなく、それならばと、

地球の東京にある秘密のベガ星大使館(女王直轄の組織で、

一般のベガ星人は知らない)に緊急の連絡を入れても、

『こちらはベガ大使館です。現在は、営業時間外です。

ベガ大使館の営業時間は・・・』

という留守電メッセージが流れるだけだったのだ。


そこで、お母様にお願いして、王室専用高速宇宙船を使わせてもらって、

急遽マーレに地球に行ってもらったのだ。


「・・大使館員の方と連絡は取れました。ただ、『ヒーリングマシン』を

使用する許可が下りず、そこを何とかできないかと、お願いしている間に

24時間たってしまって、アラタさまの蘇生はムリでした・・・。」


「そんな、なぜ・・・大使を呼びなさい!」


マーレの話では、ベガ星女性陣の、肉体男性に対する偏見は根強く、

それは密かに地球に派遣されている女王直轄のベガの大使館員も同じで、

アラタの事故が起ったのは、地球の日本時間で、週末の夜のため、

勤務時間外で、24時間以内なら、50%以上の肉体が残っているかぎり、

蘇生できるという、『スーパー・ベガ・ヒーリング・マシン』を、

使用しなかったのだという。


「お久しぶりです、ルナ第2王女」モニターに現われたのは、

30代ぐらいの北欧系の金髪美女だった。

「なぜ、ヒーリングマシンを使わなかったの」責めるようなルナに対し、

美人大使は、怯むどころか、(何も知らない小娘が的な)すまし顔で


「お言葉ですが、ルナさま、『ヒーリングマシン』は、今の地球では

完全なオーバーテクノロジーで、その使用には、厳密な審査の上で

許可された時に限られています。

いくら王族からの要望でも、王女さま一個人の願望達成のためだけに

使用することはできないのです」と回答してきた。


「でも、イエス・キリストの復活では、使ったじゃない!」


「あれは、シリウス星からの依頼で、地球神ガイア様をはじめ、

銀河同盟の太陽系会議の承諾も得ていた案件です。

今回は、ガイアさまの許可も、銀河同盟の承諾も得ていませんよね。

この状況では、いくら王女さまの要望でも、使う事は許されないのですよ」


「く・・・、わかったわ、責めるような事を言ってごめんなさい」


「いえ、どうか、お気になさらずに、ルナ王女さま」

(ふん、小娘がわかったか的な)すまし顔で、美女大使がモニターから消えると、

入れ替わりに、マーレが映り

「大丈夫ですかルナさま?」と、こちらは、心配そうに問いかけてくる。


ベガ星人の大使の方が、人に冷たく、アンドロイドのマーレの方が、

気遣ってくれる状況にルナは疑問を抱きながら、

「ええ、大丈夫、ありがとうマーレ。地球まで強行軍で行かせてしまって、

ごめんなさい、帰りは急がなくていいから、2,3日程ゆっくりしてきて」と

返事をした。


「ルナさま、私はアンドロイドですから、そんな気遣いは要りませんよ、

直ぐに帰りますよ」とマーレは再びルナを気遣うように答えて通話を切った。


**********************************


「はあ・・」


「大丈夫ですかルナさま。また、ため息が出ていますよ」と

マーレが心配そうに声をかけてくる。


「だって、何だかやる気が起きなくて」

気遣ってくれるマーレに申し訳なさそうにルナが答える。


ベガ星への男性精子採取候補者だった、日本新ヒノモト・アラタ

事故死してから、一ヶ月が過ぎた。祖母や母は、ルナの悲しみなど、

気がつかないようで、早く次の候補者を

見つけなさいと、諭してくるのだ。


(こんなとき、地球の人たちなら、女性の親友だったら、一緒に泣いてくれたり、

男性の恋人だったら、抱きしめてくれるのかな)と

日本のテレビドラマやマンガを思い出しながら、密かに撮りためた、

日本新の幼い頃からの映像を見るのだった。


そこには、幼いアラタが、さらに幼い妹のホタル

野犬から守るために立ち向かい、その代償に頬から首に大きな傷痕を

負ってしまう映像。

「カッコイイ! 小さなサムライ!私の王子様・・」


目が悪いお婆ちゃんが、間違って赤信号の交差点に入ってしまい、

それを助けるために自分がケガをしてしまうアラタの映像。


「ああ、また自分を省みないで・・」


暑さで、具合の悪くなっていた、お爺ちゃんごとリヤカーに乗せて、

代わりにリヤカーを引いてあげているアラタの映像など、いろんな場所で、

いろんな人を助けるアラタの姿が次々に再生されていくのだ。


「うう、カッコよすぎる・・」アラタの姿についに、号泣するルナに、

またですかとティッシュを渡すマーレがいた。


ベガ星では、全ての雑用はアンドロイドが行っていて、

自らは、1日の内2~3時間程を、仕事として判断業務を行うだけで、

あとの膨大な時間を自らの余暇に使っていた。

なので、判断業務以外で、他人を助けるアラタの行動は、あり得ない行為だったのだ。


(この弱者を助ける行動ができる彼らを、野蛮人だと、

馬鹿にして本当にいいのだろうか、地球人は本当に、

すべてベガ星人に劣っているのだろうか、彼らから学ばなくてはいけないものが、

あるのではないかしら)


ルナの疑問は、徐々に増していき、そのことを、祖母や母に話しても、

「野犬など生存させているからそうなるのよ、全部ロボットのペットにすれば?」とか

「目が悪いなら、ヒーリング・カプセルに入ればいいのに」とか

「荷物を自分で運ぶなんて、なんて原始的な世界なんでしょう」と言われて、

感動を共有できないのだ。


もちろん、ルナも全ての地球のやり方に、共感できるかと言うと、そうではなく、

特にトイレ事情などは、自分には厳しいと感じていた。


ベガ星では、基本的に食事は、光カプセルを飲むだけで済ませるため、

トイレに行く必要はない。

たまに人工タンパク質などでできた、ステーキなどを地球と同じような食べ物を

食事として取ることもあるが、その場合も事前に、光変換カプセルを飲んでおけば、

腸内で、吸収できなかった食物も、すべて光に変換されるため、

トイレに行かなくてもよいのだ。


なので、日本はまだましな方だが、中国とか、他のアジア諸国のように、

あまり清潔ではないトイレ事情を見れば見るほど、光変換カプセルは、必需品で、

もし、地球に行くなら、できれば、光カプセルの製造装置も持って行きたいと考えていた。


(なんとか、母を説得して、地球に行き、もう死んでしまったが、

アラタを生き返らせられないか)とこの一月ずっと、悩んでいると


「ルナ様、先日王家の高速宇宙船に乗せていただいて気が付いたのですが、

あの舟はタイムマシンにもなりますよ。その機能を利用して、

アラタ様がまだ生きている時間の地球に行けば、

事故死を止められるのではないでしょうか?」と、

マーレがとても魅力的な提案をしてきたのだ。


地球文明より遙かに進んでいるベガ星には、当然、タイムマシンも存在していた。

しかし、シャットダウン病を除いて、ほぼ全ての病気を克服し、

ほぼ永遠の命を持つベガ星人にとっては、

タイムマシンは全てを壊す爆弾のような装置であった。


テロリストに限らずとも、誰かが過去に戻り、下手に歴史をいじってしまって、

もし現状の科学文明が存続しなくなる事になったら、大変な事になってしまうだろう。


実際にそうなりかけた事件が何度かあり、それ以降、タイムマシンの使用条件は

とても厳しく定められているのだった。


それは、ベガから遠く離れた地球においても、同様なのだが、抜け道が存在していた。

マーレが言うように高速宇宙船で、ワープするときに、少し出口を変えれば、

地球の過去の時代や未来の時代に現われる事が可能なのだ。


「その手があったわね。マーレ、ありがとう」

ルナは何かを決意した目で、マーレにお礼を言った。


**********************************


<< 事故が起る2年前の地球のある大学の研究室 >>


「本当に私の研究室で、いいのかい?日本新ヒノモト・アラタくん。

自動運転の研究なら、トミタ自動車とも共同研究を行っている

大原先生の研究室の方がいいと思うんだけどね」と志持実

(しもち みのる)教授は、

スラ○○ンクの安○先生のような、お腹を揺らしながら、

アラタの提出した、研究目標レポートと、志持研究室への所属希望票をみながら、

確認してきた。


アラタの通う大学では、希望者は2年生から、研究室に入れるのだが、

自動運転車だけでなく、大型ドローンを使った空飛ぶ車での自動運転システムも

研究している、大原真教授の研究室は、自動車企業の大手のトミタ自動車と

共同研究を行っていることもあって、学生や学院生から大人気で、

選考の課題レポートや面接もかなりハードルが高かった。


「いえ、僕のやりたいのは、自動車ではなく、電車の自動運転ですから、

志持先生のような、鉄道オタいえ、鉄道に詳しい先生の方が、

いろいろなアドバイスがいただけると思いまして」


それに比べて、志持実しもちみのる教授の研究室には、

Nゲージやプラレールが走り回り、研究室と言うより、

鉄道模型研究会の部室のようになっていて、ゼミの人数も

3年生に2人、4年生にも2人、学院生に2人と、かなり小規模の研究室で、

今年の2年生の希望者は、今のところ、アラタのみだという。


「まあ、確かに日本新くんの提出してくれた、研究目標は、

ウチの研究室向けといえば、その通なんだが、これ研究しても、

就職時の企業アピールには、使えないと思うよ」と

志持教授が確認してくる。


「はい、解ってます。でも、それでもこの自動運転のロボット電車、

『ロボ電』の研究をしてみたいんです」とアラタがハッキリと言い切った。


「決意は固そうだね、解った、日本新くん、君を研究生として受け入れよう」

志持教授がそう言い、アラタが頭を下げていると、研究室の扉が開き、

整った顔に長い黒髪の20歳ぐらいの美しい女性が入ってきた。


その人はアメリカのハリウッド映画女優、アン・ハサウェイの

若い頃によく似ているが、髪型が、いわゆる平安時代の

姫様カットだったので、何処かの貴族の姫君に見えそうな美しさだった。


「こちらは、志持先生の研究室でしょうか」


「そうだけど、君は?」


「私は、今度2年生になる、神夜月カグヤ・ルナと申します。

先生の研究室に入りたいと思って面接に来ました」


「あれ、そうだっけ、今度の2年生で僕のゼミを希望してるのは、

アラタくんだけだと思ってたんだけど・・・、あ、本当だ、

もう一人希望届が出ていた。僕はなにを勘違いしていたのかな?」


志持教授が、慌てて取り繕う中で、アラタは、邪魔にならないように会釈をして、

研究室をあとにしたのだった。


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