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第九話 王様の噂の真実

 

 招き入れられた部屋は小さな居間のような部屋だった。果実水を勧められ座るように促される。


 ‟ナディラ様は地方貴族のご息女で、後宮に来られてから二年以上になる側室だ"


 二年前の事件が起こってからも後宮を離れることもできず、かといって夜伽をする覚悟もできずにとらわれてしまっている可哀そうなお方だ、と侍従長は言う。


 “側室…”


 それが何なのかは何となくわかる。


 ‟お前は殊の外王に気に入られたようで私たちも驚いている”


 ‟はぁ、どうも”


 果実水にちびりと口をつけながら輝は上目遣いに侍従長をみる。そういうしぐさも品も色気もなく侍従長にしてみれば、なぜ王がこの娘を気に入るのか内心では首をかしげながら話を続けた。


 ‟少し王の話をしておこう”


 ‟あ、二年前のお妃様の話ですか?”


 “そうだ。シャフリヤール様が王になられてから後宮にたくさんのおなごが集められた。王は若く、美しく、明るく聡明なお方でな。シャフリール様の目に留まることを望むおなごでいっぱいだった”


 輝は何かモヤッとした気持ちになった。ハーレムの話を聞くとどうしても抵抗感がある。はっきり言って生理的に受け付けない。


 それが無意識に顔に出てしまったのか、侍従長は怪訝な顔をするが話を続ける。


 ‟多くのおなごたちの中でも王が初めて妃にしたファティマ様は有力貴族の姫で王とも小さいころから仲が良くて仲睦まじいお二人だった。ところが…"


 そのファティマがシャフリヤール不在の時に奴隷の男と不義を働いた。そこへ忘れ物を取りに戻った王が部屋に入ろうとしたとき『シャフリヤールと毎夜褥を共にするのが苦痛でならぬ。あの男の手技のつまらないことといったら。お前の方がいずっといい』と言うのを聞いてしまった。怒りに我を忘れたシャフリヤールはその場でファティマと奴隷を切り殺した。


 ‟それから毎夜女の人を一晩限りで殺したと聞きました”


 それに侍従長はため息をついた。


 ‟それは事実ではない”


 ‟え?”


 “妃と奴隷を殺したのは事実だ。そしてそれから王はすっかり女性不振になられておなごを拒否されたのだが、いつまでも、と言うわけにもいかない。王を説得しておなごを寝所に送ったのだ。だが、その、王にいろいろと不都合があってな。夜伽はかなわなかった。たまたまそれが性根の悪いおなごで翌朝我らを脅してきおった。王が女を抱けない、などと噂が流れたらどうなるか、と”


 あーなるほど。それは困るだろうな。王様の威厳丸つぶれ。


 ‟口を封じたのは我らだ。だが我らはその後も何日かに一度おなごを送り続けた。だがダメだった”


 その時の事を思い出してか侍従長の肩ががっくり下がる。


 ‟困ったことに後宮内で噂が流れ始めてその度に我らが噂を流した者達の口を封じた”


 ‟じゃあ、今流れてる噂は”


 ‟そう、王ではなく我らが行ったことだ。しばらくして王がそれに気づかれたいそうお怒りになられた。これ以上の殺生を止められ、その当時後宮にいたおなごたちには厳しく口止めをし金を持たせて異国に出したのだ。残っているのは少数の側室のみ”


 いろいろと政治的事情などがあり帰ることができない者達だ。さっきのナディラという女もその一人なのだろう。


 “でもどうして噂をそのままにしてるんですか”


 ‟王が望まれたことだ。あの頃後宮にはあいにくと欲深いものや野心のあるものが多くて、王の事情を知ると金品や地位を要求してきた。そのせいで王はおなごどころか人間全てを信じられなくなりすっかりお人が変わられてしまった”


 だから夜伽をするなら死ぬ覚悟がある者だけが来い、と半ば開き直ってしまったのだ。


 “でもシェヘラザード様が現れた”


 ‟そうだ。聡明でお心優しいシェヘラザード様のおかげで王はようやくお心を慰められたのだ”


 輝は頷く。


 ‟わかります。シェヘラザード様はきれいなだけじゃなく優しくて素晴らしい方です!”


 力説する輝に侍従長は目を見張る。


 ‟お前は…”


 ‟でもよかったー。王様が怖い人じゃなくて。だってどう考えても噂みたいに女の人を殺すようには見えないんだもん”


 俺様王様だけどね、とにこにこする輝を見て


 ‟お前はシェヘラザード様とは違う意味で王を和ませているのかもしれんな”


 と侍従長は呟いた。最近のシャフリヤールは機嫌がいい。昔に戻ったように思える時がある。それは自分達臣下にとっても喜ばしいことだった。


 ‟いやいや、私は何もしてませんよ。くだらない話をして寝てるだけ”


 “なんだと?”


 “え?”


 ‟お前、夜伽の務めは果たしてないのか?”


 直球だな。


 “やだな、してませんよー。初日に貧相と言われてから、その気になんないんじゃないですか?”


 こちらとしてはありがたいけど。


 ‟バカな。それなのに王はお前を毎夜侍らせてるのか、しかも朝まで”


 侍らせるって、言い方。


 ‟シェヘラザード様でさえ、朝まで共寝をされることはなかったのに”


 と言って侍従長はそのまま黙り込んでしまった。通常であれば王の夜の行為はきちんと記録されている。だが、この二年は王を腫れ物のように扱ってきたこと、そしてシェヘラザードはともかく輝の存在はかなりのイレギュラーですっかり職務を怠っていた。

 このままではいけない。侍従長は頭の中で対策を練った。


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