第八話 第五夜 かぐや姫のお願い
昨日の話の流れから思い出してかぐや姫の話をしてみた。
とりあえず、おじいさんとおばあさんがいて、たけの子から女の子が生まれて、輝いていたのでかぐや姫。そこまではいいんだけど、かぐや姫のお願いが思い出せないんだよね。
‟かぐや姫は自分がモテるのをいいことに言いよってきた男たちにいろいろおねだりするわけですよ。それがなかなか手に入らないものばかり。龍の持ってる七つの玉、とか”
それ以外は思い出せない。
‟あ、ネズミの皮でできた服とか石でできたどんぶり?”
‟それが貴重なのか?”
“さー??スペシャルなネズミとスペシャルな石ではないでしょうか”
いい加減誤魔化すのにも慣れて、いよいよ適当になってくる。
‟…”
‟思い出した。宝石でできた木の枝!”
“それは貴重だな”
“あとは燕の子?”
“?”
‟とにかく、結局誰もかぐや姫の願いを叶えられなかったから振られちゃうんです。でも、最後には将軍様?天皇様?日本の王様がかぐや姫にプロポーズするんです”
“おお。それを受けるのか”
‟残念なことにかぐや姫は実は月から来た人で、月に帰ってしまうのです”
“月に人が住んでいるのか。それで?”
“それでお終いです”
“めでたしではないではないか”
‟そういうお話なんです”
王様が不満そうな顔をするが、これは嘘ではない。
‟我だったら月になど行かせない”
‟その王様も邪魔するんですがそれでもかぐや姫は帰ってしまうんです。王様にもできないことはあるんですよ”
‟なんだと?”
無礼な、と言われるかと思ったがそのまま黙り込む。
益々不満そう。
でもこれはいい話だ。王様だからってなんでも欲しいものが手に入るわけじゃない事も学ばないとね。
‟我はこの話は嫌いだ”
王様はすねたようにぽつりと言った。
意外と子供っぽい。
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こうして日本昔話で数日乗り切りようやく一週間が過ぎたころ、王様の寝所から後宮に戻ってきて自分の部屋に入ろうとした輝はグイっと腕を掴まれた。若い女が険しい顔で輝を見ている。
誰?
きれいな服を着てちょっときつい顔だけど、美人。で、誰?
‟お前、どんな手管を使って王を誑し込んでいるの?”
“え?”
‟王は今でこそ恐ろしがられているがそれまではとても素晴らしいお方だったのよ。たった一夜でもお情けをいただきたいと思うおなごは大勢いた”
ああ、ハーレムの話ね。
‟二年前にあんなことがあってから王のお怒りが静まらず誰もが王を恐れるようになったが、それがなければ今でも王のお側に、と後宮の女たちは皆思っている。大臣の娘であるシェヘラザード様はまだしも、よりによってお前のような下賤で見栄えのしないものが王の寵愛を得るなど”
手、手が痛い。
“あの、離して”
失礼な言葉は見逃してやるから、手は痛いので放してほしい。
“言いなさい、どうやって王の機嫌を取っているの。まさか媚薬など使っているんじゃないでしょうね”
‟あたしは何もしてない。大体、そんなに王様のところに行きたかったら自分から行けばいいでしょ。シェヘラザード様みたいに”
あの人は死ぬ覚悟で王様のもとへ行ったのだ。
あたしは無理やりだけど。
輝の口応えにカッとしたのか
‟異国の奴隷ふぜいが!”
“うわ!”
いきなり突き飛ばされて輝は床に転がった。
“何をしているのです!”
その声に輝も女も振り返った。
“じ、侍従長様”
そこにはやや年配の細身の男が眉を顰めて立っていた。女は慌てて輝から一歩離れる。
“ナディラ様、元の身分はともかくこの者は今、王にお仕えしている身。傷つけたりすることはすなわち王の持ち物に傷をつけることになりまするぞ”
“は、はい”
ナディラと呼ばれた女は真っ青になる。
‟今の事は見なかったことにします。ご自分のお部屋にお戻りください”
そう言われて彼女は一瞬悔しそうに顔を歪めるが、何も言わずに立ち去った。
“ケガはないか”
と、手を取られて引っ張り上げられる。
“はい、あの、ありがとうございます”
“ついてきなさい”
侍従長はそう言うと身をひるがえして歩き始めたので輝は慌てて後を追った。