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第三十話 苛立つターヒル

30話に合わせるために29話すこし編集しなおしました。

 

 走り去る輝の後姿を見つめながらターヒルはしばらくその場に立ち尽くしていた。

 そしてまとわりついてくる女を乱暴に引きはがし、自分もホテルを出てただ行く当てもなく歩く。


 見つけた、と思った。何を?誰を?


 物心ついた時からいつも誰かを探していたような気がしていた。そして誰かに出会う度にもしかして、と期待し次に違う、と落胆するその繰り返しだった。そのうちそんな自分にうんざりし次第にどうでもよくなってその場しのぎの付き合いをくり返してきた。小さいころから日本に興味があり今回父が日本に来るというのでもしかしたら、いう期待を持ちついて来たがもう三週間近くいるのに結果は変わらなかった。自分の悪癖も変わらず異文化交流を理由に遊び歩いていたが、さっき輝の涙を見てどうしようもない罪悪感が襲ってきた。


 彼女と初めて会った時、その鎖骨の下にある傷に目を奪われた。弧を描いた三日月の形。そして顔を見た時の既視感。次に会った時輝はなぜか不機嫌だった。ターヒルの生まれや容姿の所為で今まで会った人間は皆好意的だったのになぜか彼女から良い印象を持たれていないようだった。それでも丁寧に大学を案内してくれたが、その後さっさと別れようとするので慌てて夕食の付き合いも頼んでしまった。もっと話してみたかったのだ。あいにくカネコという男の一緒に来て食事時の会話はもっぱらその男が間に入る形になってしまったが。だからどうしても二人で話をしたかったのにまた彼女は行ってしまった。何でこううまく行かないんだろう。


 さっきの彼女の涙と言葉。


『約束した』


『私だけを愛してくれるって』


 あれは俺が言った言葉ではなかったか?


 髪をかきむしり頭の奥にある何かを引き出したくて無性にイラついた。



 ‟笹川!”


 ホテルから出たところで輝は腕を掴まれて振り向くとそれは彩人だった。


 “彩人”


 ‟やっぱり笹川だ。びっくりしたよ、そんな恰好で。それにお前何で泣いてるんだ”


 ‟彩人こそなんでここに?”


 彩人の言葉に慌てて涙をぬぐう。


 ‟言ったろ、ここうちのホテルなんだ。俺、たまにバイトしてるんだよ”


 ‟ああ。そういえばその恰好”


 ホテルの制服を着ている。輝は急に恥ずかしくなる。こんな似合わないドレスを着て泣きべそかいて。そんな輝を心配そうに見て


 ‟エントランスで一緒にいたの大学に来てたドバイの御曹司だろ?なんかされたのか?”


 ‟ううん、違う違う。そんなんじゃない”


 それ以上説明をしない輝に無理強いすることなく


 ‟俺もうバイト終わったから飯食おうぜ。着替えてくるから待ってろよ”


 ‟え、ちょっと彩人!”


 連れていかれたのはターヒルと行く予定だったレストランとは違うがホテルの同じ階にあるおしゃれなイタリアンだった。


 ‟せっかくきれいなカッコしてるんだから見合うところに行かなきゃな”


 彩人は軽口をたたく。


 ”そう言われると何か複雑。これ金子さんに渡された仕事着みたいなもんなんだけど”


 すっかり落ち着いた輝は料理を平らげワインを傾けるうちに輝も少し饒舌になる。


 “やっぱり無理なのかなー”


 “なんの話?”


 彩人が促すと


 ‟会いに来るはずのない人を待ち続ける話”


 ‟どうして会いに来るはずないって言えるんだ?まさか”


 不倫か死んじまった人か、と思ったがそうは聞けず


 ‟ラクダに乗った王様の事か?”


 ‟何で知ってるの…”


 表情をこわばらせる輝に彩人の方が驚いた。冗談のつもりで言ったのに。


 ‟あ、いや、美由の奴からこの前聞いたんだ”


 ‟もう美由ったら”


 少し間を置いてから


 ‟バカみたいだよね、こんな似合わないカッコして”


 はは、と笑った輝の瞳から涙がこぼれた。


 “!”


 彩人はこぼれた涙に驚き、その美しさに驚いた。


 来るはずのない男を待ち続けるってもったいなさ過ぎるだろ。いやでも、じゃああの御曹司は?


 状況がよく呑み込めないながらも思わず輝の頬に手を当てて涙をぬぐってしまった。


 ‟げ、元気出せよ”


 あ、俺ってなんでこんな気の利かない言葉しか言えねんだろ。


 ‟ありがと。彩人、今日はホントにありがとね”


 輝は鼻をすすって微笑んだ。





 レストランの隅の方にある二人用のテーブルにいる輝と彩人を少し離れた観葉植物の陰から男が暗い目をしてみていた。




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