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第二十三話 第二十七夜 あたしはどうするべき?

 

 ‟これを渡すのを忘れていた”


 街に出かけた時に買った紅い石のペンダントだった。


 ‟王様、あたしはもらえません”


“なぜだ。なぜそうまで我の贈りものを拒む”


 シャフリヤールは怒ってはいないが困惑している。輝はごくりとつばを飲み込んで答える。


 ‟あたしは…もうすぐ元の世界に戻らなければいけないからです。満月の夜に”


 ‟お前はかぐや姫か”


 シャフリヤールが輝をじろっと見る。


 よく覚えてるな。


 ‟ふふ、確かに同じですね。でも、これは物語の話ではなく現実の話です。今から三日後の夜あたしは自分の国に戻ります。その時にこの世界の物を持ち帰らない方がいいのです”



 輝はこの世界に来た経緯を話した。


 ‟ではお前の祖父のプログラムとやらが正しく働けばお前は三日後に自分の国に戻ることになるのか”


 “そうです!やっと!”


 輝は努めて明るく言う。


 だから心配しないでください。

 あたしは自分の住むべき世界に戻る。あたしがいなくなればもう犯人探しもする必要がなくなるし。

 でないと困る!


 ‟戻ってほしくないと言えばここにとどまってくれるのか”


“え?”


 そんな選択肢ってあるの?


 ‟輝、行くな。お前を愛している。我の妃にしたい”


 ‟王様…何言ってるんですか?あたしの事なんて猫くらいにしか思っていないじゃないですか。貧相なガキだって”


 心臓がどきどきして口が震える。


 ‟初めて見た時はそう思った。だがお前と毎晩話をしていてお前の自由な心が愛しくなった。自分の事を卑下する癖もあるし素直になれないところもバカだな、と思うがかわいい”


 王様がそんな風に言ってくれるなんて信じられないくらいうれしい。ここに残って王様の傍に居てもいいのかな。


 赤くなって俯く輝の首にシャフリヤールはペンダントをかけた。


 ‟この前お前は焼きもちを焼いたのだろう?可愛かったぞ”


 ‟女が焼きもちを焼くなんて愚かだって言ったくせに”


 ‟お前が焼くのはかわいい”


 そう言ってシャフリヤールは輝に口づけをしてきた。


 あー恥ずかしすぎる。何言ってんのよ王様。

 だめだ、決心が揺らぐ。



 翌日侍従長に呼ばれた。その部屋へ向かう途中いつもの庭を横切るとそこはいつになくにぎやかだった。


 あ、王様。


 シャフリヤールが珍しく昼に後宮を訪れているらしい。護衛達が庭に詰めている。庭にしつけられた椅子とテーブルにシェヘラザードが赤ん坊を抱いて座っている。その横でシャフリヤールが穏やかな顔で赤ん坊を覗き込んでいた。シャフリヤールが何かを呟くとシェヘラザードが幸せそうに微笑む。


 それを見て輝は胸が重苦しくなり息が詰まりそうになった。急いでその場を離れて侍従長のいる小部屋に行った。


 ただでさえ落ち込んでいるのに、また夜伽の話かとげんなりしたが違った。


 ‟この前の砂漠の夜の件だがな。王は徹底的に犯人を突き止めるための取り調べをすると言っておられる。特に後宮内をな。その中にはシェヘラザード様も入っている”


 “まさか、そんなこと”


 さっき仲睦まじいシェヘラザードとシャフリヤールをみて苦しくはなったが彼女の不幸を望んでいるわけではない。


 “そうだ。シェヘラザード様の御父上は先代の王の時代から使えておられる内大臣だ。今回の事でシェヘラザード様も疑われているという事実を知れば大臣と王の関係はかなり悪くなるだろう”


 “だいたいシェヘラザード様がそんなことするとは思えません”


 ‟だが本人はそうでも周りが勝手にやったとしたら?それでも知らなかったで済ませられるとは思えん。王の今の様子ではシェヘラザード様ですら処罰の対象になるかもしれない”


 ‟そんな。そんなことがあっちゃいけない。シェヘラザード様はそのことを知ってるんですか?”


 ‟恐らくお耳には入っているだろう”


 ‟あたし、シェヘラザード様に会ってきます”


 ‟待て、お前が行って何を話すというのだ”


 “あたしの話をすればせめてシェヘラザード様を安心させてあげることができると思うんです。それに後三日もすれば犯人探しも必要なくなります”



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