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第十六話 第十八夜 お休み

 

 ‟え?今夜はお勤めをしなくていい?”


 街に出かけてから数日後、朝、侍従長に呼ばれまた果実水を振舞われながら輝は首を傾げた。


 ‟お前も連日のお勤めで疲れているだろう。たまにはゆっくり休みなさい”

 穏やかな口調で言われ


 ‟でも、あたしは”


 大丈夫、と言おうとして遮られる。


 ‟最近、王のご機嫌が大変よろしく穏やかだ。お前にはとても感謝している。しかしお前が夜伽の勤めを果たしていないという事実は大きな問題だ。シェヘラザード様の事を考えるとお前を抱けないのではなく王のご意志で抱いていないのだろう。王のお考えはわからぬがいずれにしても後宮の女の役目は王をお慰めして、そしてお子を身ごもることだ”


 ‟…”


 ‟今の王ならば大丈夫だろう。長い事シェヘラザード様にご負担をおかけしていたがお前もこうして無事でいる。残っている後宮のおなごたちも夜伽を承知した”


 話を聞きながら輝は鉛を飲み込んだように胃の辺りが重くなった。


 命がけの夜のお勤め。解放されてうれしいはずなのに。

 他の女の人が王様のところに行くっていうその意味は。


 “王には王の立場と大切な役目がある。お子を為すのはその中でも重要なことだ。十日以上も褥を共にして何もしていないという事実は見過ごせない”


 済まなそうに輝を見る侍従長。


 “や、やだな、侍従長様。あたしは何ともないですよ。よかったーこれで今夜はゆっくり眠れる”


 自分の笑顔が引きつっているのがわかったけど、だからってどうすることができるっていうんだろう。


 ~~~



 ‟…ザキーラではないのか?”


 困惑を隠さずシャフリヤールは平伏する侍従長に問う。

 その夜、王の寝所に来たのは後宮に残っている側室の一人だった。


 ‟あの娘には休みを与えました。王よ、ご理解ください。今の王にはシェヘラザード様がお生みになられた王子がお一人のみ。無礼を承知で申し上げます。どうか王としてのお役目を”


 ふい、と顔を背けるシャフリールに侍従長が言い募る。


 ‟あの娘の事をお気に召されたのならば、なぜお抱きにならないのです。用をなさない奴隷ならばこちらとしても処分を考えなければなりません。そしてもしあの娘が理由で王が他のおなごを近づけないというのであればあの娘は役に立たないだけでなく害になるとみなさなければなりますまい”


 ‟お前は我を脅すのか”


 ‟王よ、この二年の間王のお心が安んじられることを心より祈ってまいりました。傷ついた王のお心に付け入り欲を満たそうとする者たちを排除するために手を汚すことも厭いませんでした。それも王のため、ひいてはこの国のため。どうか、お立場をお考え下さい”


 ”…“


 シャフリールが顔を上げるとその先には頬を染め期待に満ちた目で彼を見つめる艶やかな女の姿があった。




 初めての一人の夜。ここに来るまで今までそれが当たり前だったのに。

 男の人と一緒じゃないと眠れないなんて絶対おかしい。十七歳のオトメが考えることじゃないよね。でも王様と一緒にいても全然色っぽい雰囲気にはならなかったし。最近は頭をなでられたりはしてたけど、どっちかって言うとペット扱い。


 今頃王様は他の女の人と…


 想像しそうになって輝は首をぶんぶん振った。そしてがばっとシーツを被って目を瞑る。


 考えるな考えるな、寝ろ寝ろ


 しばらくそうしていて、またむくっと起き上がる。物音ひとつ聞こえない夜。

 輝は自分の頬が濡れていることにも気づかずぼんやりと暗闇の中で座っていた。




 ほとんど眠らないまま朝を迎えた。

 ぼーっと庭を歩いていると。

 クスクスと笑い声が聞こえてくる。声のする方に目をやると数人の女性が椅子に座ってお茶を飲んでいるようだった。


 ‟ああ、カイラ様、うらやましいですわ。シャフリヤール王は本当に素敵な方ですもの。ああ、これから私達にも機会はありますかしら”


 “どうかしら?私、今夜もお勤めをすることになっているもの”


 “シェヘラザード様がいらっしゃるまでは何人もの人が殺されたと聞いて寝所に行くのが恐ろしくかったけれど、もうそんな事はなさらないのですね”


 “うふふ、大丈夫よ。私は気に入っていただけたと思うわ”


 真ん中にいる女性が女王然として微笑んでいる。


 王様はあの人と昨夜一緒にいたんだ。


 輝の胸がズキンと痛んだ。その場を離れ足早に自分の部屋へ戻って一日引きこもっていた。



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