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第十五話 第十五日目 アラビアの街―2


 何でも欲しいものがあれば言え。買ってやるぞ。

 輝が落ち着いたのでまた市場を見て回る。その間シャフリヤールが繰り返し同じことを言うので輝は困ってしまった。


 “いやだから本当に何もいらないんです”


 “なぜだ”


 輝の返答が気に入らなかったようで、シャフリールの雰囲気が剣呑なものに変わる。


 “王様がそう言ってくれるのはうれしいです。でも、欲しくないんじゃなくてもらえないんです。いろいろと事情が”


 タイムトラベルの大原則は極力旅先のものと接触しないこと。歴史を変えるような言動をしないこと。そして物を置いて来たり持ち帰ったりしない事、だ。異世界ならば歴史を変える、という点で問題はないだろうが、物を持ち出すのはどうなのかよくわからない。


 そう説明する輝をシャフリヤールは困惑気味に見た。輝が未来から来たという話にまだ半信半疑なのだろう。


 でもせっかく何か買ってくれるっていうんだから…


 “あ、あれが食べたい!”


 どうやらスィーツっぽいものを売ってるらしい。小さな焼き菓子の様なパイの様なものが目に入る。ようやく輝がおねだりをしたのでシャフリヤールも機嫌を直してそれを買ってくれた。


 あま!!


 小さなパイ生地の中にナッツが入っているのだがシロップがたっぷりかかっていてかじると口の中に濃厚な甘みが広がった。同時にバラの香りもする。


 おいしいと言えばおいしいけど、お菓子がバラの香りがするっていうのがどうもな…正直慣れていない。しかも歯が浮くくらい甘い。

 今欲しいのは…そうだ!


 ‟コーヒー売ってますか?”


 “ああ、あるだろう”


 すぐ目に入るところには売ってなかったがシャフリヤールが目配せすると先ほどよりも近くにいる護衛たちの一人が買ってきてくれた。


 これは…苦い。


 しかも泥のように沈殿物が底にたまっている。だがお菓子の甘さと合わせる相殺されて口の中が落ち着いた。

 その後も香辛料がいっぱい効いているケバブや丸いコロッケのような食べ物を堪能した。


 “おいしー!”


 もともと量は食べないが好き嫌いのない輝は宮殿で出されるものも抵抗なく食べていたが食べ歩きは特別感がある。


 ‟こんなものでいいのか?”


 うんうん頷きながら


 ‟連れてきてもらっただけでうれしいけど、こんなに食べ物がおいしいなんて驚いた”


 そういう輝にシャフリヤールもうれしそうに


 ‟満足したか?もう欲しいものや見たいものはないか?”


 と確認する。そろそろ帰る時間なのだろう。


 “今日はもう十分です。あとはやっぱりいつか月の砂漠を見てみたい、かな”


 と小さな声で付け足した。

 シャフリヤールは


 ‟考えておく”


 と答えた。



 その日の夜はシャフリヤールが国の事を話してくれた。


 ‟先々代と先代の王は領土を広げるのに力を尽くした。我はこれ以上領土を広げる気はない。その代わりもっと東西の流通を円滑にして交易を活発にしたい。そうすれば民の暮らしも潤うだろう”


 ‟王様も未来を考えているんですね”


 “そうだな、ザキーラのいうような突拍子もない未来は思い浮かばないがこの国の何年か何十年か先にこうなっていて欲しいと考えることはあるな”


 “王様、ちゃんと王様なんですね”


 “当たり前だ”


 と、王様はふんぞり返った。


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