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第十二話 第十一夜 ピーターパンの三角関係で喧嘩

 

 白雪姫、シンデレラ、眠り姫、と三大プリンセスの話をした後、王様にご所望されて男が主人公の話をすることなったのだがこれが意外に難題。


 王子様が主人公のおとぎ話って何?ある?

 せめて男の主人公を、と必死で考えて思い出したのがジャックと豆の木とピーターパン。だけどどっちの話も内容は覚えていない。かろうじてピーターパンのアニメ映画の所々の記憶があるだけ。ピーターパンの仲間のフック船長と妖精のティンカーベルだったっけ。


 ピーターパンにはガールフレンドと、友達のティンカーベルがいるんだよね。たしかティンカーベルは焼きもちを焼いてガールフレンドに意地悪をするんだ。


 ‟ピーターパンという永遠に大人にならない少年が人間の女の子と出会うお話です。二人は仲良くなるのですがピーターパンともともと仲のいい妖精のティンカーベルが焼きもちを焼くんです”


 ピーターパンはアドベンチャーな話なのだけど、なぜか三角関係の恋愛劇になる。ティンカーベルは人間の女の子を知らない場所に置き去りにしたり、ピーターパンとその仲間たちのために作った料理をダメにしたり。と、意地悪三昧。対して女の子の方は意地悪にも耐え、ティンカーベルにも優しく接するけなげな性格。ティンカーベルはとうとうピーターパンを怒らせてしまう。


 王様は首を振り振り


 “そのティンカーベルと言う女はおろかだな。嫉妬などしても仕方がないだろうに”


 そうのたまう。


 焼きもち焼いてお妃さまを殺したあなたがそれを言うんですかぁ?と、思わず口にしそうになるけどこの発言に命を懸けるほどあたしもバカじゃない。この一言であたしの十日間の努力が水の泡になってしまう。


 ‟でも、今まで自分が一番だと思っていたのに後から来た女の子に好きな男の子を独占されちゃったら焼きもち焼いて当然ですよ。それが女の子のかわいいところでしょ?”


 まぁ、恋愛経験なしでしかも可愛げがないあたしが言うのもなんだけど。


 ‟女の焼きもちなどかわいいものか。だいたい女が焼きもちを焼くこと自体がおかしいのだ”


 カチンときた。ヤダこの王様発言。


 “なんでそんなこと言えるんですか。女の子が焼きもち焼いちゃいけないんですか?男だったらいいんですか?王様はハーレム持ってるくせに。大体あたしの国ではどんな偉い人だって二股かけたり浮気したら犯罪じゃないけど、社会的に非難されますよ”


 こちらとしても王様の地雷を踏まないように気を付けてもかなり際どいところにいる。だけど納得いかない。


 ‟自分はハーレム持ってるくせに!”


 二度言ってしまった。


 ‟我に向かって…お前”


 ヤバい。でも止まらない。


 “そもそも王様とあたしは住んでる世界が違いますもんね。分かり合えるわけがないんですよね。すみませんでした”


 そう言ってから自分の言葉で気が付いた。


 あたしと王様ってホントに全然違う。男と女。王様と奴隷、いや女子高生。年も多分十歳は違う。異世界。国も時代も違う。共通点が一つもない。

 なんだか気が抜けて返って頭が冷えた。ちらっと王様を見る。

 怒ってる。かなり怒ってる。真っ赤な顔で必死に自分を押さえているのかもしれない。その努力を尊重しよう。


 ずりずりと後ずさりしながらベッドから降りて頭を下げる。


 ‟今日は部屋に戻ります。おやすみなさい”


 殺される前に速やかに退散。


 “ああ、出ていけ”


 ふい、とそっぽを向かれた。


 王様の部屋を出てから冷静になる。護衛たちが部屋を出てきたあたしを見て驚くが無視して自分の部屋へ向かう。


 いや、しかしなんでピーターパンの話から喧嘩になるわけ?そもそもピーターパンにそんなに恋愛要素ってあったっけ?そもそも子供だし。


 脱力して部屋に入ってごそごそと自分のベッドにもぐりこむ。


 王様、怒ってたよね。もしかしてとあたしってばすごい危うい状況に陥ってるんじゃないか?明日いきなり打ち首とか無いよね?


 輝は心細くなりながらも目を瞑った。



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